二人だけの世界だった日のこと

作者あにまに

窓から見る真っ赤な夕焼け。

誰もいない教室。

猿比古と美咲の二人だけの世界。

それがあの日の僕らの青春。

あの日の僕らは、毎日が輝いて見えていたんだ。




猿比古は窓からみえる赤く染まった空を

ぼんやりと眺めていた。

前の席では美咲がうつらうつらと頭を上下に

降っている。これはもう眠いのだと明らかだった。


「美咲、美咲。」


肩をゆすってやるとぽやーっとした顔で

猿比古を見る。まだ夢の中のようだ。

猿比古は仕方なく美咲と片方ずつはめていた

イヤフォンを取り、美咲を無理矢理立たせた。


「んだよ……まだ帰んなくてもいいだろー…」


美咲がよっぽど眠いのか、首を振りながら

猿比古の手を拒んだ。

猿比古は少しだけ、ほんの少しだけ悲しくなる。


「(なんだよ……)」


でもそろそろ学校もしまってしまう。

このままでは学校から出られなくなる、

と猿比古は焦り始めた。

このまま学校に缶詰なんてごめんだ。

まぁ家に帰りたいとかでもないけれど。


そんな微妙な思いから、猿比古は

眠そうな美咲を後ろにおぶって

学校を出た。 さっきまで赤かった空は

いつの間にか紺色になり始めていた。


「美咲…いつまで寝てるんだよ」

「んんん……猿比古家までおぶれ…」

「なんでだよ…」

「眠いんだってば…」

「どうせ遅くまでゲームしてたんだろ昨日」

「あう…」

「自業自得だ」

「………猿比古、お前んちでゲームする」

「はぁ?今から?」

「今から!!!!!!!!」

「…はいはい」


美咲は会話をシャットダウンしてまた

猿比古の背中の中で小さな寝息を立て始めた。

猿比古は重さを感じないぐらい軽い美咲を

おぶりなおして自分の家へ向かう。

いつもなら帰りたくない家だけれど、

美咲が行きたいなんていうから、

早く帰りたいなんて柄にもなく

思ってしまうんだ。


こんな日々が毎日、毎日、

当然のように続けばいいのにと

猿比古はすっかり黒くなった空に

祈った。