森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 41

突き落された後、意識を失っていた弓弦。
どれぐらい時間がたったのだろう、体全身のどうにも言いようのない痛みと
土手で突き落されて誰かが助けてくれたのか薄い壁のとうなものに囲まれている
弓弦の寝床は、少しうっすらと乾草のにおいがする。
乾草をボロボロと言ったら失礼なのだけれど、ボロボロの布で寝床を作ってあり、
背の高い弓弦のために足元に継ぎ足したような跡があった。
弓弦はただただ見えるところを目を凝らしてみているのだけれど
あまり暗くて見えない。
壁のように見えているその薄いすだれのようなその向こうに薄暗く灯りが見える。
その薄暗い明りがともるそこには人の気配がする。
目を凝らす。よく見えないが数人いるようだ。
弓弦は起き上がろうとするがやはり体全体に痛みがはしり動けない。
すると話しかけてくる誰かがいる。

「のぉ、大丈夫かね。お嬢さん。」
「え、あの・・・・。」
「お前さん、何も覚えてないのかね?」
「あの・・・・・。」
「お前さん、車から突き落とされただろう?
 その時にな、この人の家を壊しちまったんだがお前さんの方が傷だらけで、
 痛そうで声をかけても、気絶しちまってたから、うちに連れてきた。」
「ありがとうございます。でも、ここはどこでしょうか?」
「多摩川河川敷の草むらのそばにあるコンクリの穴の中だよ。誰にも見えない場所じゃよ。」
「おじさんは?」
「私たちは、ここに住んでいるのさ。いわゆる住所不定無職ってやつだ。」
「助けてくれてありがとう、でもどうやってお礼をしたらよいか。」
「お礼など気にせんでいい。それよりもお前さん体は大丈夫なのかい?」
「えぇ。痛いけど、立てるし。多分。」
「無理じゃろう。折れてるんじゃないのか右足は。」
「あっ。痛っ・・・・・・。立てない・・・・なんで?なんで?」
「やっぱりのぉ。うっ血していた血を出して、添え木をしておいた。
 痛むだろうが、消毒もしたから大丈夫じゃ。」
「それになしばらく動かさん方がいいと思って、そっちに寝かしていたんだが。」
「えぇ、でもちょっと。動けない。本当に動けない。」
「そうだろう、体中青あざがすごいし、擦り傷切り傷ばっかりじゃ。」
「見ず知らずのあたしを助けてくださって。」
「さぁ今はお前さんが倒れていた朝からすると3日目の夜だ。
 明日にはもう少し動けるようになるだろう。
 さぁ、休みなさい。俺らが食べているものはゴミだ。
 だから食べもんはわけれねぇが、明日起こしてやるから
 その時にここを出ていきな。」
「出ていくなんて・・・・。」
「お嬢さんのいるようなところじゃない。ここは。
 明日の朝起きたら、ここを出るんだ。」
「助けていただいて、本当にありがとう。」
「お嬢さん。そして俺らがここにいることを話してはいけない。
 住所不定無職というのはそういう人生だったのだからさ。」
「そうだ、助けた我々のことはしゃべらないように。
 お前さんには明日ここを出るとき目隠しをする。
 で、ある程度人目につくところまで行ったら外してやるから。
 怖いだろうが、お前さんを無事に現世に返してやるから。」
 




「ありがとう。ありがとうございます。」
「ここも最近警察とかいろんな人が増えて俺らもいづらくなってきた。
 決して、俺らの存在は言わないでほしい。
 それが俺らへの恩返しなのだよ、お嬢さん。」
「わかりました。でも、少しまだ眠るまで話をしてほしい。
 いろんなことを、いろんな今までの楽しかったこととかの話を。」
「じゃぁ、お嬢さんが眠るまでみんなでしゃべろうか。」

「おじさんたちは?わからなくてもそれはおじさんたちにはいいんだろうけれど
 あたしの足を楽にしてくれたということは
 おじさんたちの誰かがそういうことを知って治療ができたってことだよね。」
「おいおいそんなに突っ込まないでくれよのぉ。(笑)」
「立てないし、無理すると痛いんだけど動かさずにそっとしていると
 疼いて熱っぽうぐらい以外は何ともないしさ。」
「まぁ、差支えのないところだけなぁ。きっとお嬢さんが納得しないと
 ガンガン聞きまくって寝られんかもしれんぞ。(笑)」

弓弦の横になっている場所に、その場所にいた爺さん3,4人が集まってきて
にぎやかに話を始めた。弓弦も、その面白くおかしく話すことが
すごく楽しくてすごく久しぶりに笑えた気がしていた。
そしてその話の流れだったのか気が向いたのかそれぞれがそれぞれの話を始めた。

「わしは医者やった。金の亡者ばっかりしか周りにはおらんどってな。
 何もかもを捨ててここに流れてきたんじゃよ。」
「私もここ関東の人間じゃないんだが、昔就職で出てきてそのままいるんだが
 やっぱり人間不信かな・・・原因は。
 よっぽどここにいたほうが人間らしい心で生きられる。」
「わしもそうじゃ。みんな理由はいろいろあるんじゃがな
 ここがすごく過ごしやすいんだよ。
 何日も飯も食わずとも、誰かにごみ扱いされてけがをしても
 どんな目にあおうともこの仲間でいるそれだけで
 今までの自分じゃなく今を楽しく生きる自分だと
 そう思える生き方をしてるんだよ。」
「家族は?奥さまは?お子さんは?」
「捨てられたわしらにそういうものはおらん。」
「そうじゃな、私たちが捨てたんではなく、私たちが捨てられたんだ。
 そうでなければ捜索願がまだまだ延々と出されているさ。」
「私も捜索願はもう取り下げられたらしい。いつもの交番にはもう貼ってなかった。」
「確認したの?」
「わしのうちは案外近くでな、一度だけ夜中に家を見に行ったことがあるが
 一度目は家の中には家族がいたが表札は嫁の名字になってた。
 2度3度行くと家には誰もおらんくなっててさ
 いつだったか、売り家になってたな。それ以来行ったことない。」
「みんな今のままでいいの?」
「あぁ、いいからここにいるんじゃって。」
「私もそうだな。私がいなくなってあいつらはきっと幸せさ。
 俺もそのほうが幸せだしあいつらだってきっとそうだと。」
「そうかなぁ。」
「なぁなぁ。そんな暗い話しないで、もっと楽しい話ししようよ。
 人間笑ってないと幸せが寄り付かないぞ(笑)」
「そうだなぁ。御嬢さんは?御嬢さん自己紹介は?わしらが知ってもいいところだけ話なよ。」
「あたし・・・・・弓弦って言います。銀座の`mask´でバーテンダーをやってて」
「どうしたんじゃ?」
「ごめん・・・・」
「つらいこと思い出させたかの・・・・。」
「いや、先週ね強盗があってそれで誘拐された。」
「あぁ、新聞にのっちょった。それ、誘拐されたのかお嬢さんかい。」
「物騒な世の中ってみんな騒いでたなぁ。」
「でも、お前さんはきちんと帰る場所がある。せっかく気が付いたんだ。
 明日の朝早くにでも、お前さんを公園に連れて行こうかね。」
「そうだな、怪我のきちんとした治療もしなければいけんだろうし
 私らもここにいるということを知られずに生きておるから
 ばれるのも怖いしの。お嬢さんには明日の朝早くにな。」

いろいろと話している中、事件のことなどをいろいろ話させられたが
何も知らない誰ともかかわりのない人たちに話すことで弓弦も気持ちが整理でき、
気分的にも楽になっていった。
余計に寝れないかもと思っていたが一時間過ぎたころ、弓弦は寝着いてしまった。











まだ暗い夜も明けない周りが見えづらい朝。
弓弦は助けられた浮浪者たちに起こされ、目隠しをされた。
一歩一歩弓弦が躓いて怪我をしないように、骨折をしている右足側に杖を持たせ
弓弦の両側に立ち支えてくれる。
弓弦は目隠しをされているのにその人たちの優しい声で安心している。
足がおぼつかない弓弦をみんなで支え、連れて行ってくれる。
どれぐらい歩いたのだろう。その間も、いろいろと笑える話をしてくれる。
歩くのがつらく痛く、でもそれを感じさせることのないように
いろんな藩士をしながら弓弦のペースで歩いてくれる人たち。
しばらくするとどこかはわからないが座れる平らなところに座らされた。



「お嬢さん。100数える間だけ待ってくれ。
 100数えたら、その目隠しを取っていいから。
 そして、お前さんの握りしめていたそのものを横に置いてある。
 わしらはそれをどうやっていいかわからないが
 何度も音がなっちょった。まだ夜は明けていない。
 目隠しをとると、わしらが見える。
 わしらはこんなんで恥ずかしいで、遠くに離れる。
 遠くに離れたわしらなら見ても構わんからな。
 さぁ。ゆっくりと100数えるんじゃ。」



そう、弓弦の手を握りゆっくりと話しかける浮浪者たち。
目隠しの下からは涙があふれてこぼれている。
優しい浮浪者たちは、涙を拭いてあげたり、肩に手をかけ声をかけたり
そして、弓弦が数を数えはじめると逃げるように離れていった。


突き飛ばされて幾日が過ぎたのだろう。
弓弦は100数え終わると、目隠しをとりあたりを見回す。
河川敷のはし、鉄橋が見える公園のベンチに座らされている。
陽が差してきた。夜が明け、少しづつ明るくなってきた。
鉄橋の上を始発が通り過ぎる。その鉄橋の下の土手に4人の小さい影が見える。
弓弦はあの人たちだと思い、ありがとうと上がらない腕をめいいっぱい上げ手を振った。
小さなその影も手を振り遠くに歩いて行ってしまい影が見えなくなる。

ベンチに座ったまま、横に置かれたものを見た。
和哉が部屋を出る前に、お前の携帯だと言い渡された弓弦の携帯だ。
電源が入っている。いつから入っているのかがわからないが
着信やメール受信のランプがちかちかしているのがわかる。
みんなが心配しているんだと、携帯を見てみるといろんな人からのメールが
受信されてきている。
電源が入ってからの不在着信だろう。
誠からの着信と西村からの着信とで何件も何件も入っている。
電池を見ると無くなりかけてて、どうしようもなくなってきていたのだが
西村にだけはと、携帯から西村に電話を入れる。







 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´






何度か鳴らしてみるが、でない。そうれもそうだ。
携帯の時計を見ると、5時前。







 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´






 
もう一度かけようとすると、ちかちかとし始めた。電池が無くなり始めたのだ。







 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´
 






でない。まだ起きているはずもない時間。
すると逆に、電話が鳴った。見ると西村の名前。







 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´





涙があふれる。





 `turururururur tururururururur´




取らなければいけないのに、涙で声が出ない弓弦。取れない。








 `turururururur tururururururur´






着信があったはずなのに、かけると出ない。焦る西村。






 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´

 `turururururur tururururururur´




落ち着いた弓弦。思い切ってとる着信。






「・・・・・・・。あたし。」



「弓弦!今どこだ!弓弦!」


「わからない。どこかわからない。河川・・敷だとは・・・・思うんだけど。」


「そこで待ってろ!そこにいろ!」




「・・・あ・・・・・・・・・は・・・・ツーツーツー・・・・。」




電池がなくなったのだろうか、犯人に見つかって切られたのか
途中で切れてしまった。西村はすぐに、看護師を呼ぶ。

「車いすを貸してほしい。今すぐに。お願いだ。」
「どうされたんですか?」
「タクシーを!タクシーを呼んで!車いすと!」
「どうしたんですか?いったいこんなに朝早くから。」
「弓弦本人から電話があったんだ。行かないと!俺が行かないと!」
「誰か空いてる人いない?西村さんに付き添って!」

そう言って看護師たちが騒いだ。すぐに車いすが用意されタクシーを呼ぶ。
正面玄関に行くと、タクシーがいて西村はそれに乗り込み
付き添い入らないと言い張り一人で行ってしまった。
すぐに看護師たちは担当医師に連絡を入れ、状況を話すと川上社長に連絡を入れた。

(西村さんが、車いすで一人で病院を出て行った。原田さんから電話があったらしい。)

川上に電話を入れたのだ。川上は時計を見て警察署に電話を入れる。

 (西村の所に原田が電話を入れたらしい。西村が一人タクシーで移動している。
  彼もけが人で心配だし原田も心配だと。タクシーはKタクシーでナンバーは**-**。
  看護師たちが見ている。追跡かけるとわかると思うんだが)

まだ6時前である。

 `見つかった。原田が見つかった。´

西村はいてもたってもいられずに、飛び出したのだと思われる。
西村はたどり着く前にと誠に電話を入れる。

「すまない、朝早くから。」
「おはようございます、西村さん。」
「さっき弓弦からの着信があった。河川敷のどこからしい。今、向かっている。」
「本当ですか?弓弦が?」
「弓弦の携帯の電池が少なかったのだろう、すぐ切れてしまって
 今はかからない。河川敷を端から探してみる。」
「西村さん、俺もそっちに行きます。」
「助かる。」

電話はそれで切れたが、誠はすぐにひかりとひかりの両親を起こし
すぐに貴志に電話。オーナーにも電話を入れてくれと話す。
河川敷は広い。河川敷ではグランドもある大きなところもあれば
土手から降りると草薮ですぐに川に落ち込んでいるところもある。
広い河川敷をどこから探したらいいのかがわからないがとにかくそこへ急ぐ。
まず、事故のあったところの近くの河川敷からと。

誠は貴志に電話を入れた後、そこへ向かう。
貴志もすぐにオーナーに電話を入れ、真志にも健にもみんなに電話をしまくった。
仕事で寝ているだろうが弓弦が見つかるかもしれないと。

ひかりはすぐに元原にメールを入れる。状況を話し社長にも連絡を入れてほしいと。









河川敷についた西村。タクシーを降り、ゆっくりと車いすで
河川敷の隅々を見渡しながらゆっくりとゆっくりと進む。
それらしき人は見えない。

少し明るくなって、走る人たちが増える。犬の散歩の人が増え始める。
明るくなると、河川敷の藪の向こうで釣りをしている人の後姿が見える。
対岸でもゴルフの練習をしている人や、新聞配達する人やいろんな人の生活の朝がうかがえる。
鉄橋を過ぎ、広いグランドが見えた。そこにも姿はない。見えない。いらだつ西村。





もう一つの鉄橋をくぐる時間には、かなり明るくなってきた。
でも河川敷に土手にもそれらしき影が見当たらない。
川岸の向こう側の広い場所にも何も影すら見当たらない。

気のせいで終わらせたくない西村はどんどん進む。車いすでゆっくりと。


先の方に公園が見えた。それから先は草薮になってしまう。
草薮の中だと見つけにくいので、誠たちを待たなければならなくなると
そう思った瞬間だ、その公園の端のベンチに倒れている人影が見えた。





公園のそばまで行くと、車いすを降りたどたどしく歩き階段を下りる。





「弓弦?」

「弓弦なのか?」

「弓弦?おい、弓弦か?」


その倒れている人のそばに行く西村。確かに弓弦のようだ。
いや、弓弦なのだと確信した西村はそばにより抱き起す。
ボロボロになったシャツと泥まみれのジーンズ。
あのチャリティーで衣装を着替えてた時に着ていた恰好のままだ。
シャツが西村の血で汚れて汚くなっており、どういう状況だったのか
擦り傷や打ち身であざがあちこちにできている。








「おい、弓弦。起きろよ。弓弦!弓弦!起きろよ・・・・。」







呼吸はしているのだが、浅い。苦しいのか呼吸するのがきついのか
弱弱しい弓弦の呼吸。弓弦に呼びかけるが動かない。ピクリともしない。
呼吸が浅くても呼びかけに答えなくても弓弦の心臓はとりあえず動いているらしい。
胸に耳を当てると、`トクン・・・・・・トクン・・・・・・・・・´と聞こえる。
今にも止まりそうな弱い鼓動だけど、動いているのがわかる。
冷たくなりかけている弓弦。あの桃色の頬の色も
今はまっ白で血の気が無くなって唇もカサカサに乾ききっており
瞼も動きはしない。あのしっとりとした白く滑らかな肌は
ここ何日も何も与えられていないかのような感触。
西村はこのまま弓弦を死なせないと、必死で呼びかける。
耳元でささやいていた西村は次第に弓弦の意識が
無くなっていくような気がして心配になってきた。
頬に刺激を与えても弓弦は動かない。乾ききった唇に、がむしゃらにkissをする。
起きてくれと、抱きしめ涙を落としながら弓弦を呼んでいる。
きつく抱きしめもう一度耳元で弓弦の名を呼ぶ。
どんどん冷たくなっていく弓弦の体。
抱きしめ暖めようと西村は必死に抱え込み、弓弦の腕を足を
自分の手が届く範囲をさすって暖めようとするがらちがあかない。
どうしようもなくただただ弓弦を抱きしめ死ぬながんばれと声をかけ抱きしめていた。




しばらくしたとき、弓弦が動いたような気がした西村。
顔を見ると眉間に皺が寄っている。









「弓弦?聞こえるか?弓弦?????」













「・・・・・・ん。」











「おい、弓弦わかるか?俺だ。」


「あぁ・・・・あぁぁぁぁ・・・・会えた。」

「弓弦・・・・生きててくれてありがとうなぁ。」

「会いたかった、会えた・・・・やっと。」

そう呟くと弓弦は意識を失った。
西村はどうすることもできなくて、ただ弓弦を抱きしめ誠たちを待った。


そう時間が過ぎることもなくとパトカーなどと一緒に誠たちの車もちらほら見えてきた。
西村はここだと手を振る。そして携帯で誠に電話を入れ
弓弦と一緒に居る場所を伝えると、すぐに駆け付けた。

それとほぼ一緒に警官たちも駆けつけ、救急車が呼ばれる。
西村と一緒に弓弦を運ぶためだ。

コメント

ログインするとコメントが投稿できます

まだコメントがありません