あの時はまだ子供だった。
そう言い切れるなら、どんなにか楽だろう。
けれど私たちは十分大人だった。
ううん、大人だと言い切れるほどでもなく、だからと言ってお互いが口にする台詞も行動も無責任なほど子供でもなかったと思う。
彼は言った。
『俺はどこに居ても杏のことを想ってる。誰といても杏のことをいつも想い続けている。そして必ず杏のところに帰ってくるから』
十八だった私には、その言葉が全てだった。
そう告げた航二は私をこの町に残して大学進学のために東京へと出て行った。
あれからもう何年が経つのだろう。
気が付けば私はもうすぐ二十五になる。
航二が帰ってくると約束した月日は、もう三年も前に過ぎていた。
それがどんな意味を示すのか気付いている。
だけど私は信じることしか出来ずにいた。