あのライブハウスの夜
泣けなかった
泣こうと思ったが、涙はどうしても出てこなかった。隣の人は泣いているのに、私の感性は死んでしまったんじゃないかと思った。
でも、あゆさんはMCで、歌いながらいろんなことを考えてしまったと言った。僕たちは演奏しているだけ。平日の昼間にここに来ることを選んだのは自分たちだと。この国に、俺たちの音楽を好きでいる人がこんなにいるのかと。なぜか私の心が軽くなった。泣かなくてもいい、泣けなくてもいい、誰かを思い出して音楽を聞いてもいい、聞かなくてもいい、所詮前で演奏しているだけ、音楽を慣らしているだけであって、私がそこに自分の気持ちを無理やり乗せようとしていたのだ、あゆさんも、私たちも、みんなひとり、個別であって、考えてることは別々。ただ時折私の感情と、歌詞とが重なった気がするだけである。その気がすることが音楽を聞くことの意味の一つである。
別に泣かなくていいと思った、泣いてもあゆさんは肯定も否定もしてくれないと思う、泣かなくてもいいと思えた自分をあの瞬間だけ愛せた気がした、過去の自分と同じことをしなくてもいいと、ダメな自分を含め愛していいのだと。
生活についてが本当によく響いた、近頃の屈託した自分の生活と、過去の栄光に頼る自分を凡人としたが、それすらも愛すべきであると、愛すべき名称であるとうたった。才能と生活が腐っちまった凡人さ 昨日はどうあれ歩いてゆこう。これほどに人間を書いた歌詞があろうか、この歌が聞ける限り、私は死なないでおこうと思った。2、3日前一人で部屋で訳もなく、訳はあったのかもしれないが、泣いた、自分の嫌さに泣いた。あの涙は今日全くと言っていいほど出なかった。3年前の京都で見たライブの時の涙も出なかった。曲の最中私は変わってしまったのか、感性が死んだのではないかと自分を卑下したが、そうでないと感じた。感じさせられた。
物販でたわいもないことを話してくれるのが嬉しい、100年後には誰も俺たちの音楽を聞いてはない、けど、楽しいからやると言った、多分これは私たちのために歌っているのではないと思った。あゆさんたちが歌う音楽に私は勝手に想いを乗せているだけなのであるが、心が弱ったりした時には勝手に想いを乗せてもいいのではないかと思った。これはある種の片想いである。
泣かない自分も、泣く自分も、何も感じない自分も、たくさん感じる自分も、そっとどこかで愛せればいい、所詮人生。誰も愛さなくても、自分が自分の良いも悪いも愛せればそれでいいと思った。君なんでどこにでもいるようでいないさ。どんな日々もどんな君も、意味を持った形ある物語。
目で見ると、歌詞が本当によく入ってきた、歌詞とともに自分の恥ずかしくて、思い出したくもない過去が蘇ってきた。それは例えば、京都のライブハウスで無理やり涙を流したこと、二束三文を嫌というほど聞いて、自分を肯定しようとしたこと。眩しい夕日のようなライトがあゆさんを後ろから照らして、影にする。 ライトが黒い服を着たあゆさんの汗の描いた首元と、顔だけを浮かび上がらせていた。前髪はちょうどよかった。切りすぎてなかった。塾の個別ブースで聞いた2月の中を思い出した、あの記憶は一生忘れないだろう、前線に次ぐはやっぱり誰かに向けて作られた曲であったと思う、それでも時折私は感情移入させる日がまた来るのだろうとおもった。
あゆさんはあの場の雰囲気をいつもこんな感じだと言った、少し残念な様子ではあった、名言や格言のようなことも言わずに、ただ演奏をするだけだと言った。自分にあまり酔うこともなく、淡々と演奏をする姿は28になるとは思えないほどの感性だった。時代よ僕を選んでくれないかと歌わなくてももう大丈夫と声を掛けたいほど。
私たちはいつまでも悩み続け、後悔し続け、不安に苛まれるのかもしれない、でもそれをどうにか生きる自分を愛するのだ、人は個別だが、孤独ではないとどこかで信じながら、自分を一番に自分が愛すのだ。さよならポエジーがある限りではなく、私自身が曲を聴き続けることができる限り死なないでおこう。こんなに自分の腐ったところを言葉として歌ってくれるのだから、愛し続けていよう、自分もバンドも。
惰性で聴いていた音楽は美しいと知った
できることをできる限りする、そうしてから文句や駄々をこねればいい、どうかできない自分も含め愛せますように、愛するという癖がつきますように。
成長を感じた夜だった、さよならポエジーも自分自身も、3年という月日はそれほど大きな影響があったと思った。どうかまたこの歌を生で聞いて、夢の中の感覚に陥って、歌詞を深く考えることができますように、でき続けますように、
涙なんて一切出なかった、夢の中のようだった、少しだけ自信を持って演奏を聴けた、今日全ての自分を愛して、今夜は眠りにつこう。
2021.07.14 21:32帰路の電車にて
たしかに辛いこともあるけど、実際の日々はそんなもんです、端崎橋に浮かぶ月、所詮人生、邦楽たちの遺骨、花を数輪積み替えるのを待っていてくれ
、健康で、早く寝よう、ギターの弦が切れる、昔のギター弾いて欲しかったんかな
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