市藤にたか

史実に根を下ろした優しい物語
暗黒時代と呼ばれた中世ヨーロッパの地中海に、奇跡のような国がありました。

南国の日差しと、爽やかな潮風が運ぶ異国の香り。
憎みあい、殺しあっていたキリスト教徒とイスラム教徒とが共に手を携え、平和に暮らしていた奇跡の王国の名は、両シチリア王国。

そしてこの地上の楽園を築き上げた男こそが、物語の主人公シチリア王の元となった神聖ローマ皇帝「フリードリヒ二世」。

そして、共に戦う宿命を持ちながら、それを乗り越え熱い友情で結ばれたのが本作のエジプト王、フリードリヒの終生の友「アル・カーミル」です。

とはいえ、鬱陶しい歴史ウンチクを並べるのも無粋でしょう。
本作は彼の業績を元にしながらも、堅苦しさを作者得意の軽妙な語り口で巧みに料理し、非常に読みやすい童話風の物語に昇華させています。
肩肘張らずに、シチリア王と彼を取り巻く人々(特にエジプト王の側近はお気に入り)の織り成す世界に飛び込んでみてください。

シチリアを吹き抜ける優しい潮風と、南欧の強い日射し。
そして、文化を乗り越え人を愛した「シチリアの魔王」の姿が、きっと心に浮かぶはずです。