森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 40

炎上事故があった場所の管轄の警察署に呼ばれて遺体の確認と言われ
朝早くに呼ばれたひかりとひかりの両親3人は遺体を前にして弓弦を確認できないでいた。
まだ6時前。この一週間、`mask´では通夜のような静けさのなか営業をしていた。
弓弦一人がいないだけで、なんでこんなに静かなんだと言わんばかりに。
もちろん事件を知っている弓弦の客は毎日のように顔をだし
弓弦の安否を確認しては帰っていくという一週間。
ひかりもショックのあまり数日会社を休んだが、
どうにもならないことを気にしててもしょうがないと、仕事に出ていた。
弓弦とひかりがいとこ同士と知る周りは、
一生懸命に笑顔を作り出すひかりがけなげに見えている。
誠もそのひかりとひかりの両親のことが心配で仕事が終わると弓弦の家に帰っていた。
一方、翔太は一週間で動けるようになり、撃たれた肩のリハビリ次第では
退院ができると言われ安心していた。
西村も麻酔が切れ、手術から丸一日で気が付いたが弓弦のことをしっかりと覚えていた。
弓弦のそばにいた自分が撃たれ、西村自身の返り血を大量に浴び血まみれになったまま
目の前から連れ去られていく弓弦を覚えていた。
気が付くと目の前には川上社長とマネージャーの山田がいて
気が付いてよかったと話しかける。

「良かったな。お前怪我だけで済んで。」
「社長、弓弦は?拉致され誘拐され今は?」
「お前覚えているのか。
 まだ行方知れずだ。安否の確認もできていない。
 でも、帰ってくるよ。警察も馬鹿じゃない。
 見つかるさ、無事で見つかる。そのためにも、お前が怪我を治さないとな。」
「良かったです、本当に気が付いてよかったです。山田、これで寝れます。」
「弓弦が行方知れず・・・・・・。」
「心配するな。小林さんが何か知ってる様子だ。無事に帰ってくる。
 お前は怪我を治せ。」
「社長、すみません。こんな怪我を負って。ツアーも一部変更しなければいけない。」  
「お前のせいじゃない。犯人に損害をかぶせるさ。やつらは6億盗んでいるからな。」
「6億と弓弦と。」
「お前が気が付いたことを知らせねばならない。
 事務所に戻るが、山田、お前が付きそうよな。」
「もちろんです、何のためのマネージャーですか。」
「んじゃ頼む。お前が気が付いて大丈夫なことを世間に知らせないとな。
 世間様も心配している。山本社長にも小林社長にもみんなに知らせなければ。」
「すみません、お願いします。」

治療室から個室に移る西村。TVとPCと持ち込み、チェックを入れる。
もしかしたらと。メールが入っていないかと。
しかし弓弦からの何かが何もなかった。
気を付いてからの一日一日が弓弦への心配で胸がいっぱいになっていく。
お見舞いで秋山たちが来た。槙村も。同じく入院している翔太も。
一緒にmartinの4人もみんな。誠さんや貴志や、`mask´の面々も。
弓弦のために無事に気が付いてよかったと。
西村さんが無事なのだから、弓弦も無事に見つかると。
こんなに弓弦の仲間は繋がりが強いのかとうらやましくなるぐらいに
みんな弓弦に対して優しく接するように西村にも優しかった。
すると、秋山と槙村と一緒に見舞いに来ているとき西村は伝えた。
槙村君には最初に話さなければと。

「隠していることがある、秋山さん。そして槙村さん。」
「なんですか?隠し事なんてみずくさい。」
「なんっすか?西村さん」
「特に槙村君には早くに言わなければいけなかったのだけれど。」
「弓弦の事ですか?」
「あぁ。」
「んじゃ、秋山さん。男の話をしたいので出てくださいよ。
 終わったら呼びますから。」
「俺だけのけものなんか?」
「いや、いてもいいですよ。隠すことじゃない。
 でも、ここだけの話しにしてほしい。」



「弓弦と俺は先日気持ちを確かめ口約束だけだが婚約をした。
 そのために川上社長は弓弦個人とマネージメント契約を結んだんだ。」
「西村さんと弓弦が・・・・・・・・・。」
「まだ公表はするつもりはない。もしかしたら弓弦は優しいから
 本当の気持ちを隠しているかもしれない。
 結婚しようと伝えたことにうんと返事をしてくれただけかもしれない。」
「だからステージ上であんな歌い方。あの衣装だったのか、西村さん。」
「あぁ、俺は本気でプロポーズしたんだとそういう意思表示だったつもりだ。」
「槙村、もやもやとした疑問は飛んだか?」
「とんだ、なんとなくしっくりいかなかったことがすっきりした。」
「すまない、隠してて。」
「いや、俺といても弓弦はちっとも幸せな顔をしなかった。
 それどころか違うことを考えているように見えていた。
 気持ちは西村さんで決まってたんだな。」
「すまん。」
「あとは弓弦さんが見つからないと西村さんも一生一人になるのか?」
「それは困る。弓弦が死んだら俺も後を追う覚悟だからな。
 生きて見つからなければ困る。」
「そうですね。まだ3日目です、これからですよ。」
「TVのニュースでもまだ何とも進展はないようですね。」
「つけっぱなしにしてチェックかけているが何もな。」

3人でいろんな話をしていたが、話しが終わり少しして彼らは帰って行った。

 (すまない。槙村君。すまない、弓弦。喋っちまった)

そう思いTVを見ている西村。早く何か進展があればそれだけでも違うのにと。
退院まではまだしばらくかかるらしいが、おちおち寝ている訳にもいかず、
先生にいつ動いていいか尋ねはじめた。

「手術してまだ縫合箇所がくっついていない。
 それがくっついて出血しなくなれば一度検査をし
 内臓の方の出血も落ち着いていればいいのだが
 傷の具合が良ければ少し体慣らしをリハビリ施設で行って
 まぁそれから一週間でかな。
 君の体はよく鍛えてある、年の割には回復が早そうだ。」
「年の割にはって(笑)まだ俺40ですよ?」
「そうだな、まだ40だ。
 これからだものな、嫁ももらうこととなってるみたいだし。でもなぁ。
 連れ去られて幾日しかたってない。無事さ。
 無事でなければ今頃ニュースが流れている。
 何事もないということは無事だということだ。」
「そうですね、そう思わなければいけないのですが。」
「事件も早々に解決するといいなぁ。」
「そうですね。」

西村は、事件から4日目には自分で痛いと言いながらも
ベッドから起き上がれるようにはなっていた。
翔太の方も、退院が近いのかリハビリ室でも動きがスムーズに。
部屋でも、毎日友人たちが出入りしていてにぎやかだった。
周りにも心配させないように、復帰も退院後すぐらしい。
西村も良かったなぁお互い無事でと声をかけていた。
しかし二人の前で怪我こそしていなかったが西村の血を浴び
血まみれのまま泣き叫ぶ弓弦が連れ去られたのがショックで
たびたびに話しながら涙を浮かべてしまう始末。


翔太の退院が決まった7日目の朝。
多摩川から少し離れた街中で車が事故で燃えたという速報がTVで流れた。
そして6人の遺体がこげ残り、それの確認が急がれていると。
朝6時過ぎのニュースで流れた。そういう怖い事故があったんだと
早くに起きた西村は見ていた。それがその強盗の車だということも、
その車に乗っていたのが犯人らしき人物たちだということも、
ニュースでは一言も発言しなかった。
午前中の地域的なニュースでは普通に事故の話として流れていたその記事。
午後になると内容が急変した。

「今日の11時の警察からの発表によりますと、
 先日銀座のUFJ三菱銀座支店の強盗犯人グループが
 けさ早くにXX線の線路わきの橋脚に激突炎上したとのこと。
 この車からは遺体6体と共にバッグが6つ黒焦げの状態で見つかっており
 一つのバッグから出てきた紙幣の燃えた分からナンバーが読み取れ
 犯人が奪って逃げた現金6億のナンバーと照合。
 一致することが判明しこの6億だと判明しました。
 そして出てきた遺体6体が犯人グループのものだと。
 はじめは強盗グループは5人とされており、この遺体の一人は
 原田弓弦さんと思われていましたが身元確認のために呼ばれた親族のかたがたが
 この中に原田さん自身のからだと思われるのがないといい
 警察は、確認を急いでおります。
  
 現在、あちこちで捜索が続けられておりますが
 まだ原田さんは不明のままです。
 不審な家や、おかしいと思われるところがございましたら
 03-****-****またはフリーダイヤル0120-***-***まで
 ご一報ください。」

どの局でもそういうことが速報で流れた。西村の部屋に翔太が駆け込む。

「弓弦さんが!弓弦さんが!」
「落ち着け、翔太。まだその遺体の中に弓弦と決まった遺体はない。
 あの6体の遺体の中に弓弦はいなかったんだ。どこかに生きている、どこかに!」
「あぁ、僕もそう思います。僕も。今退院の手続きが終わり
 母さんと会計を済ませていたところなんです。
 僕、捜索に加わります。行ってきます。」
「翔太、頼む。みんないない、仕事で誰も動けない。
 お前しかいない。弓弦を頼む。翔太、俺が動ければ一緒に行くのだけれど。」
「待ってて、僕必ず見つける!弓弦さんを、必ず。」

そう言って西村の病室を飛び出した翔太。そのあとから西村の携帯に、電話がかかる。

「おぅ、川上だ。ニュースを見たか?」
「可能性が。今、翔太が、探しに行きました。」
「そうか、でもお前は動くな。傷が治っていないから動けば危ない。
 お前は翔太を待つんだ。わかったか?」
「翔太にも言われました。俺が行っても足手まといになってしまう。
 わかってますよ。きっときっと見つかるって信じています。」

川上は西村は勝手に動き回ってはいないか心配で電話をかけたのだ。
電話を切ると、槙村からすぐに電話が入った。

「西村さん、今大丈夫っすか?」
「あぁ。」
「ニュース見ました。もしかして動いていませんか?」
「いま、社長にも動くなと言われたばかりだ。」
「俺も今ロケで北海道なんです。動けないのが悔しい。」
「大丈夫だ、俺らの気持ちを持って翔太が探しに行った。
 きっと見つかる、今日見つからなくともすぐに見つかる。」
「ですよね、明日ロケが終わったらすぐその足で帰ってきます。
 俺も探しに行きます。」
「無理はするなよ。弓弦は大丈夫だから。」

そう言って、槙村は電話を切った。そうしないうちに誠が西村の病室に現れた。

「西村さん、いますか?」
「はい、どうぞ。あぁ、誠さんお久しぶりです。というか事件ぶりですか。」
「そうですね。見たんでしょう?ニュース。俺が脱走しないように???」
「いえ、西村さんの足になろうと貴志たちと来ました。
 これから、車の事故現場からみんなで探しに行くんですよ。
 で、西村さんの携帯をお借りしたいと。」
「俺の携帯?なんで?」
「弓弦の携帯ですが、連れ去られたときは電源が切られていた可能性が
 高かったんですが今朝の事故があってから、携帯がつながるんです。
 電源が入っているみたいで。でないんですが電話には出ないんですが、
 ベルは鳴るんです。」
「それ他の人には話したのか?誠さん」
「いや、まだ。毎日2時間おきにかけていたんです。
 それを誰にも言っていないんですが今日ベルが鳴ったことで
 西村さんにだけはと。そう思ってここに立ち寄りました。」
「そうなのか?ベルが。遠慮なく持って行ってくれ。
 かかってくる電話には出なくていい。ただその電話から弓弦の携帯にかけてくれ。
 お願いだ。俺の携帯なら弓弦が返事をするかもしれない。」
「そう思って。そう思って携帯を借りに来ました。
 お借りします大切にお借りします。そして絶対に見つけ出しますから。」
「頼みます。弓弦を頼みます。」

誠は西村の携帯を借りて病室を後にした。
駐車場で貴志や俊哉たちが数台の車で寄っていた。
西村は窓を開け、頼む!弓弦を頼むと大きな声で声をかけた。
みんないい顔をして返事をする。きっと見つけると。

駐車場から散り散りに散っていった車を見送ると病院の電話を借り、事務所に電話を入れた。

「俺は本当にいい友人たちを持った。だから体が動かない分友人を頼った。
 弓弦を探しに行ってくれている。
 もしどんな形ででも弓弦が見つかったら、外出許可をもらって
 事務所に行く。記者会見でもなんでも受けてやると伝えてくれ」

社長がいなかったため、山田に伝言した。
その午後は連絡待ちで、誰もピリピリとした西村の部屋には入れずにいた。
いつもなら、ファンの看護師さんや子供たちが遊びに来るのだけれど
西村は静かに連絡を待ちたかったため、申し訳ないが頼まれてくれと
看護師に声をかけドアに面会謝絶の札をかけてもらってたのだ。

じりじりと時間が過ぎていく中、夕方となった。
まだ弓弦は見つからない。夜になってもまだ誠さんたちは帰ってこない。
病院での夕飯を食べ、消灯の21時となる。電気を消され、こっそりとPCだけをつける西村。
23時をまわるころ、誠がこっそりと看護師たちに見つからないように
西村の部屋へやってきた。

「遅くなってすまない。一区切りして帰ってきた。」
「ということはまだ見つからないんだな。」
「多摩川の河川敷とか土手の道とかは、結構人の往来があるのだが
 浮浪者も多い。草薮なども多くて。それに広い。」
「あそこは広いなぁ。広すぎるな。しらみつぶしに探すなら
 少しづつしないと難しいなぁ。」
「でも、あそこは早くから走っている人も多いし
 散歩の人も多い、少しでも目撃情報が出るといいんだが。」
「そうだなぁ。」
「貴志たちとも話をしたんだが、休みの人間が朝早くからお昼までを探し
 勤務の人間が昼から勤務前までを探すことに決めた。
 で、探す人間を多摩川の土手沿いと町中と二つに分けて
 怪しいところを片っ端からつぶしていく。そう話して決めた。
 で、携帯は返しておく。またかかってきたら俺にかけてくれ。」
「明日明後日が勝負だな。」
「おうよ、必ず見つける。待ってな。」
「わかった。頼む。」
「お前に頼まれなくとも俺は弓弦を探さねばならない。
 お前と弓弦が一緒になれば俺も身内になる。
 その話しも弓弦が見つかったら話すさ。」
「なんだ?なにかあるのか?」
「あぁ、ちょっとな。それが聞きたければ
 弓弦が無事に見つかることを誠心誠意祈っていてくれ。
 また明日、顔を出す。」
「あぁ、おやすみ。誠さん」
「あぁ、いい夢見ろよ。」



誠は今日のことを話し、病院を後にした。

コメント

ログインするとコメントが投稿できます

まだコメントがありません