第十三回ブログで感謝企画🌸春のスペシャル版🌠②
第十三回ブログで感謝企画🌸春のスペシャル版🌠①の続きです。
【前回のあらすじ】
主人公側の男四人組と、敵側の男四人組の体が入れ替わってしまった。――『これからどうするか、話し合おう』そうして敵の体で話し合いを始めた主人公側。話し合いの内容と言えば、〝他人の体で他人のパソコンだが、エ◯動画見て良いか否か〟であった。〝危機感がない〞。
――そして今回は、主人公側の体で過ごす敵側中心のお話。
―――――*
――これは散々であったその日の、翌朝の話であった。
そう、散々であったのだ。気が付けばなぜか、精神と体が入れ替わってしまっていたのだから。
そして〝入れ替わり〟と言うならば、勿論“彼ら四人”も困っていた訳である。瑪瑙、黒曜、黄玉、灰簾の四人もだ。
陽介たちがそうであったように、瑪瑙IN陽介・黒曜IN聖・黄玉IN純・灰簾IN雪哉となっていたのだった。
入れ替わる前、陽介たちは四人一緒に雪哉のアパートにいたので、瑪瑙たちもそのまま雪哉のアパートで過ごしていた。
驚きはしたが、彼らも既に自分たちに何が起こったのか、どの身体に誰がいるのか、それを理解した後であった。
…――昨夜はそうして眠りについて、朝が来た。そしてその朝にまた〝大変な事〟が起こったのだ…――
『はぁ、良く寝た~』と、心地良さそうに伸びをしながら、一番に目を覚ましたのは、陽介の体に入っている瑪瑙である。
雪哉の体に入っている灰簾と、聖の体に入っている黒曜、純の体に入っている黄玉はまだ寝ているようだった。
〝あれ?皆まだ寝てるのか?オレが一番早起きなんて、珍しいな~〟と思いながら、瑪瑙はサッとカーテンを開いた。
…――すると、〝西日〟が眩しい。公園で遊んでいた子供たちが、帰り支度を始めてる。向かいのカフェでは、学校帰りの学生たちがお茶をしている。公園に設置された時計台の針が、16時を過ぎている。
『えっ』と時計の針を二度見して、『んっ?』と言って振り返り、まだ起きる気配のない他の三人をまた見る。部屋の中の時計を見ると、やはり16時を過ぎていて…――〝えっ?!この体の時間の感覚、どうなってんの?!〟と、この体の持ち主の感覚に驚く。
〝そして他の三人、起きる気配まったくないんだが?!〟…――
瑪瑙は困惑した。灰簾はさておき、黄玉と黒曜が夕方まで寝ている事なんて、今まで一度もなかった。
〝えぇ?!し、死んでたらどうしよう?!〟
瑪瑙はサッと顔を青くした。
「灰簾っ灰簾起きてくれ!…」
瑪瑙は灰簾を揺さぶった。すると灰簾が『ん…?何だよ瑪瑙…』と、そう言いながら目を覚ます。
瑪「灰簾っ今夕方なんだ!なのに見ろよ!オウとコクがピクリとも動かねぇ!だっ大丈夫かな?!あ、あれ、し、死んでるんじゃっ…――!!…」
灰「はぁ?大袈裟な。オウとコクにだって、ずっと寝てたいって思う日があるんだよ」
そう言って、灰簾は順番に何度か、黄玉と黒曜を見る。そして瞬きをして、黒曜を二度見する…――
灰「いや、黄玉は寝てる。…で、黒曜は…――あれ…え?…コ、コク?…あれ、死んで、ないよな??…」
すると灰簾も、サッと顔を青くした。灰簾と瑪瑙は黒曜へと掛けよった。『コクー!!』『南ぁ月ぃ~~?!』と叫びながら体を揺さぶる。『おい!!』と言いながら、ペシペシペシッ!と頬を叩く。…――だが、起きない。なぜなら“聖の体”だからだ。そう、ソファーから蹴り落とされようと起きない、あの聖の体だからだ。
『コクちゃんっ』『南月っ』と瑪瑙と灰簾は必死に呼び掛け続けている。
…―すると、純の体で眠っている黄玉が、不快そうに表情をしかめ始めた。二人の声がうるさいからだろう…――
『死なないでコクちゃんっ!』『目を開けろ南月っ!』――依然、二人は呼び掛け続けている。――するとその時二人は、背後で黄玉が起き上がった気配を感じた。
瑪「黄玉っ!どうしよう?!コクが~!!」
灰「南月が目ぇ開かねぇんだ!!」
二人は振り返った。黄玉の方へと。すると…――
瑪灰「「っ?!」」
黄玉が『…お前たち…うるさいぞ…』と、地獄の底から響いてきたような声色で、お前は亡者でも背負っているのか?と言うような、重く黒い威圧感のようなものを漂わせながら言ってくる。不快そうにしながら、カッと開かれたその瞳の、恐ろしいこと…――
瑪灰「「ぅわぁぁ~?!」」
瑪「ッ?!ど、どうしたんだ!黄玉?!いつもよりも数倍怖いぞっ…!……」
灰「ッ…何だよ?!そんな顔で睨むなよ?!怖っ…!!」
だが黄玉はと言うは、同じような威圧感をまとったまま『黙れ…オレは気分が悪いんだ…オレの気分を害するようならば、その命、ないと思え…』と、魔王のような事を言ってくる。
瑪瑙と灰簾は『怖ぇ…』『あ、あの体の…せいなのか?』とそう話しながら、二人で縮こまっている。すると案の定…――
黄「…何だこの体は…まっったく起きられない……気分が悪い…苛々する…ここまで気分が悪いならもう…〝オレの気分を余計に害するお前たちが悪い〟のだと、そのように感じてくる……これは……〝低血圧?ないし貧血〟……」
瑪灰「「それだ!!」」
黄「黙れと言っただろう?…――」
瑪灰「「……すみませんでした……」」
聖の呪いのように“眠り続ける体”と、純の体に潜む黒幕“低血圧”に翻弄される彼らである。…――それは黒曜と黄玉の体に入っている聖と純が、『この体、シャキッと起きられた!』『体がダルくねぇんだ!』と、そんな話をしていた頃の話であった。
…――さておき、話は戻り『…オウ、コクが目を開かねぇんだ…』と。そう黒曜は依然、聖の眠り続ける体に支配されていた。すると黄玉が…――
黄「体と精神が別物なんだ。ならばその頑なに眠りたがる体よりも、コクの精神が上回る瞬間が一瞬でもくれば、おそらく目を覚ますだろう」
〝なるほど〟と、瑪瑙と灰簾も納得したようだ。瞬間的でも良いから、肉体を精神が上回ればいいのだ。
すると彼らは〝もうアレを言うしかねぇな〟と、頷きあった。
――そして瑪瑙が黒曜の耳元で『コクちゃん、もう夕方だよ?いつまでスッピンでいるの?…』と。
すると次の瞬間、息を吹き返したようにガハッと黒曜が起き上がった。そしてベッドから出て三人に背を向け両手で顔を覆うと『み、見ないでっ…』と。
――さおきてこうして、ようやく全員が起きたのだった。
『よし、じゃあ今日は昨日言っていた通り、必需品を買いに行こう。コクの化粧品とハット!』と、瑪瑙が言う。そうそれらは黒曜にとっての必需品であり、彼が心身共に健康でいる為の大切な物である。“常備薬と同じくらい大切である”。
〝常備薬だから!〟と、そこに体の持ち主たちの金を使う事に罪悪感はない。それぞれここに、聖と陽介と雪哉と純の財布ならある!
…―だがいざ“出掛ける準備を”と思うと、黒曜は黄玉の様子がいつもと違う事に気が付いた。
黒曜が『オウくんどうしたの?』と問うと、先程の低血圧ないし貧血の話になる。すると黒曜が、深刻な面持ちを浮かべる…――
黒「オウくんっ…辛いならそれは我慢しちゃいけないっ…だってその体と、いつまで付き合っていく事になるのか分からないんだよ?!」
黄玉は死にそうな顔をしながら『大袈裟な…』と。黒曜は『大袈裟なんかじゃないっ!!』と。
…すると、二人のやり取りを見ていた瑪瑙も、みるみるうちに顔色を悪くして、深刻な面持ちになった。そして『そんなに…悪いのか…?…』と。黄玉はまた『大袈裟な…』と。黒曜は『もう無理をするなっ』と。
…するとまた、〝…ホラやっぱり…〟と、瑪瑙が更に顔色を悪くする。瑪瑙は辛い現実から逃れるように、深刻な面持ちで首を横に振りながら後退りする…――そして絶望の表情を浮かべながら『…ソレ死ぬ…のか…?…』と…――。
本気でそう言っている様子の瑪瑙を眺めながら、灰簾も〝は?瑪瑙、さすがにそれは大袈裟なんじゃ…〟と、そう思っている。
黒「オウくん、無理しないで!」
言い聞かせるようにしながら、黒曜が両手でギュッと黄玉の片手を握る。
瑪「もしその体が死んだら、黄玉はどうなるんだっ!まさか、その体と一緒に…――嫌だ!!黄玉ッ…―!!」
叫びながら黄玉に駆け寄って、瑪瑙は黄玉を抱き締めようと…――だが、『ちょっ…だからお前は大袈裟だ…!』と、片手で黄玉に顔面を押さえられて突き離される。
そして黒曜は涙ぐみながら『オウくん無理しないでくれっ…まずはその体をどうにかしよう!低血圧を改善するんだっ!』と。そして黒曜は、そこで暇そうにしている灰簾へと向き直る…――
黒「レンくん早く!低血圧ないし貧血に良い食べ物を調べて!」
灰「あ~、はい…」
『はい、はい…』と頷きながら、灰簾は黒曜に言われたように調べる為、雪哉のパソコンを開いた。すると深刻な面持ちのまま、瑪瑙も灰簾の隣にやって来て、一緒にパソコンを眺め始める…――
そして灰簾は『えーと…“低血圧 貧血 改善 食べ物”』と、検索しようとそうキーを打っていく。すると手元が狂い、パソコンの検索履歴を出してしまう。灰簾と瑪瑙は思わず検索履歴を二度見して、パチパチと瞬きをする…――
灰瑪「「………。」」
灰「……。はい。えーと…“低血圧”…」
瑪「黄玉!今調べてあげるからな~!」
――〝なぜエ◯動画の検索履歴がねぇんだよ!!〞と、騒いでいたあちらの四人組とは打って変わって、◯ロ動画の検索履歴を華麗にスルーし、見なかった事にしてあげた灰簾兄さんと瑪瑙兄さんであった。
――それはちょうど、昨夜柘榴の登場にビビり“煩悩と戦います”と宣言してしまった雪哉と陽介が、『オレも陽介も灰簾も瑪瑙も、なんちゃら時代の俗世から離れた坊さんじゃねぇんだよっ!誰もソコ目指してねぇんだよっ!ならエ◯は罪じゃねぇんだよっ!』『他人の体だからって、極端に遠慮する必要なんてやっぱねーよ!!オレとユキ、何を目指して瑪瑙と灰簾に遠慮してんだよ?!オレらは仙人にでもなんのかよ?!違うだろうがぁ~…!!』と、早くも煩悩との戦いを止めようとしている頃の話であった。
…――そして灰簾と瑪瑙はパソコンで低血圧ないし貧血に良い食べ物を調べている最中だ。
灰「てか男も低血圧とか貧血になんの?」
瑪「何だその質問?!偏見っ…女の娘の方がそうなりやすいってだけの話だろう?!」
『あ、そういうこと』と頷きながら、引き続き調べていく…――
灰「低血圧、貧血…良質なたんぱく質、肉、魚、卵、乳製品、大豆、“鉄分”……これ共通。低血圧チェダーチーズ◯。……貧血、カフェイン✕。低血圧、適度なカフェイン◯。ッ?!何だと?!…おい黄玉、貧血と低血圧どっちだ!こいつらカフェインだけ矛盾してやがるぞ?!」
黄「コイツの体の事など知るか…症状が似ていて分からない。…構わない。飲み物くらい好きな物を飲む…あぁ…自分の体が恋しい…この体、裸眼じゃ視界もぼやけるし…」
瑪「っ?!何だか大変そうだなっ……――コクちゃ~ん!!ひじきと大豆の煮物、レバニラ、ほうれん草と卵のスープ、ヨーグルトとかが書いてあるよ~!!」
黒「分かった!!オウくんっっ…全部作ってあげるからねっっ!!…」
黄「……いやそれ…大切な娘が出来たら作ってあげろよ…なぜオレだ?悲しくないのか?…」
黒「何も悲しくないよっっ…オウくんの為なのに悲しい訳がないだろうっ…」
〝ぅっ…コクは何ていい子なんだっ…〟と、パッと両手で顔を覆って涙ぐむ幼馴染み男三人。…そしてその後に〝この子キレると一番怖いけど…〞と、ぴょっと涙が引っ込む。
――さておきこうして、“入れ替わり”という訳あって、純の深刻な低血圧を救うべく、敵のお兄さんたちが立ち上がった…―!…―それはちょうど彼らと入れ替わった落ち着きのない年下四人組が、ジャンクフードばかりをお兄さんたちの体で摂取しながら、バカ騒ぎをしていた頃の話である…――
――黒曜が必要な食材のメモを書いていると『オレが買ってくるよ』と、そう言って瑪瑙がメモを取った。
黒「メェくん!!」
瑪「コクは待っててな!あ、ついでにコクの必需品も買ってくる?!」
黒「オレのはいいよ。ありがとう。オウの為にも寄り道せずに真っ直ぐ行ってきてくれ」
すると『コクがそう言うなら。…―じゃあ、すぐに戻る!!』と、瑪瑙はメモを片手にバッと部屋を飛び出して行ったのだった。
黒「メェくーん!頼んだよー!」
黄「……大丈夫か?アイツ、方向音痴じゃなかったか?」
黒「っ?!」
〝そうだったぁ?!〟
灰「あと瑪瑙に“寄り道せずに真っ直ぐ”とかって言葉は禁物じゃなかったか?〝直進〟しちまうから」
黒「っ?!」
〝そうだったぁ?!〟
黒「どうしよ?!行っちゃった…!こういう時のメェくん、音速並みに足早いんだよね…」
灰「…――任せろコク。入れ替わってるから、今のアイツ人間だ。音速では走れないだろう」
黄「気が付いてなかったのか?メェは元から人間なんだぜ?」
『メェーメェーうるせぇんだよ!日々モコモコのヤツが頭から離れない……――ったく!オレがいないとダメなんだ!』と、灰簾は瑪瑙を追うべく、牧羊犬の心の代弁のような事を口走りながら、部屋を飛び出して行くのだった。
…――そして思った通り、道が分からず十字路の前でまごまごとしているメェを見付けた。そしてこれも思った通り次の瞬間〝直進〟しようと、意を決したようにその方向を眺め始めた…――
灰「コラッ!メェー!!そっちじゃねぇーよ!!昨日場所確認したスーパーに行くんだろう?!右右右ー!!」
瑪「わっ?!びっくりした…?!レン何だか怖いぞっ…」
灰簾は走ってこちらを目指しながら『右右右ー!!』と気迫と共にジェスチャーを出してくる。
若干気迫にビビりつつ『右ね』と瑪瑙は右へ…――
灰「コラッ?!信号見ろっ!ココ牧場じゃねぇーんだよ?!自動車という鉄の塊が走ってるんだぞ?!」
『…―ったく危なっかしいなぁ~!オレがいないとダメなんだ!』と追い付いたメェの隣で灰簾は足を止めた。
瑪「灰簾ありがとな~!前世ボーダーコリーか何かか?カァッコいい!!」
『お前の前世は羊な?』『まさかオレたち、前世でも出会っていた?!』『コクとオウが羊飼いな?』『皆仲良しな訳だぁ~!』…――さておき、灰簾が来たならもう迷わないだろう。二人はスーパーを目指すのだった。
…――こうしてお使いを済ました二人はアパートへと帰って来た。『今帰ったぞ!』とバンと扉を開いた。すると…――
灰瑪「「え?!」」
二人は冷や汗をかいた。部屋には、チョキチョキチョキ・サーー…――と言う、不気味な音が響いていた…――
二人は生唾を飲み込みながら、部屋に座った黒曜の背中を眺める…――するとまた、チョキチョキチョキ……と…――コクが何かを切っている……
〝何々?!怖っ…〟と、答えを求めるように、二人はベッドに寝転がっている黄玉を見た。すると黄玉が『体の奇行が止まらない…』と。
二人は恐る恐る黒曜へ近付き、彼の手元を覗き込む…――するとボーッとしながら、黒曜がひたすらハサミで新聞を細長く切り続けている…――
瑪「コ、コクちゃん?…何だか……え?何かに…取り…憑かれてる…?…」
黒曜は何とも答えない。やはりボーッとしながら、新聞をチョキチョキしている。…そして続いて、それを輪っかにして繋ぎ始めた…――
灰「南月っ!しっかりしろ…!…気を強く持てっ!…」
『南月っ』とパシパシパシッと黒曜の頬を叩く。するとフッと、彼の瞳に光が戻った…――
黒「はっ?!オレは一体何を?!なぜモロクロのパーティー輪っかを作っている?!縁起悪っ…また体の奇行に操られてしまった…―!!」
どうやら彼は、“考え事をしていると、無心でひたすら何かをし始める”という、体の持ち主の奇行と言うべき癖に操られていたようである…―
灰「ぅわっ稲葉 聖の体…怖っ!!…」
黒曜の精神を食いつくすような勢いの聖の体に恐怖を抱く四人であった。
――さておき、『材料買ってきたよ』と黒曜に食材を渡す。『オウくん、待っててね!』と黒曜がキッチンでスタンバイする。すると…―
瑪「なぁコク、これいる?一応買ってきたんだけど…“料理酒”」
黒「…料…理酒…?…酒…酒…――」
瑪瑙が『あ、うん。酒』と。すると次の瞬間、バッ振り返ったと思うと、黒曜が凄い目力で『〝くれ!!〞』と言ってくる。『え?あ、はい…』と言いながら料理酒を渡す瑪瑙。すると…――
瑪「ッ?!ちょちょちょっ…―コク何してんの?!ダメダメダメッ…!…」
“料理酒”だと言っているのに、ダイレクトに瓶ごと黒曜が酒を飲み始めた。そして『コイツの体ザルだぁ…!飲むの、止まんねぇ…!』と。
すると黄玉も『コラコラッ…止めろっそんな飲み方をしたら急性アルコール中毒になるぞっ…自殺?!』と言いながら止めに入った。
黒曜から酒の瓶を奪い、それを瑪瑙に返す。すると瑪瑙が『オレが飲んじゃうよ?』と言って一口飲んだ。そして〝飲んじまえ〟と耳打ちして、それを黄玉に返す。すると黒曜が飲まないようにと、黄玉も何口か飲んだ。そして最後に『灰簾!』と灰簾に残りを渡す。そして『はいはい』と言いながら、雪哉の体で灰簾が酒を飲む…――瞬間、フラッ!!バタンッ!!と、毒でも飲んだような勢いで灰簾がぶっ倒れるのだった。
瑪黒黄「「「レ~~ンッ…?!」」」
三人は大慌てである。『え?!毒?!』『いやレンは最後に飲んだ!』『じゃじゃあ…体質のせい??…』と、瑪瑙と黒曜は話している。…――だが次の瞬間、今度は黄玉が『お嬢さんっ…しっかりして下さい!…怪我はしていませんか?!』と、とち狂った事を述べながら灰簾の事を抱き起こす、と言う奇行に走り出す。どうやら純の体で酔うと、誰でもこうなるらしい…――
〝ぅわっコイツらの体、怖っ…!!〟と、顔を青くする瑪瑙と黒曜である。そう皆、染み付いた体の持ち主の奇行に操られているようである。
――そしてその頃の聖、陽介、雪哉、純は…―
純「聖っだから言っただろうが!お前の感覚で飲んだら黒曜の体が持たねぇって!」
陽「っ…聖はさておき……黒曜さんの体っ…大丈夫ですかぁ~?!聖が黒曜の体を殺したぁ~?!」
自分の体と同じ感覚で酒を流し込み、聖が黒曜の体を酔い潰したところである。聖は人の体を通して、人生で初めて酔ったと言う事だ。酔い潰れてぶっ倒れている。
そして雪哉は…――
雪「あぁすげぇ!灰簾の体だから、酒が飲めるぞ!」
陽「ユキは良かったな」
雪「あ、けど何だかちょっと…フワフワする…あ、これ、灰簾もあんま酒強くねぇや…残念だ…」
純「酒を味合わせてくれた灰簾の体に対して“残念だ”って…お前失礼だろうが…」
陽「じゃあ純は黄玉の体に感謝してるんだな!ほらアレ!純気にしてたもんな!酔うと女に無駄に優しくしちゃう体質~!」
陽介はニコニコしながらそう言っている。そんな陽介を眺めながら、純と雪哉は『陽介は飲んでも変わらねぇよな』『瑪瑙の体も飲んでも奇行に走らないみたいだな。良かった良かった』と。…――だが、次の瞬間…――機嫌が良さそうにニコニコとしていると思ったら、何もない宙を見ながら陽介が『…なぁお願い…キスして…』と。二人は耳を疑い…―高速で瞬きをしてから陽介を二度見する。するとやはり『なぁ』と言いながら、誰もいない宙に向かってせがんでいる。
雪「ぅおわぁ~?!飲んだら瑪瑙の体がキス魔になったぁ~?!」
純「陽介~?!気を強く持て~?!キス魔な体に精神力で打ち勝て~?!てか、そこに誰もいねぇぞー?!怖ー!!」
〝ホレ!クッションにでもキスしとけ!〟と、陽介にクッションを持たせる。
…―すると嬉しそうにクッションを抱き締め顔をうずめながら、ゴロゴロとし始めるのだった。
『…じゃれてる何かの動物みたいだな…』と、唖然としながら陽介を眺めている二人である。
純と雪哉はため息混じりで顔を見合わせた。〝やれやれ、今正気なのはオレらだけか〟と。…―だが次の瞬間、雪哉が『さ、酒の入った灰簾の口が…“柘榴”と名前を呼びたがる…ヤバッ…あの人姉ちゃんじゃなかったのか…??…』と。すると純も『それ、やっちまったな…』と。二人は深刻な面持ちで顔を見合わせる。そして…―
雪純「「ぅわぁ極度のシスコンだぁ…」」
やはり、何も分かっていない二人であった。
そして雪哉は胸に手を当てながら『ダメダメッ姉ちゃんだっていつかは結婚するんだぞっ早くシスコン卒業しろっ』と、灰簾の体に言い聞かせている。
雪哉はそうして言い聞かせているし、陽介は瑪瑙の体のせいで、クッションを抱き締めながらご機嫌だ。聖は黒曜の体で酔いつぶれている。…――〝仕方ねぇなぁ…〟と、純が聖の介抱をするのだった。〝聖はさておき…黒曜の体が心配だ…〟と。
――それは何だかんだバタバタとしながらも、あちらで聖の体に入った黒曜が、華麗なフライパンさばきで料理を完成させた頃の話であった。
そしてその頃、雪哉の体のせいでぶっ倒れていた灰簾も息を吹き返す。
するとその時、雪哉のスマートフォンに、昔関わった女仮名A子から電話が掛かってくるのだった。『あ?』と言いながら、雪哉の体で電話に出る灰簾。すると…――『コノ野郎~!!呪ってやる~!!私の気持ちも知らないで~!!キェーー!!』と、凄い声が聞こえてくる。
スマートフォンから響いた女の奇声に、ビクッと肩を揺らす四人であった。
〝ぅわ~灰簾が出ちゃいけない電話に出ちゃったぁ~?!〟と、他の三人は顔を青くしている。
だが灰簾はポカンとしながら、目をパチパチとさせている。そして『あ?私の気持ちって?』と。女は『愛してたのに持て遊びやがって~!!』と。〝あ~、はいはいはい〟と灰簾は頷いている。すると…――
灰「…―愛せた夜は幸せだったよ…もう一緒には、いられねぇけど…――」
瑪瑙、黒曜、黄玉は〝ん?!勝手なことを…?!〟と。
女は〝ぇっ?!そ、そんな風に…感じてたの?…〟と。
灰「あーあ。一緒にはなれないなら、あんな夜が人生で一番幸せだったぁ……はぁ~…幸せになってな…」
女「ぁっはい…わ、私も…人生で一番幸せでした…す、素敵な思い出です…あ、ありがとうございました…あい…愛してました…と、取り乱してしまいごめんなさい……じゃあ、さようなら…幸せに…――」
すると呆気なく、プツッと電話が切れるのだった。
灰簾は『ふぅ…―オレ、雪哉に謝礼貰おうかな?…――』と。『まぁそれだけの働きはしたと思う…!』と瑪瑙。
――雪哉が灰簾の体に言い聞かせて慰めている頃、灰簾が雪哉の過去の泥沼異性関係を、後味よく片付けていたという訳である。
…―そしてそれからかれこれ、灰簾はまるで“後味よくサヨナラさせるのが仕事の人”かのように、次々に仮名B子、C子、D子…――etcと片付けていくのだった。本気で謝礼を貰いたいくらいである。
そしてそんな様子を黄玉、瑪瑙、黒曜は、レバニラを食べつつ、真顔でパチパチとしながら眺めているのだった。〝え、何、レン…お前そういう仕事の人だった??〟と、思いながら。
そして灰簾はまた〝ふぅ〟と言ってスマートフォンを置き『まったく、オレと入れ替わってラッキーだったな~?』と、ドヤッとしながら言っている。
〝アイツ、別れさせ屋みたいな事に達成感を感じてドヤり始めたぞ?!〟とぎょっとしている瑪瑙と黒曜と黄玉であった。ドヤッとしているが、灰簾のやっている事は雪哉の為でしかないスーパーボランティア活動である。
――こうしてまた雪哉たちは、敵のお兄さんのお世話になっている。
――さぁ、こんな生活は、いつまで続く?彼らは無事、自分の体に戻れるのか?!…――③に続く!!③は4/7中に公開予定!
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