森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 62

「原田さん、お食事ですよ。」
「峰さん。こんばんわぁ、いつもありがとうございます。」
「なんの、今日はご機嫌みたいだねぇ。」 
「そう見える?さっきまでメールば返しまくっててつかれた。
 おばちゃんは今日は夕勤やったと?」
「やね。片づけまで終わって22時上がりやったかな。」
「きつかねぇ。でも、おばちゃんよう頑張るよねぇ。
 おばちゃんの手ば煩わせんごと、きちんと食べんばね。」
「原田さんも、かなり器用に箸ば使うごとなったねぇ。
 ちゃんとリハビリになっとるとたい。
 そこまで動けるごとなってよかったねぇ。」
「早く何でもできるごとならんばね。今日も一日ありがとう。いただきます。」
「おかわりいるならあるけんね。看護師さんに言うてね。
 すぐ山盛りにしてやるけん(笑)」
「はぁい。」

炊き立てのご飯。炊き込みご飯にしてある。
ご飯のおこげが何気にたくさんあるような・・・・・・。
具だくさんのお味噌汁に、厚焼き玉子。いろんなものが詰められた
少し量が多めの食事。自分だけがなんでこんなに多いのかが最近気になるようになっていた。
弓弦の身長に対し体重の軽いことも担当医はどうにかしないとと。
どうにか退院するまでに少しは標準な体形になってもらわないとと
栄養士に相談をしているみたいだった。
一人部屋だしなかなかほかの人の食事は見ないから気づきはしないだろうと
こっそりと担当医が指示を出していたのだ。
今日の夕飯の多さも、少しきつく感じていたのか
弓弦はカステラが食べれないことを気にしてる。
運んできてくれた峰さんがせっかくくれたのに、手も付けずに
おいているところを見られては申し訳ない気がして。

「原田さーん。食べ終わってますか?」

そう言って峰さんが声をかけてきた。

「はぁい。どうぞぉ。」

ドア越しに返事をすると峰さんがドアを開けて顔を出した。

「おばちゃん。」
「なんだぃ?」
「なんかさぁ、あたしのご飯多くない?」
「そうかねぇ、まぁ人それぞれ栄養士の人が調整しているからねぇ。
 原田さんのは、さかなや海藻類も多いだろ?
 骨折という怪我だからねぇ。きちんとその人それぞれの
 身長体重年齢や病気怪我に合わせてきちんと考えてあるものだから
 きっと、原田さんのは原田さんに合わせてあるけん気にせんでもいいと思うよ?」
「そうなのかなぁ。これだとあたし太っちゃう気がしてさ。」
「ん?原田さんは少しやせすぎなんじゃない?おばちゃんにしたら
 すごくうらやましい体系やけど。」
「あたし太れないんだよねぇ。どんなに食べても太らないんだ。
 最近は少ししか食べれなかったからそれになれちゃってるんやけど
 普段はすごいんよ。普通にマックのエビフィレオなんてセットで3つはいくもん。」
「そりゃ食べるなぁ。でも一番はきちんと平均的に何でも食べるんが一番やで?」
「そうなんやけどさ、でもこの病院の病院食は美味しいけんねぇ。」
「先生の思惑に乗せられて、子豚ちゃんになっちゃうかもね(笑)」
「そんなこと言うと不安になってしまうやん。」
「でもちゃんと食べんばね。じゃぁ、また今度なぁ。」
「おばちゃんありがとう、お疲れ様っ!」

峰さんが食器を持っていき片づけて行った後、また部屋に一人になった。
静かで弓弦がメールを返信しているPCのキーの音しか響いていない。
TVを見ない弓弦にしたら部屋にあるTVは箱でしかないのかもしれない。
西村が一緒に入院していた時は少なからずともTVが付いてて
それから聞こえる話題で盛り上がったものだけれど、それも一人になると
ありえない時間になってしまっていた。
19時をまわりまたPCでいろんなものをcheckし始めた。
すると病室のドアを`コンコン’とノックする音。

「はい、誰?」
「俺です。」

そう言ってドアを開け顔をのぞかせたのは翔太だった。

「こんばんわ、弓弦さん」
「翔太君仕事は?」
「さっき終わって帰ってきたんです。」
「一人で?」
「弓弦さんに会いたくて。」
「どうしたの。いつもの翔太君じゃないじゃない。」
「ちょっとね。」
「どうかしたの?なんだか・・・・・。」
「あのさ、弓弦さん。」
「とりあえずこっちにきなよ、そこに椅子があるから。」
「うん。」
「人に聞かれたくない話?」
「そうじゃないんだけどさ。」
「んじゃなに?何かあったの?」
「いやさ・・・・・・・・・・・本当に西村さんと結婚するの?」
「なぜ?」
「弓弦さんと知り合ってそんなに西村さんのように深くはないけど
 仲良くなれて、これから先弓弦さんを知っていくというのに
 弓弦さんが西村さんと一緒になるとそう知ったら、俺・・・・・俺・・・。」
「翔太君。多分ね、あたし言葉も汚いし男みたいな態度だし
 仕事をしている間は対等に自分のことを男として扱ってた。
 自分を男だってね。でも、彼にはきちんと原田弓弦に見えていたらしい。」
「俺だってそうです。社長が呼び出したときなんで俺らが受付嬢のひかりさんと
 その友人の人と一緒にって思った。連絡があった時にさ、
 槙村先輩のことで世話になったから食事に行くけど
 君らも仕事が終わったら来ないかって言われたとき
 正直あんまり気が進まなかったんだ。」
「あれはねぇ。あたしも、まさか単純に槙村さんのことに対しての
 気持ちの食事だとしか思ってなかったし、
 社長が君たちを呼んだのは少しびっくりしたんだけどね。」
「でもさ、部屋に通されて正面を見ると自分がいてびっくりして。」
「まぁね。こうやって翔太君と面と向かってても
 自分と自問自答しているみたいだもんね。」
「はじめは少し不思議な感触だったけど、あの食事の時にいろいろと話ができて
 なんだかうれしくて。考え方も似ているし初めて会った気がしなくなっていったんだ。」
「こんなに似ている人間がいるなんて、それもよりによってこんな近くにって
 そう思ったんでしょう?」
「あぁ。それも俺さもうすぐ29なんだよね。弓弦さんは今度の誕生日で・・・・。」
「25だよ。来年の3月で26。」
「俺の方が年下なのに、弓弦さんの方が年が上に見えるし…なんで?」
「なんでだろうね。沖縄でさ、槙村さんと翔太君が看病してくれたよね。
 あれ、うれしかったんだ。 本当に、うれしかった。」
「あの時さ、俺は槙村先輩に負けたくないって思った。
 弓弦さんの横顔を見ていると、双子みたいに似ているだけなんじゃなくって
 きちんと弓弦さんって思ってしまったんだと思う。
 だからこの間西村さんがいて結婚するって聞いても
 二人で長崎まで出かけたいって言ったんだ。」
「ありがとう。そこまでこんなあたしを思ってくれるのは
 素直にうれしい。翔太君だから。」
「本当に結婚するの?西村さんと。」
「えぇ、本当の事よ。」
「なぜ?」
「翔太君にはあたしがどう映っているかわからないけど
 あたしはそこまで思われる人じゃないよ?」
「俺はそうは思わない。弓弦さんが一番俺のそばにいてほしい人なんだ。」
「西村さんとはね、あたしがこっちに大学入学で出てきたときから
 付き合いがあって、OB会っていうのがあってそれで知り合った。
 あたし自身はそんな有名な人とは知らず、普通にしゃべってたんだけど
 幾日かして、友人と一緒に来たと指名を受けて案内をするため入口に行ったとき
 本当に有名な人と一緒だったらこの人何者って思っちゃった。
 何度も何度もお店に通っていただいているうちに
 西村さんのスタッフが一人辞めちゃって手が足りないとか話してたのを
 カウンターで聞こえてて、不意にあたしに楽器できたよねって話を振ってきたのよ。」
「共通の話しができるっていい事ですよね。」
「えぇ。で、それから手伝っているうちにいつも呼び出されたりして。
 で、あたしもバイク転がすでしょ?
 西村さんもだし、ツーリングも一緒に行くようになった。
 そうこうしているうちに、いつも一緒でしょう。
 お互いに考えていることとか感じていることが似てきたし
 いつの間にか、一緒に居て当たり前の空間ができてなんだろうなぁ。
 いつのころからか、あたしもさ西村さんがいないと不安になるようになったし
 あの強引な会話がないとさみしい気がしてきててさ
 自分でも信じたくはなかったけど、西村さんがかけがえのない人と
 そう思えるようになってさ。自分でもびっくりしたのは
 槙村さんが口説きにかかるようになったぐらいから
 この世の終わりを迎えるとき一緒に居るのは西村さんだけ
 そう思うようになった。初めは西村さんが言い継つけてた事なんだけどね。」
「西村さんはいつから?」
「どれぐらい前だか覚えてないけど、翔太君たちと知り合うずっと前から
 いつだったか西村さんのアルバムのレコーディングで遅くなった時、帰る電車もなくなって
 そうしようかなぁって思ってたら、みんな帰ってしまって二人っきりになったんだ。
 今考えたらその時はめられたんだなって思うけどさ。
 レコーディングは終わって控室に行くとみんないなくて後ろに西村さんだろ?
 振り向いたらすぐそばにさ顔があってドキドキしちゃった。
 普通の女の子ならつれちゃうんだろうね。」
「西村さんそれって計画的?(笑)」
「かもしれないね。でさ、振り向くといるでしょう。どうしようもなくってさ。」
「で?」
「すごく近い場所で、西村さんが言うのさ。
 `原田さん、真面目に聞いていい?好きな人いる?´って。
 嘘ついてもしょうがないから`いないですよ´って言ったらさ
 真面目な顔して言うんだ。
 `弓弦って呼んでいい?´っていうと、抱きしめられた。」
「びっくりするよね突然抱きしめられるとさ。」
「うん、びっくりした顔をしていると言うんだ。
 `弓弦を誰にも渡したくない。俺は弓弦を愛している´って
 言ってなかなか離れてくれなくってさ困った。
 その時は困った人だなぁとしか思ってなかったんだけど
 でもね、一つ一つあたしを大切に扱うんだ。」
「そうなんだ。」
「煙草をやめろとか、言葉遣いが悪いとか(笑)女なんだから、少しはってね。」
「それはみんな思ってる事じゃん。弓弦さん俺に似てても
 すごくきれいなんだし、誰が見てもいい人にしか見えないもんな。」
「でね、それからは何度も何度も愛してるって二人になると
 必ずそう言って抱きしめられてた。何度も何度も。
 ある時ね、あたしの誕生日の日にね西村さんが自分の部屋に
 招待してくれた時があってさ、そこでプロポーズされた。」
「一度目のプロポーズ?」
「そう。その時はまだ大学生だったし、バーテンダーの仕事も
 のってきてて単独ではなかったけどカウンター内に
 立てるようになってきた頃だったかな。
 だから、そのころからはずっと断ってきたんだ。」
「でも、弓弦さんはこの世の終わりの時は西村さんと一緒だって
 そう気持ちは決まっているって話をしてたじゃない?」
「そう思えるようになったのはさ、いつだったかなぁ・・・・・。
 プロポーズされた誕生日の後、あたし風邪をこじらせてお店で倒れたんだ。
 ちょうどその時西村さんがあたし指名でブースにいて
 その目の前で倒れちゃったんだ。誠さんや貴志が駆け寄ってきたんだけど
 すぐに西村さんがカウンターに入ってきてあたしを抱き起してあたしの家に運んだんだ。
 タクシー呼んで自宅まで。タクシーにはあたしだけを乗せて、
 あたしのバイクと荷物を西村さんが。その頃はひかりの家に居候してたんだけど
 伯母ぁも伯父ぃもひかりも驚いてさ、荷物を運んでもらって
 タクシーから抱き上げて部屋まで運んでくれて。
 その晩ずっと起きて看病して次の日も自分は自由だからって
 一日中そばにいてくれた。そしてその夜も次の日も。
 自分がレコーディングで無理させてしまったからって。
 あたしの熱が下がって動けるようになった4日目まで一緒に居たんだ。
 そんなに一生懸命思われて好きにならないはずがないだろう?」
「そうだなぁ。俺でも自分の一番大切な人がそうなったら
 大丈夫になるまでそばにいるかもな。」
「あんなに一生懸命に愛していると言わんばかりにそばにいられたら
 誰だって、この人になら自分をまかせてもと考えるさ。
 まぁ、それ以外でもいろいろとあったけどね。
 今ではあたしの方が西村さんの顔を見ないと声を聴かないと
 落ち着かなくなってしまっちゃったけど。」
「もう割り込める隙間もないんだ。」
「チャンスがあるとしたら、西村さんが浮気したらかな。(笑)」
「そこまで一生懸命な西村さんが浮気はしないでしょう。
 したらもう西村さんに弓弦さんは渡しませんって。」
「あら。渡しませんって言い方。すでに自分の物みたいな言い方ね?(笑)」
「だって、仕事仲間の人たちだって同じでしょう?
 俺だって同じです。槙村先輩や大川先輩に負けませんし俺。」
「西村さん、大変だなぁ。」
「誰だってどうなるかわからないじゃないですか。
 だから人生どうなるかわからないから持っている思いを
 素直に伝えようとするんじゃない?
 俺は弓弦さんが大好きで愛してて、西村さんの所に嫁いでも
 きっとずっと愛し続けると思う。」
「ありがとう、翔太君。気持ちはうれしいよ。
 きっと違う世界で二人ならば、素直に受け入れてたかもしれないね。」
「そう言ってもらえると俺もうれしいかな。」
「でも、記者会見来週の金曜日にあるんだ。その時に翔太君山本社長と一緒でしょ?」
「はい、でるように言われました。一応弓弦さんと一緒で事件の被害者なので。」
「その事件での記者会見の最後に西村さんの口からあたしとの婚約の発表がある。
 それ以後はお互いスキャンダルに発展するような行動は慎まなければならない。
 わかる?多分二人だけで長崎に行けばそういうことになる。
 悲しいけど、翔太君。二人だけでは旅行はできない。
 ごめんね。本当に約束できずにごめんね。」
「いえ、仕方ないです。そういうことはきちんと慎まなければ。」
「でも、記者会見の後は外出も許可が出る。」
「大川さんにもメールでは伝えたけれど、ランチぐらいは
 一緒に行けると思うよ。(笑)」
「外出許可が出るということはその許可が出た時間内なら
 出かけることが気でるということですね?」
「えぇ、きっと記者会見後は女にならないといけないのよね。
 おかしいでしょう?あたしは今まで通りの姿でいいと思ってるんだけど。」
「でも自然に、自然な弓弦さんならどんな姿でもいいんじゃないですか?」
「自然なあたしにね、戻ることができるかな。」
「今のままでいいんじゃないんですか?今のままの弓弦さんで。」
「翔太君。」
「なんですか?」
「記者会見が終わって外出できるようになったら海が見たいな。」
「海ですか?それって?」
「二人で海を見に行こう。だめ?」
「俺車の免許もってないんですって。」
「そっかぁ・・・・・。んじゃ、あたしの家に招待しようか。」
「あの家にですか?」
「あ。多分もう西村さんが引越ししているかもなぁ。」
「でしょう?やっぱり無理なんですね。」
「ねぇ、翔太君。明日はお休み?」
「休みですよ?」
「んじゃ、一度家に帰ってきてきちんと身支度整えてここに来ない?」
「それって?」
「今日は西村さんも来ないしさみしいからそばにいてもらおうかなっ。
 でも、何にもないけど。それでもいい?」
「一晩一緒のデートってことですか。」
「看護師さんにはきちんと言っておくから。ここの屋上から見る夜空は
 星が見えてきれいよ。夜景もきれい。それを眺めるだけのデートだけど。」
「んじゃ、一度家に帰ってくる。弓弦さん、待っててね。」
「えぇ、行ってらっしゃい、翔太君。」

翔太を送り出した弓弦は、看護師さんの所まで車いすで行き、
その旨を伝えると真っ向から反対された。当たり前だ。
わかっているけど、と弓弦は何度も頼み込む。何度も、何度も。
車いすで上がるし無理はしないと。ただ、一人看病で呼んだので
その人がいるから大丈夫と。看護師たちは口をそろえて反対する。
看病に来るのはmartinの翔太君だから騒がれると大変なので
夜は立ち入り禁止になる屋上で少し話がしたいんだとそう伝えると
長くても2時間だけですよとしぶしぶOKしてもらった。

しばらくして翔太が戻ってきた。
弓弦は看護師さんからbブランケットを2枚受け取り、屋上へ移動する。
携帯を持ち、翔太と一緒に。
もちろん翔太はカメラ持参。少しでも、近くにいる弓弦を残したいからだと。

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