「お嬢!!」
「リベルタ?」
リベルタに呼び止められたフェルは、
長い髪をなびかせながら振り返った。
そんな少しの動作も、リベルタは「かわいい」と感じて
しまうのだから、これは相当重症に違いなかった。
そして、この感情はけしてお門違いなどではない。
実際フェルはものすごくかわいくて美人だ。
本人のこれを言ったら恥ずかしさのあまり、蹴りがとんでくるのだが、これはファミリー全員が感じていることだった。
(それも困るんだけどなぁ・・)
フェルが好きなのはリベルタだけではないのだ。
フェルはファミリー全員から好かれている。
だが、いまのところフェル自身が誰を好きなのか。
確定情報はなかった。
そのことが余計リベルタを不安にさせる。
(お嬢だって女の子なんだし・・好きなやつの一人や二人・・)
「リベルタ?どうしたの?」
「えっ!?」
「・・ふふ、変な声」
リベルタがいつまでたっても現実に戻ってこなかったから、フェルはリベルタを呼び戻したもだが、そんなに驚くとは思わなかったので思わず笑みがもれてしまった。
リベルタは慌ててフェルを呼び止めた理由を話す。
「今みんなで集まってんだ!
お嬢も来ねぇかなとおもってさ」
「みんなで?なにかあったの?」
全員が集まるのは毎回なにか街で事件が起きた時なので、フェルは少し身構えた。するとリベルタは慌てて違う違うと手を振り回した。
「?じゃあどうしたの?」
「それは行ってからのおたのしみ~
行こうぜ!」
「あっ、リベルタ!?」
手を引かれて自然と前に進むことを共有され、
フェルはバランスを崩すが、リベルタがうまく転ばないよう手を引いてくれる。
フェルはこんな少しのやさしさに再び笑みをこぼした。
*
「ハツモウデ?」
「なんかね~ジャッポネでは恒例行事らしいよ~
食べ物もたくさん出るんだって!」
「パーチェはまずその涎をなんとかしろ」
「え~だって・・ラ・ザーニアあるかなぁ!」
「ないですよ!!!
ていうかそれなら初詣じゃなくても食べられるでしょう!?」
パーチェのふざけた質問にルカが真面目に答えているのを見て、隣に立っていたデビトは白い眼を向ける。
でもさすがに二人の会話の飽きたのか、フェルの方へ足を向ける。
「デビト?」
「あんな会話してるやつの近くにいたらこっちまでバカになっちまうぜ・・バンビーナ、俺と一緒に抜け出し・・」
「そんなことさせません!!!!!!
お嬢様に触れないでくださいデビト!!!!」
「なんだよもう気づいたのかよ」
「気づきます!!!!」
ルカはデビトがフェルに触れた部分を払って、フェルには満面の笑みを向ける。
「お嬢様、こんなところにいては
お洋服が汚れてしまいます」
「おい、俺がきたねえっていいてえのか」
「そうです」
こんなことをいいながらもこの二人は仲がいいのだから笑えてしまう。パーチェが言い争う二人に気づいてこちらにやってくると、これはもう収集がつかない事態になった。
フェルを挟んで口喧嘩していた二人だったが、
その状況からフェルを救ったのがノヴァだった。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「まったく・・話がずれる一方だ・・」
「初詣に行くの?」
「ああ。今年はマンマがジャッポネに行きたいといっていてな。それならちょうどこの時期は初詣だろうという話になったんだ。ルカが言い出したことなんだが・・」
ノヴァがジロリとルカに目を向けた。
ルカはそんなことは忘れてまだ言い合いを続けていた。
「これはもう無理そうだな」
「また今度話そう?」
「ああ。今日はここらへんで終わりにしよう」
「悪かったなお嬢・・せっかくよんだのに」
リベルタが申し訳なさそうにうつむきながらフェルにいう。
フェルはキョトンとしながら、しばらく黙っていた。
「お、お嬢?」
怒っていると勘違いしたリベルタは恐る恐る顔をあげた。
するとそこにはリベルタが想像していたようなフェルは
いなかった。
「いいのに、そんなこと」
フェルの言葉はいつも優しい。
ファミリー全員が和んだ。
「じゃあまた明日、集まろう?」
「そうですね!お嬢様に賛成です!」
「ルカ、お前がさっさと話さないから・・」
「まあまあノヴァ!いいじゃねえか!」
「さー!みんなでラ・ザーニアを食べよう!」
「ラザニア限定なのかよ」
いつも通りのみんなといられる。
フェルの幸せはそれだけだった。
ファミリーに入ってからの日常が、
ここから始まった。