人は、愛を言い訳にして嘘をつく。
『あなたは人魚姫の娘だから、人をとりこにする美しい歌声と、ダンスを踊るすてきな足を持っているの』
愛していたから、そんな嘘で捨てられた子を慰めた。
子どもは嘘だなんて知らずに、舞台の上で歌い、踊っていた。
にせものの魔法が作った、にせものの人魚姫。
すべての魔法がとけてしまった日、その何もかもを、許せなくなった。
幼いころから所属していた劇団の、何より目標としていた人魚姫のオーディションに落ちてから、誰ひとり、自分自身までも信じられないまま、ユキは誰も来ない池のほとりで人魚姫を演じ続けていた。この世界の誰も、ほんとうのユキなんて求めていない。ユキ自身も、ほんとうの自分が何かわからない。
そうして世界の何もかもが嫌になって投げ捨てそうになったとき、ユキを「夢のようだ」と称える青年に出会った。
彼は、街の誰もが知る美貌のモデル。そして活動休止を発表した日の夜に、暗い池をうつろな瞳で見つめていたひとだった。
舞台の上の物語は、すべてが本物。夢も希望も真実の愛も、決して嘘じゃない。でも現実は違う。そう思っていた。
だけど舞台の上の愛をほんものにするのは、ほかでもない、愛を信じられないユキ自身。
彼に魔法をかけてあげたい。
願う心が、嘘で固められた過去を打ち破るために輝きはじめる――
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