森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 32

圭一郎と賢一、元原はキッチンで買ってきた材料を手際よく切ったり
皿に盛ったりして準備をした。弓弦と翔太の歌声を聞きながら。
心地よい高さの歌声がそのメロディが気持ちを優しくさせる。
思ったよりも翔太と弓弦の声がしっくりと聞こえ、
悠太や槙村と一緒に歌うよりCDにしてもいいぐらいに似合っていた。
もちろん、その曲の持ち主の西村が歌っても聞き惚れるのだけれど、
それよりも弓弦の歌声が耳から離れない。
槙村は黙って弓弦が歌うその後ろ姿をじっと見ている。
西村のピアノで弓弦と翔太が歌い終わり、どっちがいいとかやっぱりとか
キッチンからも感想を大声で行ったりしてにぎやかな夕飯となる弓弦の家。
ホットプレートにも熱が入り焼けるものは焼き始めた。
テーブルには次々と皿が並び、食べる人は食べる吞む人は吞むと
次第に夕飯もにぎやかになっていく。

「この曲は西村さんの曲なのに、弓弦さんの持ち歌に聞こえる(笑)」
「うんうん。これもしかして西村さん弓弦さんのためにつくったんじゃない?」
「あはは、でもこの曲は男が女にプロポーズしている曲だぞ?
 弓弦は女だ。誰にプロポーズするんだ?」
「おれおれ。もちろん俺にしてくれるよな。(笑)」
「知りません(笑)」
「西村さんを差し置いて渉にってことはないだろ?」
「わからんよ?俺よりも槙村君の方がバイタリティあるし、
 弓弦のような迷える羊だとあっさりと引っ張られるかもな。」 
「西村さんが言うと、がぜん誘惑する気力でてきた(笑)」
「けしかけないでくださいね?先輩。
 あたし誰の物にもなりたくないんですから。
 自由が一番。誰からも縛られたくないから。」
「弓弦は本当に気ままが好きなんだな。」
「一人が好き、一人が一番。」
「弓弦もったいないなぁ。一人じゃ何にも面白いことないぜ?」
「一人の方が、風を楽しめる。緑を楽しめる。
 季節を感じることができるし、夜を感じることができる。」
「弓弦はいつも同じことを言うなぁ。」
「いつもですか?」
「弓弦とさ、差しで呑んだりするんだけどさいつも何かにつけて絡むと、
 自分はこうなんだからとさっきのことを言いつつ一人がいいんだっていうんだ。」
「西村さん、そういってさしで呑むこと言うと
 それぞれにお誘い受けるでしょ?言っちゃ駄目なのに。」
「言っちゃ駄目だったか?」
「えぇ。西村先輩だからこそなんだし。
 それにあたし、西村さんとしかさしで呑んだことないんですよ?
 他の人とは一切ありませんからね?」
「誰とも?」
「えぇ。誰とも。吞みに行ったことはありません。」
「そういえば沖縄でもさしではなかったなあ。
 誰かしらいたし弓弦吞まなかったよなぁ。」
「あたし麦酒とか吞まないんですよねぇ。」
「自分の作るカクテルも味見以外は口にしないって誰か言ってましたね。」
「アルコールはさ。吞まれると怖いからね。
 味覚がだめになるし、精神も追い込まれることもある。
 吞むまではいいけど、呑まれる自分を見たくない。
 ある意味アルコールに弱いところがあるからさ。」
「弓弦アルコールに弱かったっけ?」
「弱いって言うか、受けつけないというか。体調悪いときは具合悪くなるんだよね。」
「すぐ寝着く?」
「いや。クダ巻き絡んでグチ聞かせ?」
「それだめじゃん(笑)」
「酒飲むと悪い人間になるから、呑まないだけさ。」
「んじゃ、ここは自宅だし吞んでもいいんじゃない?」
「嫌です。みんないるのに。それに、打ち合わせ!
 食べてもあまり飲まないでよ?先輩。
 きちんと練習もしなきゃいけないんだし。」
「でもほれ、そこ。」
「ん?あぁ!吞んでるっ!圭一郎さんが呑んだら車誰が運転するのさ!」
「んぁ?俺?俺の事?」
「圭一郎さん!どうするのさ。」
「俺の車?槙村が運転だろ?」
「俺も車があるぞ?誰が運転してくれんだ?」
「元原、お前運転お願いな。」
「お?僕も吞んでるけど?」
「どうするのさっ!みんな帰るんだよ?」
「西村さんも吞んでるの?」
「いや俺は練習って思ってたから吞んでないけど。」
「んじゃ、圭一郎さんの車運転お願いできる?」
「あぁいいけど。車2台あれば全員送っていけるよね?」
「会社のタレント寮があったよね?」  
「あったあった。」
「翔太君。どこ?」
「本社の裏手になりますね。もしかしてそこに帰るんですか?」
「えぇ。自宅に送るにはバラバラだし、あたしも練習する時間欲しいし。」
「俺の車は?」
「槙村さんの車なら、ひかりが運転できるだろうから
 鍵をおいてって。明日の朝ひかりに出社の時に運転させるから。」
「あいつ、免許もってるのか?」
「一応ね。そこそこ運転はうまいと思うよ。」
「そっか、ならいいや。」
「無傷で会社につくとは思わないけどさ。」
「とほほ。」
「調子に乗って吞むのが悪いんだ(笑)」
「今何時?」
「今19時過ぎ。これから送って行っても21時前にはつくでしょう?」
「西村さん。ここはこのままで。行きましょう。」
「そうだな、みんなさぁさぁ。車に乗るぞ。」

夕飯を食べ終わった後のテーブルを見てもすぐ片づけられそうな感じだし
吞んだ缶も多いけどすぐだし、今のうちに追い払わないと家の中が大変と思い
弓弦は西村と一緒に彼らを寮まで送ることにした。

「さぁ乗って。西村さん、圭一郎さんのやくざベンツ大丈夫?(笑)」
「上等だなぁ。ぶつけないように頑張るさ。」
「て言うか、なんであたしの車の方に圭一郎さんと槙村さんが乗り込んでるのさ。」
「なんで?いいじゃん。」
「あっちは乗れたの?」
「西村さんが運転だろ?あと助手席と後ろに3人で???」
「一人どこ行ったんだ?」
「あ、翔太が残ってるぞ。」
「翔太くーん。こっちにおいでよ。助手席空いてるから。」
「んぁ?助手席は俺座ってるけど?」
「後ろに行って、そこは翔太君が座るから。」
「なんでさ、なんで翔太の席?」
「翔太君は正直でかわいい弟だから。」
「そか、弟か。なら許す(笑)」
「やっぱり弟かぁ。弟からせめて友達以上恋人未満だよなぁ。」
「俺もなぁ。友達なんだもんなぁ。扱いが。(笑)」
「さぁ、寮までの道案内頼むよ。案内は翔太君が正直で
 きちんとわかりやすく教えてくれそうだしな。」
「そういう信用が僕にあるんですね、なんだかうれしいようで
 嘘つけないのが悲しいというか(笑)」
「さぁ、行こうか。」

弓弦のBMWが前を行き、圭一郎の車を西村の運転でついてくる。

「西村さん。あれいいんですか?」
「何が?」
「圭一郎さんの獲物を狙うような視線と渉さんの自分の弓弦さん的な態度。」
「弓弦が平常心だから大丈夫じゃない?」
「隣は翔太だし。」
「翔太君は弓弦結構気に入ってるんだよね(笑)」
「弓弦さんは翔太が好みなんだ。」
「それは知らないがね。でもお気に入りなのはお気に入りみたいだな。
 まず自分にそっくりだしなんとなく似てるんだろうな。」
「誰に似てるの?」
「元彼さ。」
「へぇ、弓弦さん彼氏いたんだ。」
「その彼氏への思いが深い分、今は誰も受け入れないんだと。」
「弓弦は25だけれど、君たちは?」
「俺が29で中村と橋本と青井が28.翔太が27だっけ?」
「んじゃ、一番翔太君が弓弦とちかいんだな。俺なんて15も離れてるから
 相手にされてないようだ。」
「そんなことないですよ。沖縄でも西村さん西村さんってうるさかったんですから。」
「そうそう、何かあったら西村さんに申し訳ないから
 西村さんの所以外では仕事しないだとか。」
「なんにしたって、西村さんってうるさかったんですよ?」
「そうなの?ちょっとうれしいかも」
「弓弦さんは西村さんだけにしか心許していないみたいな感じだったしな。」
「それを聞いて安心したよ。」
「あっちでは何話してるんですかねぇ。渉さんのけぞってますよ?」
「んだな、圭一郎さんだってどえらい態度で後ろに乗ってるし。」
「笑顔で話してるのは翔太と弓弦さんだけ?」
「横につけてみるか。」
 
信号で停まるとき隣の車がいなくてたまたま弓弦の車の横に停めた。

「おーい。」
「あんだ?元原。」
「何、不機嫌なんっすか?」
「翔太が弓弦さんになれなれしくってさ。」
「圭一郎さんまで。」
「翔太はついたら半殺しさ。」
「怖い怖い(笑)」
「そんなんでおこられんなら、次は俺がやられるのか?」
「悠太なんだ?」
「弓弦さんとツーリングに行くから。」
「お前っ!」
「悠太は正直だなぁ。でもお前も同じだ。」
「弓弦さんとデートの約束はしなかったんっすか?圭一郎さん。」
「そだそだ!弓弦さん。俺とデートは?」
「お休みがあえばね。」
「んじゃ、チェック入れなきゃ。」
「弓弦とのデートは怖いぞ(笑)」
「西村さん?それって意味深な発言だなぁ。」
「あ。青。」

弓弦の一言で進む。信号が青で、進んで・・・・・。
そうこうしているうちに彼らの会社の寮についた。

「送ってくれてありがとう。」
「いや。それじゃ。」
「またな、友人たち。」
「西村さんも、お休みなさい。」
「お休みぃ。ナイトたち。」
「おやすみなさいぁい。」

寮の前から離れると隣にいる西村が弓弦に話しかける。

「家に帰ると片づけ大変だな。」
「でもあれぐらいだったら30分もあれば片付く、大丈夫さ。」
「今から帰っても22時前か。歌うと迷惑だな。」
「そうですね。どうしますか?」
「俺はどうしたらいい?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「俺は、このまま弓弦と一緒がいいな。」
「一緒に朝までいますか?」
「いていいのならば。」
「とりあえず、部屋を片付けなきゃ。」
「そうだな(笑)あれじゃ、酒臭くてな(笑)」
「んですよ。まったく(笑)」

少しゆっくり走りながら帰宅。車を停め、隣り合って停めたbikeの横を通り
離れの玄関まで、ひかりのうちの家の庭先を横切り向かう。
玄関を入ると二人は玄関先から散らかっているものを片付け始めた。
スリッパや引いてあるマットやあちこちに散らかったものを
所定の位置と思われる場所に、西村は手際よく片付けていく。
弓弦もテーブルの上から缶や瓶を先に片づけごみ袋ごとごみ置き場にだし、
キッチンにすべてを持っていく。部屋のテーブルは早く片付いた。
部屋はそんなに散らかってなかったから、早かったのだ。
キッチンに立って皿とかを洗いそれを西村も拭いたりして水屋に片づける。
そうこうしていると23時になった。
部屋とキッチンと片付けて一息つこうとソファに二人座り込んだ。

「疲れた。」
「あぁ、疲れたな。」
「TVつける?」
「いや、いい。電気消さない?」
「消すの?」
「だってさ、庭に照ってる月明かりきれいじゃん。明かりはいらないだろ?」
「そうだね。ねぇ、西村さん。飲む?」
「いただくかなぁ。弓弦お薦めのだろ?」
「この間さ、山村さんご夫婦から頂いたスパークリングワインがあるんだ。」
「へぇ。」
「山村さんの奥さまが選ぶスパークリングはあたしのいいとこついてくるのさ。大好き。」
「そんなに口当たりがいいのか?」
「喉ごしもいいし、甘いしアルコール強くないからさ。」
「んじゃいただく。」
「チーズはマーブルでもいい?」
「あぁ、弓弦の好きな組み合わせでいいよ。」
 
冷蔵庫からリッツとチーズと生ハムを出してきた。
そしてよく冷えたスパークリングワインと。

「これさ、スパークリングワインなんだけど宮崎のワイナリーで作られた奴で
 おいしいんだ。甘いんだけどきちんと酸味が利いてて
 味がまろやかというか、そういうのなんだけど。
 まさか山村さんご夫妻からもらうなんて思ってもみなかった。」
「弓弦がそんなに褒めるということはそれなりに国産でもいいものだということか。」
「そうだな。国内産でそうそうこういうものには巡り会わないんだよね。」
「普段はイタリア産とかが多いからな、弓弦。」
「はい、グラス。」
「おぅ。」
「では、月夜に。」
「月夜に。」

沖縄の事、長崎の事10日間を西村に話をした。
ついた早々に泳がされたこと。秋山さんと三本勝負して負けたこと。
悠太君がおぼれてそれを助けたこととか、練習の事。
きつくて倒れてしまって槙村さんに看病してもらい手を煩わせてしまったこと。
長崎に行って山口先生と会ったこととか。
西村は弓弦がそう話し続けるのを口を挟まず笑いながら聞いていた。
しかしふと弓弦の顔が曇る。

「山口先生や後輩が先生になっててうれしくて懐かしかった半面
 あの人がこういう場所に笑っていないというのが
 一番悲しかった。忘れる事ができない深い傷を作った彼が
 このあたしの生きている世界にいないことが、長崎にいくと
 ひしひしとわかる、つらかった。」
「弓弦は本当に忘れることができないんだな。
 でも、その人を忘れなくてもいいから自分を見つめることも必要だぞ?
 そんなに弓弦を傷つけても心を縛り付けているぐらいに
 その人もお前を愛していたんだろう。
 だけど、この世にいないんだ。そばにいる人間を見る努力をしようよ。」
「ある一種の精神のトラウマなんだと言われた。
 槙村さんの同級生に心療内科をされているご夫婦がいるんだって。
 そこに行ってみないかって言われた。槙村さんに。」
「そうだなぁ、俺もそれを薦める。俺もそれがいいと思う。
 ていうか、槙村君にも話したのか?弓弦のその話。
 ということは槙村君はライバルか。」
「西村さんとは比べれないですよ。彼は彼。西村さんは西村さん。   
 ただ、なんだかんだとしつこいんだけどあたしのことを
 ちゃんと理解しようとしてくれる。
 西村さんと同じ心持ってる人だね。だけど彼は彼。」
「でも弓弦のことをちゃんと心配してくれるから自分の友人で
 信頼しているところを紹介してくれるというんだろ?」
「そうなんだけどさ。槙村さんには西村さんまで気持ちがないかも。」
「それは彼にはかわいそうだな。でも、俺と一緒にならないときは
 彼が弓弦の隣にいるんだろうな、多分。」
「わからない。彼は強引すぎる。あたしとは合わない。」
「でもいずれにしろ心療内科にかかることは俺も薦める。
 心療内科というのは心の奥底から見つめ直して
 健康な心になろうよという所らしいからな。」
「あたしね、心療内科っていうところは精神科とあまり変わらないところで
 精神的におかしい人が行くところって思ってた。
 でも、違うって教えてもらった、槙村さんに。」
「いいことあるじゃないか、あの人も。きちんと弓弦のことを考えてくれてるじゃん。」
「でも、その一歩を踏み出せない自分がいる。」
「彼を忘れることじゃない。彼を思い出の正しい場所に移動していただくだけだ。」
「できるかな。」
「できるさ、お前には俺や槙村君やみんながいるじゃない。
 ひかりちゃんも相原さんも。みんなみんな。」
「だからあたし自身が逆におかしくなってしまったらって思うと怖くて。」
「それはないと思うぞ。なんなら俺が一緒に付き添うか?」
「それ一番緊張する(笑)」
「俺はさ、心療内科に行くことも必要かもしれないが
 弓弦が一番安心できる人のそばにいることが何よりいいことだと思うんだけど。
 それが俺ではだめなのかなって。」
「西村さんが?」
「あぁ、前にも言ったが俺はお前と共に歩みたい。
 毎日朝から晩まで一緒に居たい。今度さ、ツアー始まるだろ?
 それも一緒に連れて行きたい。」
「ツアーか、当分会えないのか。」
「来年明けるまでこっちには帰ってこないなぁ。」
「さみしい?西村さん。」
「もちろんさ、弓弦がそばにいてくれないし。」
「正直に言うね。西村さんにこんなに愛されてすごくうれしいことだし
 女性として幸せなんだと思う。だけどさ、欠陥だらけのあたしが
 そばにいても、何も幸せをもらった分のお返しができない。
 愛されているとしても、いつかは何の変哲もないあたしは
 どこかにおいて行かれてしまうと思う。
 年を取れば、見てくれもすごく変わってくるし。
 きっと、あたしは誰からも見てもらえなくなる。
 どうせ一人になるのならば、今のまま一人がいい。」
「おまえさ、何をそんなに悲しい自分に成り下がってるの?
 俺ちゃんと弓弦に誓う。ちゃんと聞けよ。」




「俺は、前から言っている通りそのままの弓弦を愛している。
 たとえ子供が産めなくても、煙草を吸ってても
 言葉遣いが悪くてもそれはこれから治せばいい。
 夜の仕事をしているけどそれは弓弦自身が自分を誇りに思っている
 弓弦の天性の仕事だ、誰にも何も言わせない。
 俺の妻はバーテンダーだって誇りを持って自慢できる。
 弓弦の今のすべてを俺は受け入れるしどんなに移り変わろうと
 弓弦を愛していることに違いない。そう思っている俺じゃだめなのか?」
「駄目じゃない。駄目じゃないんだけど・・・・・・・・・・。」
「泣くなよ、まるで俺が泣かしたみたいじゃん。」
「だって。西村さんまであたしを女にしようとするんだもん。」
「弓弦はどんなに頑張ってもきれいでかわいい女性だ。
 泣くなよ。なぁ、俺は今まで嘘は言ってないだろ?
 6年もの付き合いの中で嘘はついたつもりはないし
 弓弦への気持ちにも嘘はついたことはない。
 だから、弓弦が落ち着けばそれだけでいいんだ。」
「西村さん。」
「なんだ?」






弓弦は声をかけると西村が弓弦を向いた瞬間胸に飛び込んだ。
泣き顔のまま西村の胸に顔をうずめ泣いた。
これまでのことを思い出し泣いていた。
出会ったころからの思い出やあの人の事や走馬灯のように
何もかもが頭の中を駆け巡り、その中でも西村の笑って見つめる笑顔は
弓弦の中から消えはしなかった。

二人きりの月夜は25時を回っていた。西村とくっついて座っているソファ。
弓弦は涙が止まり静かに目をつぶっている。西村の胸に顔をうずめていた。
しずかに鼓動を聞いている。ふと西村が弓弦に声をかける。
弓弦は、ふと抱かれている状態から起き上がろうとして躓いた。
体勢を整えようと起き上がろうとした瞬間、西村の顔を見上げた形になった。
愛しい人の見上げた顔を西村は引き上げ抱きしめkissをした。

「西村さん。ねぇ。西村さん、苦しいよ。」
「弓弦。このまま弓弦を抱きしめていたい。」
「西村さんもあたしも汗臭い(笑)」
「なら、一緒にシャワー行こう。」
「一緒に?」
「ここは弓弦のうちだ。誰もほかにはいない。邪魔ものも。」
「一緒に・・・・・・。」
「この間は別々だったしな。一緒に流そう。」

バスタオルを持ってバスルームに向かう。突然西村が弓弦を抱き上げた。

「お前どれぐらいあるの?」
「何が?」
「身長と体重。」
「176㎝で56kだったかな?」
「それって細すぎじゃね?」
「そうなの?でも、これ以上太ったこともないし痩せたこともないし。」
「弓弦の体は無意識のうちにベストバランスを自分で取ってるんだな。」
 
シャワーを浴びる。濡れながらお互いの体を洗う。
西村の手が弓弦の首筋から胸に落ち腰に落ちる。
弓弦の手も石鹸の泡を多量に持ち西村の背中からと手を伸ばす。
お互いが抱きしめあいながらも、お互いの体を知るように
手で洗っていく。泡に包まれた二人は、そのままkissをしながら
きれいに流していく。西村の均整とれたがっしりとした体に
弓弦の細くしなやかな体。無駄な筋肉がついていない女らしい体は
西村も少し驚いていた。
バスルームを出た二人は、正面の鏡を見ながら体の水分をきちんとタオルで取っていく。
鏡越しに見えるお互いの体。西村は弓弦の体を離さないように
後ろにくっついている。弓弦に腕をからめて。

「弓弦、震えてないんだな。」
「不思議ね、怖くない。
 怖いと少しでも感じた時はおかしくなっていってしまうのに。」
「震えていないということは俺を受け入れてくれる気持ちになっているのかな?」
「かも。」
「気持ちが変わらないうちに、ベッドに行こう。」

そういうと、弓弦にkissをしそのまま抱き上げた。
階段を上がり、部屋のドアを開け入る。月明かりがカーテンを明るく照らし
部屋は別世界のように白く輝いている。
窓際のベッドに弓弦を下すと、西村はそのまま弓弦にkissをした。
弓弦の両腕が西村に絡みつく、大きな背中に弓弦の手は絡んでいる。
西村は弓弦にkissしたまま、唇を首筋に這わせ胸元にキスマークを残す。
会話も声もないままため息だけが部屋を埋め尽くす。
西村は唇を弓弦のおなかの傷にまで落としていった。
まだ痛々しく残るその傷は弓弦の体が緊張しているのがわかるぐらいに
赤く赤く浮き上がっているように見える。

「この傷がお前を呪縛から解き放してくれないんだな。」
「大切な愛しい人が付けた傷。
 だけど、それ以上に大切な人ができたらこの傷はどうなるんだろう。」
「大丈夫だ。俺がすべてを引き受ける。弓弦のすべてを引き受ける。
 弓弦はそのまま俺の所にいればいい。」

何度も何度も月明かりの中で、波が押し寄せては引き
お互いの意識が遠のいたりはっきりしたり、眠ることを忘れて
お互いの体を大切に大切に抱きしめていた。

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