かみさまの手 かみさまの味①

作者汪海妹

食べることの好きな上条暎万は、自称花よりだんごで年頃になっても彼氏を作ろうとしない。大学を卒業してとあるグルメ雑誌の編集をしている。そんな妹を表では邪険に扱いながらも心配しているお兄ちゃんの春樹君。とある日、学生の頃からの贔屓の洋菓子店エルミタージュに取材で訪れた暎万ちゃんは、今まで食べたこともな…

 次の日の朝、彼女は卵を二つ茹でた。綺麗に皮を剥いた卵を僕に見せて彼女は言いました。


「生まれたての恋心はこんな感じ」

「どういうこと?」

「ツルツルなの」

「うん」


 それから塩をつけて一口食べた。


「それで少しするとこうなるの」

「どういうこと?」

「少しは頭を…」

「はいはい」

「もう少しなるとこうなる」


 暎万はもう一口卵を食べた。


「だんだん少なくなる」

「惜しいな。傷つく」

「恋心が?」

「うん。傷つく」


 僕をまっすぐ見て暎万は言った。


「この世で傷つかないものはない。そう思うことにした。だから、ツルツルでなくなってもわたしは大切にするから」


本文より抜粋