愚図

世界のすべて、なかったこと


距離感なんていつだってバグっているもんなんじゃないの、と思いながらひんやりした空気の中を空を見上げてあるく。
気分屋だとかいう下らない理由を盾になかったことにするなんて、全く不当だ、と思う。
それでも優しくされたり薄ぼんやりした身体の匂いを嫌いじゃないと思って、自分の身体から少しだけ香る薄ぼんやりした匂いを連れて帰るのはなんだか寂しい。
少なからずひと時でもその気にさせられたのならそれは及第点なのではないか、とも思うけれど、順序立てた真っ当な恋愛などというものがしたいわけでもなんでもないのだし中途半端な揺さぶりは失敗に感じて自己嫌悪。
こんなもの、寝るか全くそぶりもないかの二択しかないじゃないか。
続投はないかも、とか他の女に誘われていた話なんかを思い出すと胸糞悪いけれど、抱きしめた身体の暖かさは気持ちが良かった。
このひとがどんな声でどんな風に笑うのか知りたいだけなら、キスを迷う顔や目を閉じて呼吸をする振動を感じたことはやはり及第点と言わざるを得ない。
私の吸う煙草に必ず火をつける白い指の小さな爪を思い出しながら眠る。


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