英文学部二年の日向秋久は、頼まれると断れない素直な性格から、よく教授からの雑用を頼まれていた。倉庫となっている行き慣れた旧校舎は人気がなく、錆びた灰皿だけが置かれた喫煙所はいつも空っぽだった。
さびれた喫煙所を近道として使う日向は誰とも遭遇したことがないのに、今日はなんだか様子が違っていた。誰もいないと思っていた其処には、正しく喫煙所を使う彼がいた。
煙草を挟んだ指は女性的なまでに細く、白く、銀杏色を透かした陽射しが真っ直ぐに沁み込んでいた。伏せた睫毛の長さと、白い肌を飾り付ける銀色のアクセサリーが得体のしれない彼には酷く似合っていて、日向は視線を外せなかった。
須賀千秋と名乗った彼は、大学全体を通して噂が広まっている男だった。曰く、文学に関係しそうな授業には何度も繰り返し出席しているのだ、と。
噂を知っていた日向は、だけれど須賀自身の持つ優しさや真面目さに惹かれていく。彼と仲良くなりたい、彼のことがもっと知りたい。その気持ちだけを胸に吐き出してしまった言葉はしかし、須賀に受け入れられることはなかった。