ある屋敷に一人の男が訪れた。
男の両手人差し指には“あるもの”を使い慣らしたがためにできる固く小さな豆。
カツカツと静かに靴が床を蹴る音が“静かになった”屋敷に響く。
「そこにいるのは誰だ。」
その声に一人の少女が肩を震わせる男を向く。が、その眼は強く光を宿していた。
「お前も父のもとに行くか。ひと思いで終わらせてやる、目を閉じろ。」
「いいえ、まだ死にたくない。父のもとに行くつもりなんてない。」
強い言葉とは裏腹に、小刻みに震える少女。だが、相も変わらずその眼には光が宿っている。
「…ならばついてこい。今夜のことを誰かに口外すればそれはお前が死ぬ時だ。」
少女は今夜のことを秘密にすると男についていく。
男もまた多くは語らず、少女もまた詮索しなかった。
少女は女性に成長してもなお、秘密を守っていた。
しかし、そんな彼女には、男にも話せないもう一つの秘密があった。
2021.01.03~