眠空

渾身のピチカート
表現力・構成力にも優れ、音楽への造詣の深さも感じさせるとても完成度の高い作品だと思いました。

しっかりした文章なのに気取った印象や堅苦しさがないので、馴染み易く浸透していきます。

それぞれ楽章になぞらえた章タイトルがありますが、そのテーマはどれも内容に忠実で、まさに情感溢れる音楽劇を想起させます。
特に感動した章は“威風堂々”で、子どもたちが走りだすシーンは堂々たる行進曲さながらでした。

魔物の心を救おうと弦を爪弾く主人公・パルティーダの渾身のピチカートは強く胸を打ち、クライマックスの魅せ方も秀逸でとても惹き付けられました。
壮大なクライマックスのわりにふわっと終わってしまった印象でしたが、それでも未来に希望が持てる、読後感の良いラストだったと思います。

煌びやかな情景と心の暖かさが丹念に描かれた、ファンタジーの秀作です。