緑茶

限りある命
こわくないホラー
とありましたが、狐面が取れた時、ぼんやり素顔が予想出来ていたにも関わらずゾクッとしました。

リストラ宣言された時の主人公と課長との距離感、公園で見た蝉の死骸と落ちたおいなり、謎の少年との会話……
全てが“いのちのやりとり”で、その描写が流線のように滑らかで美しかったです。

人間は、他人から見たら些細な事で死にたくなる。生まれてくるのに10ヶ月もかかるのに、死を選ぶのは一瞬だったりする。

家族が居ても生きる糧にはならず、この世界に未練も無い主人公。止めたのは自分より不幸だった、或いは同じように不幸な“過去の自分”。そしてそれは人ならざるモノ。

悲しい、と思いました。
ひねくれ者の私はこのお話を読んで「死にたくなる程の辛さなど一過性のモノなのだから、食って寝て、とりあえず今日を生きて明日を見てみよう」という前向きな気持ちにはなれません。

しかし、己から死を選ぶという事は、少なからず愚かしい事なんだよね、と天を仰ぐ気持ちになりました。

死にたい時に読むと言うよりは、心にゆとりがある時に読み、生きるという事、死ぬという事について考えさせられる作品だと思います。