市藤にたか
それでも俺はこの作品が好きだ
もしも自分が編集者ならば、企画段
階でこの作品はボツにするでしょ
う。
恋愛なんかのウケる要素は皆無だ
し、テーマ的に釣れるわけじゃな
い。
でも断言出来ます。
それでもこれはいい作品だと。
過度にドラマチックな展開を抑え、
かといってシリアスに寄りすぎない
プロット。
時にコミカルさを交えながら、テン
ポよく進む構成の巧みさ。
それらを支える、重すぎも軽すぎも
しない描写と、会話と地の文との適
度なバランス。
一見あっさり書いてるように見えま
すが、並みの実力ではこのシャープ
さは出せません。
そしてなにより、物語の土台となっ
ている作者の『物語を書く』事への
真摯さ。
実力と情熱の二つがあるからこそ、
この作品は成り立っていると思いま
す。
大作ではない。
ケータイ小説としてウケる要素もな
い。
それでも私にとってこの作品は、技
術と情熱とが生んだ『マスターピー
ス』です。