三月
美しくてかけがえなかったです。
この物語を読んでいる間だけでも彼が数えた浴室のタイルや、カーテンの縫い目や、水滴や、机の傷や夜の空気や草木のように、彼の心に介入しない無為なものになって彼と一緒にいたいと思いました。だけど美夜子ちゃんと出会ってやっぱり、人間がいいよなぁと優しく打ちのめされました。寄り添うことは時々、人より物のほうがよっぽど上手な気がします。でもふたりを見て、近づいたり離れたりしてその距離を確かめながらともに生きようとする歩みが、人間にできる寄り添いなのかもしれないと思うと、みっともなくても下手でもそれは、どんな物より美しくかけがえのない姿でした。人間はすごいんだなぁと思えました。正しさに迷うときは、どうかふたりが美しいと思える方角へ進んでいってほしいです。
彼らの闘いの終わりと始まりの先に、彼らの名前みたいに素敵な世界がずっと続いていくことを、ひとりの人間として強く望みます。