森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 63

「看護師さんごめんね、無理は絶対しないから内緒で」
「2時間だけですよ?でも内緒のお話だなんて。」
「彼はアイドルだから、言いたいことも気持ちの中に押し込めてがんばっているんです。
 だから、話があって話をしたいというんだから聞いてあげないとと思って。
 何か悩んでいるんでしょう。ただ、誰にも聞かれたくないだろし。」
「原田さん、寒いから早めに病室に戻ってきてくださいね。
 風邪ひいたりすると、外出できなくなりますよ?」
「わかってますって。」  
「すみません俺のために。」
「早目にね。早めに。」
「はい、弓弦さんの体調を気にしながら。」
「わかってる、わかってる。無理はしないから。」

少し肌寒くなった外だとわかっている分、
きちんと着こみ車いすを翔太に押してもらってエレベーターで上に上がる。
いい天気の今夜は星がきれいに見える。都会では珍しい夜空だ。
少し周りのビルよりも高い病院の屋上からは、
見える景色も街明かりだけの景色になって見えるのがきれいで。

「ようこそ、我が庭へ(笑)」
「弓弦さん寒くない?俺はいいけど、弓弦さんはまだ。」
「大丈夫、きちんと着こんだしさっき看護師さんがカイロをくれた。」
「そう、俺もたくさん着てきたし弓弦さんがいるから大丈夫。」
「と言いつつもカメラ持参だし(笑)」
「どんなときだって、その瞬間だけしか存在しない弓弦さんを写したいから。」
「そんなうまいこと言って(笑)」
「それに、はい。」
「ありがとう、翔太君気が利くね(笑)」
「二人だけって、沖縄の夜以来だよね。」
「あの時はありがとうね、翔太君。熱だしたの久しぶりでさ。」
「俺もびっくりで焦りましたよ。」
「でも、翔太君はあたしを襲いもしなかった。」
「当たり前でしょう?大切な人が具合悪いのに襲えますか?」
「そだな、襲ったらそこで運命は途切れる。」
「俺は弓弦さんとの運命をまだ信じていますから途切れさせちゃいますし。」
「まだ?もう手遅れよ?」
「もう手遅れではなくて、運命のいたずらに期待しています。(笑)」
「しつこいね、翔太君は。」
「あはは(笑)頑固さは負けますけどね。」
「ねぇ、翔太君。」
「なんですか?」
「翔太君とあたしってどうしてこんなに似てるんだろうね。」
「どうしてでしょうね。初めて会ったとき、
 僕は僕が喋ってるって見つめちゃったし。」
「あたしは、まずひかりが翔太君の会社にいるでしょう?
 多分、翔太君がTVに映り始めてから知っているわ。翔太君の存在。」
「そうなんだ。ていうか、そうですよね。」
「だって似てるって周りから言われ続けてるのよ?
 意識しないでいられないでしょう?」
「そうですね、あの夕食のときメールが来たじゃないですか。」
「あぁ、西村さんからの呼び出しのメールね。」
「そんとき、その時にさ・・・・・・・・・・。
 この人はどれだけの人なのかって知りたくなったって言うか
 西村さんが公園で待ってたでしょう?」
「街頭の明かりしかない場所で一人待ってたね」
「弓弦さんを見つけて立ち上がってこっちを見た時の西村さんのあの嬉しそうな顔。
 その時は弓弦さん西村さんと付き合っているのという質問に
 違うって答えたじゃないですか。でも、俺は付き合ってると思った。」
「なぜそう思うの?」
「だって、俺ら5人の影と西村さんと弓弦さんの影は別々に地面に映った。」
「それだけ?」
「それだけ。人の影というものはその人たちのつながりを表すんですよ。
 付き合っているんですかという言葉にNOと言いながらも
 西村さんと弓弦さんの影は寄り添いあってた。」
「翔太君は不思議なことを言うのね。」
「でも、そういう迷信だと思われることは大抵当たる。
 だから、初めて西村さんと弓弦さんが結婚すると聞いた時驚きはしなかったんだ。」
「そう。」
「西村さんと結婚するということ、弓弦さんの中ではいつから?」
「そうね。この人と最後は一緒に居たいと思い始めたのはいつからかな。
 さっきも言ったじゃない?風邪で倒れてって。何日も看病してくれてさ。
 その時はうっすらとこの人と一緒になるのかな?なりたいのか?っておもっててさ。
 でもしっかりと意識したのは湘南の海開きで中学生を助けた時かな。」
「どうしてその時って?」
「助けた中学生ね、女の子だったんだけどレスキューの人たちはみんな男でしょう?
 女はあたし一人しかいなかったわけじゃない?助けた人たちの中でさ。
 なんにでも敏感でナイーブな年頃の女の子に人工呼吸だからって
 kissするのはあんまりでしょう?だからあたしがやったんだけど。
 自分の中にもあんな頃があって、好きだの嫌いだの気にしたことがあったなぁって。」
「それだけで?」
「いや、違う。その助けた女の子の両親がさ、どうしても娘の命を助けてもらった
 そのお礼をと言って翌日だっけご両親と娘さんと`mask´に来られたんだ。
 そのご両親の仲睦まじさを見て女の子のその両親の間で幸せに笑ってて
 そういう家族もいいなぁって思った時、西村さんの顔が浮かんだんだ。
 ダンディーなお父さんと、優しく笑ったお母さん。
 その間で嬉しそうに幸せそうに笑う女の子。
 あたしにもそんな小さいころがあったのにと思いだしてうらやましかった半面
 ふと西村さんがこっちを見てにっこり笑ってる顔が浮かんだんだ。
 自分の気持ちの奥底で知らない自分が西村さんを頼りにしているんだって。
 どう話したらいいのかなぁ。難しいけど。」
「ふとした瞬間に思い出す人が一番自分の中で知らないうちに愛している人なんだよなぁ。
 それが俺じゃなかった。俺じゃなかったんだ。」
「そうだね。でも、きっと出会いがもっと違う形だったらわからないよね。
 だって、翔太君を初めて見た時何かが動いた気がしたもの。」
「そうなんだ。
 でも弓弦さんは西村さんとの運命を信じてついていくことになったから
 それも気のせいに終わる。」
「そうだね。でも、あたしは翔太君をの運命はこのまま続いていくものだと思うよ。」
「なんで?」
「社長から何も聞いてないの?」
「何を?」
「久原護氏からの映画のオファー。」
「まだ、聞いていない。」
「久原護氏はあたしを大切にしてくれる`mask´での常連さんで
 あたしが主演するためだけの書き下ろした作品が今度映画になる。
 その映画に推理小説家の山村諒一さんと同じく推理小説家の久原護氏が
 話をして映画の主要な出演者を決めたらしい。
 その話がそろそろ聞こえてくるはずなんだが。
 何にも聞いていないの?」
「えぇ本当に何にも。」
「その主演候補4人がさ、あたしと翔太君。そしてひかりと
 大川さん。この4人。」
「本当に?本当に弓弦さんと仕事ができるの?」
「えぇ、久原氏にはせっかくあたしのために書き下ろした作品で
 あたしが出演を断ればお蔵入りするこの作品と言われて
 あたしが断れると思う?この作品だけですよと。
 この作品だけ出演しますとないないにOKしたんだ。」
「んじゃ、映画。俺も始めて話をいただくんです。
 その初めての映画に弓弦さんと出れるのはうれしい。
 俺は絶対その話断りません。変われって言われたって変わらない。
 弓弦さんと出るんだ。今日はうれしい、こんなうれしい話が聞けるなんて。」
「そうなの?でもこれもめるわよ?きっと。」
「なんで?」
「単純にミステリー映画だと思うの?」
「わかんない。」
「久原護氏の書くミステリーは、ラヴサスペンス仕立て。わかるでしょ?」
「もしかしてそういうシーンが含まれていると?」
「えぇ。間違いなく。」
「となると・・・・・・。誰が誰都ということを考えるとかなりもめますね。
 あたしは、息が合いそうな翔太君とだとうれしいんだけど
 大川さんとなるとねぇ、あの人がっつり肉食系だし。」
「わかるわかる。もし弓弦さんの相手役が俺だと俺は大川先輩や
 槙村先輩にめっちゃ脅されるのかな。西村さんにも何か言われそう。」
「彼は大丈夫よ。ラヴシーンがあれば率先して経験を積まないとと言ってたし、
 その練習台は俺がやるって(笑)」
「でも、弓弦さんの相手役が大川さんだとしたらと考えるとひかりちゃんの相手役は俺?」
「そうなるかなぁ。」
「それももめる。かなりもめる。」
「なんで?」
「ひかりちゃんとリーダーは付き合ってるんだよ。」
「やきもち焼かれるなぁ。」
「やきもち焼かれるどころか彼じゃない人とと演技とわかってても
 ラヴシーンはひかりちゃんショック受けるだろうなぁ。」
「それは、まだ久原氏がどういう風に考えているかだから
 配役を考え直してもらうか、オファーを変更するように考えさせるか。」
「弓弦さん、こういうのはやっぱり弓弦さんに頼んだがいいと思ってそれで今日来たんだ。」
「ひかりからメールが来てた。あたしにだけ相談があるって。そして元原君からもメールがね。」
「二人同じこと考えてるんだ。たぶん、それだよ、相談したいって。」
「でも二人の気持ちが正直に本当ならば応援することが本当じゃない?」
「事務所はさ、社内恋愛禁止なんだよね。」
「それは、やっぱり世の中認められない恋愛も多いから
 そこの所だけはしっかりとと考えているんじゃない?
 本人たちがだれにばれても恥ずかしくない関係であれば
 恋愛しても構わないんだと思うよ?」
「こっそりさぁ。弓弦さん、山本社長とそういう話をさらっとして
 社内恋愛禁止になったことを聞いてもらえない?」 
「そうね一度聞いてみようかなぁ。でも社長そういうことは
 どんな努力して隠しても気づくような気がする。」
「でも、弓弦さんしか相談する人いないんだ。お願い。」
「わかった。2,3日したら来るらしいからそれとなくね。」
「リーダーとひかりと。何か惹かれるものがあったんだな。」
「ひかりちゃんが入社してきて、あの受付に立つようになってさ
 リーダーはいつも顔を見るときちんと挨拶してたんだ。」
「それ聞いた。ひかりがね、受けつけにいて一番うれしいのが
 いろんな人からおはようとか声かけられたり、
 ちょっとしたことなんだけど、今日もご苦労様とか
 そう言われるのがうれしいって。」
「そういうのの積み重ねなのか。
 多分挨拶だけの会話じゃなくなったんだろうなぁ。」
「ひかりはさ、奥手じゃないんだけどさ用心深いというか。
 でもね、声かけられたりしても感じのいい紳士な人だと仲良くなっていくんだよ?」
「ひかりちゃんは弓弦さんとも似ているよね。
 俺には似てないけど、笑った時の口元とかがよく似ている。」
「そう?でも従妹だもん、似てて当然だよ。」
「ひかりちゃんとリーダー。
 多分さ、多分なんだけど弓弦さんが事件に巻き込まれて
 あまりにもショックな出来事だっただろうと思うんだ。」
「そうだなぁ。ひかりはあたしとあまり離れたことなかったから。」
「それに事件だから無事かどうかわからないし。
 それにさ、槙村先輩の飛行機乗り遅れ事件の時ぐらいから
 山本社長と知り合い、俺ら5人とも知り合いになり
 槙村先輩や秋山先輩とかとも交流が始まって、
 弓弦さんともひかりさんとも距離が縮まったじゃない?」
「そうだねぇ。それぐらいからかなぁ。
 君らともよく話したりしたし、お店にも来てくれたし。」
「それぐらいからかなぁ。リーダーとメアド交換して
 ひかりちゃんすごく明るくなったって言うかさ。」
「仕事上知っていることもあるんだろうけれど
 ひかりの場合は完全にプライベートなものだもんな。」
「ひかりちゃん、弓弦さんがいなかった間すごく悲しそうな顔で受付にいたんだ。」
「ひかり、そんなにあたしのこと心配してくれてたんだ。」
「でもさ、やっぱりそんなのを見てたらリーダーだって
 弓弦さんも心配だけどそれよりも目の前にいるひかりちゃんのことが
 気になったんだろうな。俺らにこそこそと。」
「ほら、社長があなたたち5人を呼び出したときもさ
 リーダーはひかりの顔を見て`受付嬢じゃん´って声かけた時
 すごくにっこりと嬉しそうな顔をしたての見てた?」
「それは俺も思った。で、弓弦さんがひかりって呼んだら
 `ひかりちゃんっていうんだ´ってにっこり笑った。」
「だろ?だからリーダー的には初めからひかりが一番気になってたんじゃない?」
「そうなのかなぁ。でも俺はさ、そのあとお店に行ったでしょ。
 ほら、リーダーと悠太と三人で。あの時、俺真面目に免許取ろうと思った。
 だって、悠太とバイクの話しているときすごく弓弦さんがいきいきと綺麗に輝いて見えてた。
 その時何かが自分の中に生まれる気がした。」
「そうなの?翔太君、免許取る?」
「ん、考える。その時から、弓弦さんと二人でどこか遠くに行きたいって思ったんだ。」
「とるなら車の免許だよ。バイクの免許は落ち着いてからゆっくりとった方がいい。
 限定解除とかは免許所得してからいろいろ条件があるから。
 車の免許を取って、事故を起こさないようになってから
 いい車を買うんだ。それまではすごく楽しいよ。」
「弓弦さんは車の免許いつ取ったの?」
「こっちに来てからかな。」
「バイクは?」
「高校入学してすぐ。学校では遠くから通学している人もいたし
 事故とか起こさないとかいろいろと決まりごとはあったけど
 免許を取ってはいけないとは言ってなかったし
 限定解除したのは、こっちに来て車の教習所に行っているときに
 車の免許取るのと同時に限定解除。」
「初めての運転での自分の車は?」
「ないよ。だってbikeあるし。車はお爺ちゃんが買ってくれたんだけど
 買い物に出た時にさ、駐車場に止めててぶつけられて
 その車廃車になっちゃった(笑)」
「えぇ?もったいない。せっかくお爺さんが買ってくれたんでしょう?」
「それはさ初心者だから、ぼろでいいって安い車だったんだ。」
「今の車は?」
「あぁ、あのBMWね。あれは5年前に亡くなった母の車。
 母が気に入って乗ってた車だったんだ。」
「お母さんの形見なんだ。だからいつみてもピカピカできれいにしてあるんだ。」
「そうだね、母もいつもきちんと洗って手入れしてたし。あの車気になる?」
「免許取ったら同じの買おうかな。」
「お揃いにするの?」
「お揃いだと何か怪しまれるかな。」
「翔太君となら西村さんは何も言わないさ。」
「そうかなぁ・・・・。」
「とにかく免許を取るのでしょ?取れたら、翔太君の運転でドライブに出かけよう。」
「車は?車買わなきゃ。」
「車はあたしのを運転すればいいさ。」
「弓弦さんのBMWを?ぶつけたら怖い。もったいない、あんなにきれいなのに。」
「そういう緊張感を持って運転したらぶつけないって、大丈夫。」
「ねぇ、弓弦さん。一枚撮っていい?」
「そう言わなくてもとるつもりでしょう?」

月明かりの下での屋上の写真。弓弦のシルエットが儚くきれい。
街の明かりに弓弦のシルエット。二人で手をつないでその影をとる。
誰もいない屋上に冷たい風が吹き付けてきた。かなり寒くなってきた。
翔太は弓弦の体を心配して部屋に戻ろうと促す。

「弓弦さん、戻ろう。部屋にさ、戻ろうよ。」
「寒くなってきたね。」

黙って屋上からの眺めを似ている弓弦の後姿はなぜはそのまま消えていきそうな
そんな気配を漂わせ、翔太は心配になってきた。

「弓弦さん?」
「なぁに?」
「なんでそんなに悲しい背中なのさ。
 誰から見ても幸せいっぱいな弓弦さんなのに、なんで?」
「なんでそう見えるの?」
「わからないけど、そう見える。」
「部屋に戻ろうかな。ここでは翔太君に心配かけてしまう。」
「そうですね(笑)さぁ戻りましょうよ。」

弓弦の車いすを押しながら病棟への入り口に向かう。
入り口のドアを開けると、踊り場があってそこでエレベーターを待つ。
その待つ間、翔太は冷たくなった弓弦の手を握り温めた。
エレベーターが来ると二人乗り込む、ドアが閉まったその瞬間。
翔太が握っていた手がすっと離れ、逆に翔太に絡みついた。

「どうしたの?」
「何でもない。何でもないんだけど、翔太君温かい(笑)」
「なぁんだ。本当は翔太君が好きとか言うのかと思った。」
「ん?大好きよ?だけど一番は西村さん。あたしはもうあの人なしでは生きていけない。」
「なんだか当てられっぱなしだな。」
「明日は休みなんでしょう?」
「休みですけど・・・・・・・・・・・・。」
「西村さんが今日は帰ってこないんだ。この間から仕事で夜に帰ってこないんだ。」
「それって・・・・・・・・・・・・・。」
「一人が怖い、さみしい。横にいてよ、話しよう。」
「いいですよ?でもそれはどういう意味です?」
「そういう意味。そばにいてほしいだけ。いろいろ話がしたいだけ。」
「んじゃ部屋に戻りましょう。」

そう言ってエレベーターを降りると、目の前にある看護師さんたちの
待機しているカウンターがあってそのカウンターの向こう側から
看護師さんたちがおかえり寒かったでしょうと声をかけてくれた。
一人の看護師さんが後ろから声をかける。

「原田さん、部屋は暖かくしてありますからね。
 暑かったらエアコン消してくださいね。」
「はぁい。」

そう言って部屋に向かってそこを離れようとしたとき、
弓弦は思い出したように逆に看護師に声をかけた。

「あの。この子が西村さんの代わりに部屋に泊まっていきたいらしいのですが
 その準備をしてもらってもいいですか?」
「えぇ。泊まっていかれるのですね。
 でも、一晩中話し込んではだめですからね(笑)」
「何でもお見通しだな。翔太君、悪さはできないぞ(笑)」
「悪さできませんって、西村さんから怒られる。
 俺は西村さんに変わって弓弦さんを見張る役ですから。」
「それは困ったなぁ。何かあると西村さんにちくるんだろ?」
「弓弦さんはちくられること話すんですか?俺に。」

部屋に行くと看護師さんがソファベッドを用意し、ブランケットをおいて行った。

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