森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 71

「ただいま、弓弦。兄さんは?」
「え?」
「誠さんだよ、誠さん。」
「さっき帰ったけどすれ違わなかった?」
「いや?気づかなかっただけか?」
「そっか、完全にすれ違っちゃったんだ。」
「翔太も社長と帰っていったぞ?」
「明日は仕事なんじゃない?」
「ということは今日は二人か。邪魔ものもいない幸せな夜か。」
「でも明日は仕事何でしょう?」
「午後からだな。でもなんでそういう風に冷たく言うんだ?」
「そぉ?」
「なんだかさ、誠さんからも言われたんだけど
 言葉が男女しているって。男言葉と女言葉が混じってるって。」
「弓弦は生まれた時から女なのだから当たり前じゃん。
 男言葉使って今まで無理してたんだから、自分に戻ろうとしたら
 そうやって少し変だなってぐらいは出てくんじゃないか?」
「あたし。あたしっていう時点でおかしいと自分でも思うもん。」
「いいんじゃないか?弓弦はどう転んでも弓弦なんだから
 言葉遣いをそう気にしなくてもいいんじゃない?」
「あのさ。」
「なんだ?」
「本当にいつまでも西村さんじゃだめだよねぇ。」
「んだなぁ。でも名前でも呼びにくいだろ?メンバーはいつも`まさ´って呼ぶし、
 誰だってそうだなぁ。`まさ´だなぁ。弓弦はどう呼んでくれるのか楽しみだ(笑)」
「人と同じ呼び方はあまりできないけど、でもいつまでも・・・・・。」
「どっちにしてもきっときちんと呼んでくれると思うけどさ。」
「あたし`ねぇ´とか`あのさ´とかそういう風にしか呼べないかも。」
「世間一般ではそう呼ぶのかもしれないけどそれ以上に期待したらいけないかなぁ。」
「いけなくはないけど・・・・・・。`あなた´はなんだか嫌だなぁ。」
「色っぽくっていいじゃん、だめ?」
「でもここでこの病室でそんな話する?誰彼聞いているかもしれないのに。」
「家族になるんだから別にいいじゃん。」
「でもはずいな。ねぇ、記者会見。記者会見は明後日?」
「今日は何曜日だ?」
「今日はえっと水曜日。」
「だと明後日か、緊張するなぁ。」
「あたしの方が緊張するよ。だって生でマスコミに喋るの初めてなんだもん。」
「大丈夫、さっき社長と話してたんだけどさ座る順番。
 左から担当医の大久保先生と病院の医院長、
 そして翔太だろ山本社長、川上社長、俺、弓弦、原田さんで、
 警察の三上さんとその相棒、だって。
 俺のマネージャーの山田と弓弦のマネージャーの渡辺
 そして誠さんは横に控えるという形だそうだ。」
「そんなに多くの人が?」
「あぁ。それで今回の事件の事の話の記者会見。」
「どれぐらいの時間あるの?」
「質問やなんかが終われば一時間ぐらいでそれは終わるんじゃない?
 でもさ、俺らの記者会見がある。それはそのあとに続けてするから
 それでどれぐらいかかるかなぁ。」
「そうかぁ。最低でも1時間以上かかるんだ。きついなぁ。緊張したままかぁ。」
「だから弓弦の体のことも考えて、大久保先生や医院長以外に
 看護師さんや麻酔科の先生とかも横で待機するらしい。
 まぁ、最悪弓弦が倒れたりしたらそこでおしまいだ。」
「あたしが倒れたらいいのね?(笑)」
「倒れないでくれよ?でないときちんと発表ができない。」
「緊張の上にその上さらにか。倒れても仕方ないんじゃない?」
「幸せのおすそ分けの記者会見だ、倒れるなよ。」
「でもなんだかはずかしい。」
「もう気持ちは落ち着いたんだろ?腹はくくったんだろ?」
「それはそうなんだけどね。」
「なぁ、弓弦屋上に行こうか。気分転換に。」
「うん。行きたいな。ちょっと待って看護師さんたちがうるさいから
 きちんと上を羽織らないと。」
「どれ。これか?」


西村は弓弦にはおらせるものを渡すと、きちんと着させて車いすの後ろにまわる。
弓弦がベッドから起き上がり車いすに移動するために左足で立つと
西村の背の高さとのバランスがよくわかる。
弓弦も背が高いんだなとそう見える立ち姿。
鏡を覗くと、弓弦の後ろに西村の姿が映る。

「俺たち絶対お似合いだよな。お前の顔が幸せそうに映る。
 そんな風に見えるけど、弓弦俺と一緒になると決めて
 本当に幸せそうな笑顔を見せてくれる。それが俺は一番うれしい。」
「幸せよ?だってこんなあたしをずっとずっと思ってくれて
 そしてどんな人たちよりもあたしを信じてくれてて
 いつもあたしのことを見つめてくれる。
 そんな安心をくれるのは西村さんあなたしかいないんだもの。」
「本当に俺の所へ来てくれてありがとう。
 始めは本心で結婚を承諾してくれたのかが不安だったんだ。
 だけど、今ではそういう風には思わない。思えない。
 だって弓弦がこんなに笑顔でそばにいてくれる。
 今までの中で一番の幸せの中にいるのかもしれない。」
「出会えたことに感謝だよね。ねぇ、長崎にも一度帰らないと。
 山口先生にきちんと報告しないと。」
「原田さんに挨拶してからでいいんじゃないのか?それが先だろう。」
「そうだね。」
「弓弦の父さんと母さんのお墓は?」
「長崎にある。こっちに移さなきゃいけないな。
 前にお爺ちゃんに相談したら、すぐにでも移そうって話になったんだけど
 それっきり忙しくなって手を付けていないんだ。」
「んじゃ、いい機会じゃん。こっちに移そう。
 外出許可をとれる記者会見の次の日はひかりちゃんのうちに行くんだろ?」
「あぁ。きちんと、伯父ぃにも伯母ぁにもきちんと結婚するって話しないと。
 でね。あのあたしがいる離れ。あそこをあたしたちの家にって。」
「誠さんが住むんじゃないのか?」
「兄さんはひかりの部屋の隣2室が誠さんの部屋になるって。」
「そうなのか?」
「あたしが使ってた部屋なんだけど、結構広いんだ。
 18畳の2部屋だし。あれだけあれば、誠さんでも広すぎさ。」
「弓弦の部屋って今の俺の家より広いんじゃ?」
「部屋だけだとわからないけど、あたしがもし本当に西村さんの家に
 シェアメイトとして引っ越してたら、荷物はいらなかったかもよ?」
「そんなにかぁ?今の離れに移った時の荷物は?」
「整理して捨てるものは捨てて、引っ越したから荷物も半分ぐらいになったっけ?」
「俺が引越ししてきても大丈夫かな(汗)」
「あの離れ、広いのよ?この間あの子たち5人に圭一郎さんと渉さんがいても
 多分みんな泊まっていけた広さはあるよ。
 リビングはピアノおいているけどあそこ20畳あるし、
 キッチンはそれぐらいあるでしょ?同じぐらい。
 で仕切ってないから余計に広く感じるけど。
 でのその奥に12畳の和室が2つと洋室が一つ。
 2階ね。2階はほら、あたしのベッドがあった部屋。あそこも18畳あるし
 そのほかにも3部屋ある。で、使っているのは2階のあの部屋と
 リビングとキッチンとか水回りだけ。荷物もそこにあるだけ。
 あぁ、楽器は倉庫に入れてある。」
「やっぱり弓弦は原田一郎の家系なんだな。伯父さんも伯母さんも
 その家系だから家も大きい。そんな弓弦を嫁にしちゃった(笑)」
「ひかりは本当は働かなくてもいいお嬢様なんだけどな。
 いづれは伯父ぃと伯母ぁがやっている料亭の女将になって
 しきらなければいけなくなる。本当はM'scompanyにいて
 受付嬢をしている時間はないんだけど。きちんとその家を継げるように、
 どこかの料亭とかで修業しなければいけないんだけどさ。」
「へぇ。ひかりちゃんって実はすごいんだ。」
「学校も確かFerrisかどっか卒業だったはずでさ
 お花もお茶も調理師の免状もフグの免許も持っているんだぞ。
 着物の着付けもすべて。」
「すげぇな。でも弓弦も調理師免状は持ってるだろ?
 フグの免状も。伯父さんから聞いたぞ?」
「あぁ、伯父ぃが別店舗を出した時にそこの全部を任せるからって
 食衛の管理者も取らされたし。
 仕事関連で衛生責任者は取ってたからすぐとれたしね。
「まるで弓弦は一人ででも生きていけるようだな。」
「そうかなぁ。でもさ、一度結婚してパートナーと共に生きることに
 慣れてしまってたら、きっと一人では生きていけない。」
「たとえ俺が何かの事故でいなくなっても弓弦にはたくさんの仲間がいる。
 そして、槙村君や大川君。俺としては一番翔太が信頼できるけど?」
「あたしは西村さんと共に生きると決めたんだ。
 たとえあたし一人になっても、パートナーは西村さんしか考えられない。
 だからそういうことは口にしないで。悲しいじゃない。」
「そうだな。でもそれだけ思われているとは(笑)」
「そうでないとあたし返事はしない。だからそんな話しないで。
 自分がいなくなったら誰にあたしを託すとかそういうことは考えないで。」
「わかった、わかったからそんな悲しい顔をするなよ。」
「今日はどうするの?」
「もちろんそばにいる。明日仕事に行くまで一緒に居たい。」
「ありがとう。でもかなり体調もいいのよ?
 本当にあと右足首の完治だけ。リハビリもかなり進んでいるし。」
「そうかぁ。んじゃ、来週の土日はきっと俺も休みだから一緒に出掛けよう。
 挨拶とかじゃなくって、一緒に居たいから二人だけで、出かけよう。無理かな?」
「遠出とか無理だろうし、先生がさ大久保先生が泊りがけでの外出は
 すぐ病院に戻れる距離でと言ってたから、自宅までが限界じゃない?」
「そうなのか?それもきちんと確かめよう。明日でも聞くか。」


「原田さん、夕食お持ちしましたよ。
 あら、西村さんもおられましたか。一緒に食べて行かれますか?」
「えぇ。でもここでは。俺の分は食堂になるでしょうから
 弓弦の分を持って移動しますよ。」
「では、原田さんの分食堂にもっていっておきましょうか?」
「ここにもってこられているのでしょう?いいですよ。
 弓弦は松葉づえで移動でできますし、俺が運びます。大丈夫だから。」
「そうですか?では、お願いします。看護師から食堂には伝えておきますから。」


「んじゃ、弓弦食堂に移動できる準備したか?」
「うん、大丈夫。行こう。おなか減ったでしょ?」
「あぁ、すげぇ腹ペコ。二人分食うかも。」
「痩せの大食いっていうんだっけ?それって。」
「そうそう、もう40なんでしょ?15も違うのにってそういうけど
 全然見た目はそうは見えないよ。」
「そっか、でも維持するために頑張らないとな。」
「十分ですって、西村さんの努力はちゃんと見ている人は見てますって。」
「弓弦は優しいな、誰にでも優しいから不安になるときもあるんだけどさ。」



食堂につくと、窓際の席が空いていたのでそこに。
暖かく眩しい夕陽が当たって、テーブルがオレンジ色にひかり
そのテーブルに弓弦の分を置く西村。
椅子を引き、弓弦を座らせると自分の分を頼みに行った。
西村が自分の分を取りに行っている間、ずっと外を見つめている。
その横顔が気になる西村。自分のを取りに行っているその場所から見える弓弦が
なんとなくなんとなくだが、初めて見る横顔に見えた。
何かを迷うのではなく、後悔している顔でもなく、ただただひたすら夕陽の差す方向を
見つめている横顔を、西村は真っ直ぐに見つめている。

名前が呼ばれ、自分の分を受け取るとテーブルに近寄るのに
ずっと窓の外を見ている弓弦の横顔。
何を考えながら、外を見つめているのだろうと気になった西村は
弓弦のそばに行き声をかけた。

「弓弦?」
「あぁ。おかえりなさい。」
「どうしたんだ?」
「何でもないよ?ただいっぺんに何もかもが押し寄せてきたから
 どうなるんだろうってそう思ってた。」
「でも弓弦、お前の携帯メールのチカチカ。気づいてた?」
「あ、本当。メールが来てる。言われるまで気付かなかったわ。」
「今見たら?急ぎだと困るぞ?」
「でもいい。今は西村さんとの夕食の時間だもの。
 入院している時間の中で西村さんとすごぜる時間は少ないんだから。」
「そこまで思ってもらえるとうれしいけどさ。
 きちんと確認だけはした方がいい。ほら、確認したら?」
「んじゃ、見るだけ。返信は食事の後で。」

弓弦はそういうと携帯のメールを開けてみた。
メールをしてきたのは`槙村´`元原´`ひかり´`圭一郎´`貴志´
そして`俊哉´‘峻´なんでこんなにと言わんばかりにまだまだ来ているメール。
悠太からも来ていると西村に言うと、
悠太のはこの間外出許可がいつからになるのか聞いてきたから
きっと、そのことでメールだと思うと言われ、後で返事すると答える。

「ねぇ、西村さん。」
「ん?」
「こういうのっていいね。」
「ここ、食堂だぞ?」
「ん、そうじゃなくってさ。
 少しして退院して、二人でいるとなるとこういう食事もあるんだって。」
「そうだなぁ。弓弦の手料理で過ごせる日も少なからずあるということだな。」
「あたしの料理でいいの?」
「弓弦は料理うまいじゃん。小さいときから手伝ってたんだろうし
 あの店でもちょっとしたものは作って出すんだろ?」
「ん。そうだね、でもそこまで複雑なのは作ったりしなかったって思うけど。」
「いやいや、弓弦さちょっとした物でも結構こってたのだしてたぞ。
 俺それ目当てで言ってた時あったもん。あれ。あれが好きだったなぁ。」
「なに?」
「春巻きの皮みたいに薄いパリッとしたのに、
 少しづついろんなものが乗ってたカナッペみたいなやつ。」
「あぁ、あれね。そのままじゃない(笑)」
「春巻きの皮???」
「うん。」
「上に乗ってたのは?」
「あたしが選んで買ってきたチーズや生ハムやいろんなもの。
 果物や、いろんなもの。少し火を通してみたりスパイスきかせたり。
 そんなに腕がいいほどの物ではないわ。」
「でもさ、弓弦の作るカクテルの相性は抜群だもんな。」
「ありがとう、褒めてくれて。」
「そんな弓弦の復帰を待ってるみんながいるんだもんなぁ。」
「復帰したい、早くシェイカーが振りたい。」
「おれも、弓弦のシェイカー振る姿を見たいよ。早く治るといいな。」

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