作品コメント
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- 嵐 万凛子
珠玉のことば
デザイナーベイビーという言葉が出現
して久しいですが、現在では、難病の
子を持つ親が、子を救うドナーになれ
る子をあらかじめ遺伝子の解析により
選択して、生む、というデザイナーベ
イビーが誕生しはじめています。
本作では、主人公である少年が恋した
少女が、まさにそういったデザイナー
ベイビーとして描かれています。
彼女は、難病の姉のドナーとなるため
誕生させられたものの、姉を救うこと
かなわず、そのことにより親に疎まれ
虐待されていました。
彼女を救おうともがくことで成長して
いく少年の姿はもちろん、彼を取り巻
く人々の珠玉の言葉が胸を打ちます。
私は、主人公の友人、せつなの言葉
に、物語を越えて自身の胸底を優しく
慰められた気がしたのです。
『許せない心を赦してやる努力をする
んだ』
他者にも、そして自分にも、そうでき
たなら、私も静かに思いました。
この言葉に出会うべき人がまだいる気
がするのです。あなたがそうなら、あ
なたにもどうか、届きますように。 - 流星
白い梅の咲く頃に
何もかもが恵まれているにもかかわらずそれが今一つ認識できず、周囲への形のない反発心を抑えきれずに学校では問題児とカテゴリ付けされている少年・政隆。
人並み外れて荒んだ反抗期の最中です。
そんな彼は実家から離れた祖父母の邸宅に「強制疎開」させられています。
その地でまるで白梅の精のような、「ナギ」と出会います。
年齢も性別も不詳、本当に妖精のような風貌でした。
ですがその人間離れした風貌は、過酷な家庭環境によって形成されたものだと判明。
その事実を受け止めていく過程で、政隆はいつしか他者を傷つけることよりも、守ることのほうが大切であることを知っていきます。
劇的な変化ではありませんが、徐々に成長していく政隆の変化が、読み進めるにつれて実感できていきます。
そしてナギとの関係・・・。
成長過程で両親からの愛を全く知らずに育った彼女もまた、政隆との出会いによってようやく生きることの楽しみを見つけられたようです。
二人の成長に重要な役割を担う、政隆の祖父母夫妻も素敵な人たちでした。
読み終えるとじわっとした感動が胸にしみてくる、素晴らしい作品でした。 - 緑茶
魅せる。
to-ya様の物語は
“魅せる”お話で
読み終わった時に
暖かい気持ちになります。
それは希望とか安らぎとか
形容しがたいのですが
とても穏やかで、心地よい。
主人公政隆はヒロイン・ナギとの出会いによって、己の境遇を理解し、また存在意義を見出して行きます。
傷付けるしか出来ないと思っていた拳が、守る為の掌と成る。
主人公の成長が手に取るように見え、力強さを感じます。
また人生の大先輩である祖父母の存在が印象的でした。
その祖父母やナギと触れ合ううちに、混沌とした世界に己の道を見つけた政隆。
人は一人では生きていけない。
でもそれを受け入れる事は
決して恥ずかしい事でも
情けない事でも無く
自分の出来る事を
精一杯やればいい。
それに精一杯になればいい。
勇気をくれる物語の中に、ピュアで実直な主人公の性格が微笑ましく、ついほろっと笑顔になります。
月並みな言葉で恐縮ですが、
愛と勇気を教えてくれる。
作者様が紡ぐ美しい文章が
大切な事に気付かせてくれる。
そんな物語です。 - あずま
とても優しく美しい物語
『不良』や『悲運のヒロイン』と言った、恋愛ジャンルの要素を持ちつつ、やはりto-yaさんの書かれる物語はとても上品な純文学なのです。
理由も無く荒んだ日々を過ごす、主人公の政隆。
そして、彼の人生を大きく変える存在と成ったヒロインなナギ。
二人の葛藤と成長を、作者特有の繊細な描写で描いた、美しい物語。
心が温かくなる、そんな作品です。
是非読んで、感動してみて下さい。 - さとみなおき
真っ白なこころに
札付きの乱暴者である男子高校生、政隆が、年齢性別不詳の白髪の子ども、ナギと出会います。
荒れた生活を送る政隆が、か弱いナギを守りたいと願い、そのために成長しようとする物語です。
不良には恵まれない家庭環境など不良になった理由があると考え、その理由の部分をドラマにしていく作品は時々見ますが、この作品はそういうものとは異なります。
政隆は激しやすい性分を人のせいにはせず、生まれ持ったものであると自覚し、それをコントロールする術を身につけていこうとするのです。
愛を知らずに育ったナギを理解しようとすることで、自分が愛に守られてきたことに気づき、愛しいものを守れる自分になろうと努力する政隆。
政隆を始めとする周囲の人々の愛情がナギを救い、救われたナギによって政隆も救われてゆく。
その二人の姿は微笑ましく、また感動的です。
お互いに相応しい自分になろうとする彼らのもとに本当の春が訪れたそのとき、白い妖精がどのような変化を遂げるのか。
どうかその目で確かめてみてください。