to-ya
黎明に響くは希望の音か
主人公ハナとタイチの葛藤や焦燥は、決してバーチャルではなくリアルに突き付けられた、現在の世情が孕む鬱屈に他ならない。
フィクションであって、感覚的にはノンフィクションに程近作品。
【夢見る頃】はとうに過ぎ去り、【大人】と言う枠組みに仕分けされたハナとタイチ。しかし、彼等は将来の展望もあやふやで、その状況を理解する程度には大人であるが故に、地場を固めつつある同世代への羨望と嫉妬に懊悩するのだ。
いっそ子供であれば、苦悩とは無縁の無邪気さで生きて居られたのに、押し寄せ過ぎ行く日々が二人にそれを許さない。
不確かで熟し切れない二つの心が、大人の躯で必死にまぐわうくだりは、淫靡と言うより毟ろ純真に感じる。
二人の触れ合いが、互いにとって何かしらの帰結を見出だし物語の夜は明ける。
現代に生きる全ての若者達へ、それは黎明に響く微かな希望の音なのだろう。
純文学として、十二分堪能出来る良作。