森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 60

「先生。本当に伊藤先生に連絡入れるんですか?」
「あぁ。君の体にメスを入れて助けた先生だ。君も会いたいだろう?」
「もちろん。あれから、全然会えていないし、お礼も。
 こんなになってもまだ覚えてもらえているのかなぁ。」
「癌の手術だけだと沢山手術をするだろうから覚えてはいないだろうけど、
 でも原田さんの場合は、偶然に偶然が重なって再び伊藤先生が執刀した。」
「原田さんのその事件は報道されなかったんですか?」
「あたしがまだ未成年だったってことと、相手があたしの彼だったってことで
 いろいろと白状させられましたが最後にあたしは警察の方からどうしましょうかと
 言われて・・・・・・事件にしますかどうしますかって。」
「一応あなたは被害者ですし拘留されているその人は加害者だしなぁ。」
「でも、その人はみんなから尊敬される教師でしたし
 部活でも信頼されている顧問でしたし、指導者でした。
 17歳のあたしを一人の人間として愛してくれた人だったし
 これからも、一緒に歩いて行く人だとそう信じていたので
 留置所から出てあたしが学校を卒業したら一緒に暮らすものと
 そう思っていたのに、学校は突然辞めるし連絡取れなくなるし
 結局あたし一人を置いてこの世からいなくなってしまわれました。
 そんな事件です。報道も何も知っている人は関係者だけだと思います。」
「でもそれでもその事件が起こりあなたが怪我をして
 救急の搬送の連絡に伊藤先生の耳が気が付いた。すごい偶然だよ。」
「市民病院で手術する準備をしてかかろうとする直前に連絡が入り
 伊藤先生が、自分の患者だと言ってそっちに向かうとまで言われたのですが
 大学病院まで運ぶ話になっったらしく、運ばれていったんです。
 気が付いたら、目の前に母と先生の顔が見えて泣いちゃいましたけど。
 お礼を言うどころか、良かったなぁ。と声をかけていただいた。
 2度もあたしは伊藤先生に助けられたんですよね。」
「だから、連絡をとればきっと飛んでくると思うよ?」
「あたしのカルテはそれぞれの病院ではなんですか?」
「すぐ取り寄せはできるさ。」
「良いかなぁ?君の許可と伊藤先生の力がなければ
 私たちはその素晴らしい手術の情報を見させてもらえない。
 私たちも見せていただきたくてね。」
「なんだかあたしも恥ずかしくなってきたけど。」
「原田君は、その後そのカルテが来て婦人科を受診していただく。
 きちんとした検査をしよう。癌検診は毎年受けているのだろうが
 一番近いところでいつだった?」
「いつも誕生日に受けているので3月です。」
「年明け早々検診だったのか。だったら、伊藤先生が来てからでも
 早いが検査しましょう。多分にあなたの体はすこぶる元気ですよ。」
「いや、大久保先生。カルテを見ないとわかりませんが
 伊藤先生ときちんと話をし検査しないと。期待を裏切ってはいけませんからね。」
「あたしは大丈夫です。
 あの時あたしの子宮は上下に二つに切り裂かれてしまったんですから。
 伊藤先生もこの分だと妊娠は無理だとそうおっしゃられてましたし
 自分でもそのことをきちんと説明していただいた上でくっついたとしても、
 普通に妊娠するための力はないものだとそう思っています。」
「真っ二つだったのか?」
「えぇ。そう聞きました。」
「まぁ、カルテと伊藤先生と検査待ちだ。」
「あの先生。」
「なんだ?」
「この話はあの人にはしないでください。期待させても可哀想だし。
 あたしは向き合っている人には、子供は望めないときちんと話をしていますから。」
「そうだなぁ。ぬか喜びさせてもかわいそうだしな。」
「検査の事も、このここで話しているすべてあの人には。
 お願いします、先生。もしいい報告ができるのであれば自分から話をしますから。」
「わかった、そうしよう。」
「今日の結果は記者会見後の外出は認めるということ。
 それが検査の結果だな、うれしいでしょう?」
「えぇ。外の空気を早く吸いたい。約束もたくさんさせられちゃったし
 迷惑かけた人たちにも頭を下げに行かなければいけないし事務所にもお店にも。」
「大変ですね(笑)」
「でも、外の空気は吸えるのなら大変さなんて気にならないですよ。」
「さぁ、原田さん、病室に戻りましょうか?」
「ですね。何か連絡があったら困りますし、記者会見の事
 もしかしたら連絡が入っているかも。」
「では、伊藤先生とカルテの件。原田さんの個人的な情報ですが
 寄せてみても大丈夫ですね?」
「はい、遠慮なく。何かわからないことがあったら呼んで下さい。」
「看護婦さん、部屋までは一人で行けますから。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですって。しっかりと全部がリハビリですよ(笑)」

先生たちも笑いながら診察室から弓弦を見送った。
そのあと処方している薬の事とかを話ししながら、伊藤教授への連絡を
つなぐために連絡先を探し始めた。一方部屋に戻るとドアが開いている。
その開いている隙間から楽しそうに話声が聞こえてくるのだけど・・・・
と自分の部屋を覗いてみた。

「俊哉っ!」
「弓弦さーーーーーーーんっ!」
「お前騒がしいなぁ、外まで聞こえてたぞ?」
「弓弦さんこそ。どうして部屋にいなかったの?」
「お前、明日だろ?来るって言ってたの明日だったじゃないか?」
「明日って思ったけど、朝起きたら会いたくてさ。来ちゃった(照)」
「お前さぁ・・・・いっつもびっくりさせるなぁ。
 看護師さんごめんねぇ、こんな奴の相手させて。」
「いいえぇ、楽しいお話でしたよ。では、失礼しますね。」
「俊哉さぁ・・・・・お前もうびっくり。」
「だって、だって・・・・・弓弦さんに会いたかったんだもん。」
「甘えん坊だなぁ。そんなんだからいつまでたってもお子ちゃま扱いなんだ。」
「わかってるけどさ、でも本当に弓弦さんに会いたかったんだ。」
「俊哉落ち着けよ。で、今日は?」
「今日はって、貴志先輩は?」
「貴志ならもう帰ったけど?」
「良かったぁ。貴志先輩、僕が弓弦さんのことを話ししてただけで睨むんだもん。」
「おいおい先輩に向かって(笑)」
「貴志先輩はさ、弓弦先輩に近づこうとすると必ず邪魔するんだもん。」
「違うけど違わないかも?どっちだか。(笑)」
「でね、弓弦先輩。」
「なに?」
「コンテスト、聞いた?」
「さっき貴志が来た時に誠さんと貴志とあたしと峻と俊哉で出させるとか。」
「誠先輩と貴志先輩がスタンダード。弓弦先輩と俺がオリジナルフレッシュで。
 峻先輩は・・・・・・なんだっけ(汗」
「スタンダードじゃないのか?」
「多分。そうだったかも、わかんないや(笑」
「お前はいつもそうなんだよなぁ。」
「そう言わないでよ。でね、それまでには弓弦先輩と出ても恥ずかしくないように
 きちんと基礎から教えてもらって来いって、オーナーが。」
「退院はまだまだ先だけど、コンテストはいつなの?」
「来年の10月だよ。」
「あたしね、多分そのコンテストは辞退すると思うけど?」
「なんで?なんでなの?」
「秋山さんとの仕事が入る。何の仕事かわからないけど
 一緒に仕事をする予定なんだ。」
「弓弦先輩とうとうタレント稼業始まっちゃうんだ。」
「忙しくなるんだろうなぁ。」
「なんだか弓弦先輩が遠くに行ってしまうなぁ。」
「でも、するとしたら前の通り西村さんの仕事だけさ。
 でないとバーテンダーを辞めなければならなくなる。」
「弓弦先輩が辞めると、店の大半が辞めてしまうよぉ。」
「お前も辞めるのか?」
「多分。で、弓弦さんの仕事先を追って就職する(笑)」
「俊哉だとタレント稼業でも大丈夫じゃない?
 俊哉可愛いもん、これからだといい男に成長しそうだし。」
「いっそのこと弓弦先輩とユニットで出たら売れるかなぁ?」
「それもいいなぁ。て言うかそれすると多分槙村さんや
 圭一郎さんが混じってくるぞ(笑)
 そういう話好きそうだもんなぁ。」
「ねぇねぇ、弓弦先輩。聞きたいんだけどさ。」
「何を?」
「本当に結婚するの?」
「それ誰から聞いたんだ?」
「誠先輩と貴志先輩が話しててさ、たまたま聞こえちゃって。」
「結婚は随分と先の話だぞ?ただもうあたしも25だし
 オーナーがさ、あたしの復帰後の制服はタイトスカートにするそうよ。
 貴志がサイズを確認していった(笑)」
「俺もそう思うよ?せっかくの美人なんだしそれを押し殺すような
 スタイルってすごくもったいない。
 この間だってさ、あんなにきれいな髪をバッサリ切っちゃったでしょう?
 もったいないなぁって、俺弓弦さんの腰まで伸びた髪を
 束ねてない姿大好きだったのに。」
「あれはねぇ、ちょっと暑かったしずっと長いまんまだったから
 髪自体傷んでたしな。また伸ばすよ、きれいにね。」
「弓弦先輩は何でもに会うけど、短い髪はmartinの翔太さんに
 似てしまうから、やっぱり長い方がいい。」
「でもそれを狙って切ったんだしなぁ。チャリティー前だったし。
 本当に心配かけてごめんな、俊哉。」
「だから無事に帰ってきたんだからいいんだって。」
「でもさ、チャリティーは中止だった。
 一生懸命練習もしたのに。あれはどうしたらいいんだ?」
「弓弦先輩は足の骨折もあるからリハビリまで入れると
 かなり動けるまで時間かかるでしょう?」
「どうだろうかなぁ。複雑な骨折じゃないし、腱が切れている訳じゃない。
 きちんと骨がつながればいいんだけどね。」
「来年に向けて練習しようよ、来年のチャリティーでやろうよ。
 沖縄まで行って完璧に練習して仕上げたのいがもったいない。
 5人で来年、頑張ろうよ。」
「そうだなぁ。できるといいな。」
「俺また弓弦先輩と練習したい。ずっと一緒に居たいよ。」
「そんなにかわいい顔をしたら嫌とは言えないだろう?」
「言わせませんって。でも弓弦先輩のその笑顔西村さんの物なんだよね。」
「俊哉?だから結婚するのはまだまだ先の話。
 たまたまあたしのお爺ちゃんがお見舞いに来ててその時に
 西村さんが嫁にくださいって言っちゃっただけ。
 まぁ、反対はされなかったけどきちんと順を踏んで婚約だけはとさ。
 退院したらきちんと挨拶に行く約束もしたし。」
「やっぱり弓弦先輩はみんなの弓弦先輩じゃなくって
 西村さんの所の弓弦先輩になってしまうんじゃないですか。
 誰かの物になってしまった弓弦先輩じゃ、悲しいな。」
「あたしはあたしよ?西村さんだって仕事に関しては何も言わない。
 あたしの天性の仕事だからとバーテンダーの仕事を続けることは反対していない。
 むしろそれを誇りに思うって言ってる。だから辞めない。
 みんなで一緒にあそこで働くんだ。それは変わらないことだよ。」
「本当に?本当なの?」
「本当だって。たださ、川上社長とマネージメント契約をしたし
 山本社長の所の会社とも契約をしたから、
 仕事が入ってくればそっちもしなければいけなくなる。
 するとブースに立つ時間は今よりも少なくなってくるだろうなぁ。
 これまでの西村さんとの仕事もあるから、早々単独の仕事はないだろうけど。
 バーテンダーの仕事ができなくなるぐらいならタレントとしてのこの契約は
 なかったことにしてもらうつもりだけどさ。」
「両立できるところだけでいいんじゃない?
 無理しない程度で。俺らはあそこでずっと弓弦先輩を待てるし。」
「俊哉だけには言っていくよ。
 あたし秋山さんとの仕事TVの仕事なら断ろうと思うんだ。
 歌を歌うとかアルバムを手伝うとか、モデルの仕事とかいろいろあるんだろうけど
 単独ですぐ終わる仕事はするけど時間をかけて出る仕事はすべて断るつもり。
 久原氏の書き下ろしがあるんだけれどさ、
 あたしがいい返事をしなければお蔵入りとか
 そういう卑怯な手立てで攻めてくるのは断る。
 今回は久原氏のだから断らないけどね。そのほかは断る。
 西村さんのアルバムを手伝うのか今までどおりでもきちんとできる仕事だし。」
「弓弦先輩の意志が一番なんだから、無理はしないでよ。
 すぐ無理するから俺心配しちゃうよ。」
「俊哉は心配性なのか?(笑)」
「違うけどさ。でもなぁ、でも、今日は顔を見れて安心した。
 今日の仕事も頑張れそう。明日の休み、何かゲームでももってこようか?」
「俊哉さ、彼女いないのか?彼女いるなら彼女の相手しなきゃ
 捨てられちゃうぞ?」
「ほぇ?俺に彼女なんていないですよ?」
「誰からか聞いたんだけどなぁ。本当にいないのか?」
「いないんですって。て言うか、弓弦先輩以上の人が現れたら
 考えますって。すべてで一番は弓弦先輩だけですから。」
「おいおい、それって告白?」
「て言うか、俺は弓弦先輩一筋ですよ?でも弓弦先輩には
 西村さんや誠先輩貴志先輩健先輩とかみんないますし
 俺は話しかけてくれるそれだけで幸せですから。」
「俊哉はおとなしいな。槙村さんは何が何でもあたしを手に入れようとしたし
 圭一郎さんはがっつり肉食系。あたしに正面から向かってくるしさ。
 貴志はすっかり俺のもん気分だった(笑)
 それを面白おかしく想像してみているのが西村さん。
 もし、西村さんと結婚しないとなった時のことを想像すると
 面白いんだろうけどな。万が一その時は俊哉も参戦する?」
「もちろん。もっともっとかわいい俊哉って言われないぐらいに
 男前になって参戦しますって。」
「そかそか、でもそういう意気込みは何にでも必要だから。
 俊哉ももう21だろ?いい男なんだからな(笑)」
「そろそろ買い出しもあるから行きますね。
 明日も来ますから、何か持ってきてほしいものがあれば
 なんでもいってください、持ってきます。」
「わかった、あったらメール入れるよ。」
「んじゃ、弓弦先輩。また明日ね。」 
「そうそう、俊哉。ちょっと待って。」
「なに?先輩。」
「これ持って行ってよ。」
「福砂屋のカステラじゃないですかっ。先輩食べないの?」
「もらったんだけどさ、2つあるんだ。
 2つも食べれないし、1つはこれから開けるけど
 もう一つは俊哉がお店にもっていって早いもん勝ちで分けて食べて。
 もし俊哉が食べれなくても明日あたしと一緒に食べれるから気にするなよ?」
「いいの?先輩。オーナーにもらったって伝えたらみんなで分けるよ。」
「そうして。そうだ、もしあたっらでいいから、
 お抹茶のラテの缶があるだろ?病院内の自販機には入ってないんだ。
 そのお抹茶のラテ明日一つだけお願いしていい?」
「お抹茶ラテね?そうかぁ、カステラにはぴったりだもんね。
 わかった!忘れずに買ってくる。んじゃ、行くね先輩。」
「あぁ、行ってらっしゃい。今日も一日粗相のないように(笑)」
「はぁい」

一瞬でにぎやかで楽しい空間になったかと思えば、一瞬で静かになった弓弦の病室。
また一人の時間になった。PCの電源を入れメールのチェックを始めた。

コメント

ログインするとコメントが投稿できます

まだコメントがありません