完結、おめでとうございます.゜

 恋愛は理屈じゃない。読み終えた今、それをあらためて突き付けられた気がした。
 恋は路傍の花。劉備玄徳の言葉をふと思い出しました。今回、ツバキ、藤、菊、の三つの花が出てきて、なんとなく自分の頭の中が勝手に、その言葉に結び付けたのだと感じています。劉備の言った「恋は路傍の花」という目線がトーマさんの心の中のようで、そして何より、その "花" がツバキのような気がして堪らなく胸が締め付けられました。二人の心理戦も楽しめて、ドキドキが止まりませんでした。
 暗闇で惹かれ、溺れていく。恋愛は虜にされた方が負け。全ての登場人物が絡むことのない想いを胸に抱えていたこと。そのズレが本当に絶妙で、巧みで。だからこそ、痛くて、苦かった。現実世界でも決して交わることのない気持ちって沢山あると思います。それが繊細に現わされていて、辛いはずなのに、その気持ちさえも愛おしく感じていました。私も良い意味で、なんだか堕ちてしまったような心地になっています。本作品は、冷たくて真っ暗闇なのにも関わらず、ある意味、温かい光として私の前に現れ、私をこうも虜にしてしまいました。一度触れたらもう後には戻れない、そんな危うさも孕んでいて、それだからか、ページを捲る速度は減速するばかりか、どんどん速くなっていきました。
 リアリティー溢れる世界観と共に、実際にどこかにいるのではないかと思わせるキャラたち。どっぷり浸かるしかない物語で。また、ところどころに出てくる非常用漢字の響きが堪らなく好きでした。繊細な心情と描写表現に何時しか心奪われ、夜のネオン街を歩いてみたい心地にさせられています。
 それにしても、トーマさんは、なかなかに屑な男でしたが、それなのにも関わらず、どこか人々を魅了する雰囲気を醸し出していて、私も心を奪われていて。健気な姿で真っすぐ挑むツバキの姿には涙ぐみました。彼女が少女と大人の女性の間から、一人の強かな女性へと徐々に変わっていく。それでも大事な芯は残して、前を進んでいって。何か仄暗いものを背負っている女性の方が格好良く思えてしまうほど、彼女も魅力的でした。脆そうなのに強がって、プライドも高くて、でもやっぱり不器用で。そんな人間味溢れた彼女の全てと狂いが愛おしいと思ってしまう私もなかなかに狂っているな、なんて感じました。
 人の幸せはわからないもので、結局、不幸だと思っていたものは見方を変えれば転機になるのだと。そして何より、堕ちているようで、必死に這い上がった者こそが結局は幸せになれる道を見つけ出せる可能性が高まるのだと。そう、教えられた気がしました。一秒も無駄にせず、我武者羅に進んでいく。暗闇の中でも、きっと光を連れた "暁" は来るから……それを信じて、私はツバキのように、真っすぐ、力強く、地面を蹴って歩んでいきたいと感じています。

 *本当に本当にお疲れ様でした*
素敵な作品をありがとうございました