tsukane.
そうか。ひとり、鬼。
うのたろうさんの待望の新作。
独特の安定感のなか、練り上げられたキーワードは、ひとつもこぼれ落ちていくことなく、綺麗に作品としておさまっていきます。
「もういいよ」
それは一種の死の宣告からはじまり、幼いころの辛い記憶を呼び起こして。。
「もういいかい?」
ありふれた大人の事情。
何度も重ねて、くぐり抜けてきたはずの、せまい世界の出来事。
絶望のふちで出会った、不思議な面を被った少年。
そして稲荷の恩返し。
「まあだだよ」
目の前で生涯を終えたセミが一匹いても。うるさい合唱から一匹ぶんだけちいさく聞こえるわけじゃない。
でもきっと、一匹は一匹。
それは決して化かされたわけじゃなくて。つままれたというわけでもない。
すべてが交差して、自分の言葉で気付く。いつの間にかに、自分で大人になったということ。
「もう、いいよ」
生き方を見つけたなら次はまた自分が鬼。暗い過去とは反対の、自分さがしのかくれんぼが始まる。
夏の香りと閃光がすり抜けていく、スッキリとした余韻の残る作品です。