――承平7年(937年)
坂東と言う関東の田舎で小さな争いが起こった。


その争いのおり、国府に火を放った男がいた。


その男の名前は平小次郎将門(たいらのこじろうまさかど)。


国府に火を放つ行為、それ即ち国家に仇なすものなり。


平小次郎将門には謀反の疑いありと、坂東と言う辺境の地で起…

時は平安。

天皇を中心とした律令政を行っていた時代、まだ“武士”の地位は確立されておらず、野蛮人として貴族達から蔑まれていた。

これは、そんな時代のお話。




幼き頃から、兄のように慕ってきた大切な人を守る為、ある左大臣家の一の姫は、帝の后になる道を選んだ。

少女の名は千紗。





いわれのない謀反の罪を着せられ、処刑されかけた武門出身のある男は、幼き頃より主として仕え、淡い恋心を抱いてきた千紗姫を、目の前で他の男に奪われた。

処刑を免れる代わりに、大切な人を“権力”に奪われたのだ。

彼はやがて権力を憎み、後に歴史になを残す事となる。男の名は平小次郎将門(たいらのこじろうまさかど)。



そして、そんな二人の、もう一人の幼馴染み。名を秋成(あきなり)。

幼き頃に両親を亡くし、路頭に迷っていた彼は、左大臣家に賊として忍んだ縁で、千紗姫の護衛となった。主である千紗姫と、義兄弟の契りを交わした小次郎。その二人を追い詰め、苦しめた権力に、一人立ち向かう覚悟を決めた彼は、今度は帝の住まう御所に忍び込む。

危険をも顧みず、彼を突き動かすは、千紗姫の笑顔。彼女の幸せをただ真っ直ぐに願うゆえ。



互いが互いを思い、行動する中で、3人の想い悲しくもはすれ違って行く。



どこで道を違えたか?

固く結ばれていたはずの3人の絆は、まるで運命に弄ばれているかのように複雑に絡まりあう。

絡まれば絡まる程に、もう元には戻れない。



どんなに過去を願っても……もう過去には戻れない。

今を受け入れ、前に進むしか道はないのだ。




3人がそれぞれに悩み、苦しみながら歩んだ道の先に待つものは……








人が人を想う時、それは時として歴史をも動かす大きな力となる。





『時ノ糸~絆~』 第2幕