森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 43

弓弦が見つかったという連絡がオーナーの所にもかかってきた。
貴志からだった。貴志が涙声でオーナーに弓弦さんが生きて見つかったと話した。
あまりの嬉しさにオーナーもただただ声にもならない返事で受話器を持ったまま
泣きながら貴志の声を聴いていたのだ。
オーナーは見つかったとの連絡と受けた後この間の場所まで、片桐の事務所まで足を運んだ。
朝はいつものように事務所にいるはずだと思って。
案の定、片桐は事務所の奥にいてTVを見ていた。

「親父さん、よろしいですか?」
「なんだ。」
「客です。小林と名乗る。」
「あぁ、とおせ。」

そういうと、がっちりとした体格の男は小林を部屋に入れた。

「どうだ。」
「何がだ。」
「俺は無傷で返せと言ったよなぁ。」
「そうだったか?」
「お前はよぉ、どこまで仁義をとおさねぇんだ?」
「そういうな。俺はきちんとお前の前で無傷で返せと指示をした。
 守らなかったのは事故で死んだあいつらだ。」
「あいつから強盗した金は燃えた。あの金からちょっといただこうかと思っていたが。」
「金か。」
「お前たちの下っ端が傷をつけたあの子の手術費用だけ
 きっちりとはらっていただこうと思ってな。」
「俺は関係ねぇぜ?」
「いや、関係ねぇとはいわせねぇ。なんせお前の組のもんだからな。」
「・・・・・・・・なんで嗅ぎ付けた。」
「お前らが黙って6億握らせる下っ端か?」
「燃えたのは紙切れがほとんどだ。知ってんだぜ?」
「ナンバーが確認された札と、ほかのバッグに入ってた札の一部だけが本物さ。
 あれだけこげたらわかんねぇし。」
「で、いくらだ。」
「手術費用だけでいい。保険もきかねぇだろうし手術代金も馬鹿高いはずだ。
 それ以上はいらねぇ。出所は言わずに支払いだけすればいい、
 それ以上はつっこまねぇ。」
「小林の親父。お前欲がねぇなぁ。」
「欲がねぇんじゃねぇ。汚い金は多くつかむと自分が汚れる。
 余分にはいらないんだ。それに一番弓弦が嫌う。」
「大泉のおんじぃには迷惑かけたと伝えてくれ。後は一切迷惑はかけないと。」
「わかった。だがもう俺らを巻き込むな。」
「お前も相変わらずだなぁ。」
「支払金額が決まったら電話する。」
「あぁ、わかったわかった。」





そう言って部屋を出た。
組の事務所を出たところで、誠から電話があり弓弦の手術はひとまず終わり
命には別状何ともないという報告を受けた。
店に戻り、ほかの仲間にそのことを伝えると、泣いて喜んでいた。
仲間がいて助かってそれを素直に喜ぶこの子たちのつながりは
他では考えられない絆なのだろうと小林は感じた。

「今日も助かった弓弦のために頑張るからな。」

そう言って開店準備をし始める。



弓弦が見つかったというニュースが流れた。
お昼前から流れてはいたのだが、手術が終わり手術結果が良好だということを
夕方のニュースで流した。

《さて、今日の朝から見つかった先日の強盗事件で拉致誘拐されていた
 タレントの原田弓弦さんですが、同じ事務所のタレントの西村正弘さんのいる病院で
 治療・手術が行われ命に別状はないとの発表がありました。
 この事件の一部を知っている原田さんの意識が戻り次第
 話を聞くことになっていると思われます。
 強盗はどうして原田さんを誘拐したのか、どこに潜伏し、
 逃走する朝に原田さんを多摩川の堤防沿い
 あるいはその近辺で原田さんを捨て逃げした犯人。
 どういう風に解放したのか、どういった期間どういう風な扱いをされていたのか
 心配するところではありますが、原田さんの意識が戻り次第
 事件が少しづつ明るみに出ると思われます。」

そう言ってTVの中では事件を騒ぎ立てるが詳しいことは何もわからない。
片桐も自分の一部が出はしないかとハラハラしてみているが
今の所何も出てこない。小林は何も話していないんだなと。

そんなニュースが流れ、`mask´では一番の話題で開店から賑わいを見せた。






`mask´が開店する。弓弦が見つかったニュースを聞いて喜んだ客たちが
集まってきている。そこにはいない`原田弓弦´を指名しての来店。
黒服はその客らの喜びの気持ちがうれしく、そのまま指名が入りましたと
店内に伝え、原田の代わりに頑張っている真志や健、俊哉たちに客を振り分ける。

「ようこそ我が城`mask´へ」

そう迎え入れるとそのままあけてある弓弦のブースにスポットライトが当ててあり
煌々とその場所を目立たせてある。そこに立っているのは、誠だった。

「ようこそ我が城我が仲間弓弦の席にようこそ」
「あぁ、聞いたよ。原田さん、見つかったって。」
「ありがとうございます。」
「良かったなぁ、ここに菊の花が立たずに。
 みんなうれしいんだなぁ。こんなに寄せ書きが」
「えぇ。山村様もここに一筆。
 一日一日夜が明けるごとにこれを弓弦のベッドにもっていこうとおもってます。
 まだ、見つかった時に意識を失ってしまったままですが
 怪我や骨折は手術で大丈夫になりましたしあとは回復を待つだけです。
 皆様がご心配されているので、私はその様子を伝えに。
 弓弦はまだベッドの上で黙って寝ているような状態ですが
 手術の後もしばらくできるだけの間は、
 付き添ってそばにいたんですがたまに左手が動くんです。
 返事をするように動くんです。多分、そんなにしないで気が付くでしょう。」
「そうか、そうなのか。良かったよかったなぁ。
 仲間もみんなうれしいんだな。活き活きとカウンターに立って
 楽しそうにしている。」
「えぇ。みんなみんな、あいつたちも俺も、そしてここへ足を運んでくれる
 皆様で弓弦が見つかり命に別条がないことを喜んでくれて本当にうれしい事です。」
「そういえば相原君。そこにそうやって立っているのを久しぶりに見るなぁ。」
「そうですか?そうかもですね。
 弓弦がここに来てから、あいつは短期間で成長しました。
 あいつの腕はぐんぐん伸びていつの間にか自分のブースを確保して
 各ブースの顔と共に弓弦の顔をなったここです。
 俺のブースは移動しましたが、ここは弓弦がいてもいなくても
 弓弦のブースなんだと思います。
 だから弓弦がいなかった間は、彼女を慕っていた後輩たちが
 弓弦を守るために、毎日掃除してピカピカに保ちそして誰も使わなかった。」
「いつ戻ってきてもいいように磨いてあるんだねぇ。」
「グラス一つも傷や汚れがないように。」
「そしてそれを君が守っているのだね。」
「はい。弓弦はかけがえのない仲間です。そしてかけがえのない`妹´ですから。」
「ん?それはどういうことだ?」
「弓弦が喋りました。弓弦の人生が動く前に話があると言われ聞きました。
 そのあとのこの事件でまだ俺の中ではどうしたらいいかわからないのですが、
 でも、大切な大切な存在です。」
「まぁ、彼女が帰ってきてからおいおい話が聞けるだろう。
 君もまだ詳しく事細かには聞いていないのだろう?」
「えぇ。弓弦がいないと本当のことを聞きに行けない。
 早く意識が戻ってほしいものです。」
「そうだなぁ。でないと、私もお姫様たちとデートができない。」
「お姫様たち?」
「えぇ、お姫様たちだ。弓弦が帰ってくればまた楽しい時間を過ごせる。
 待ち遠しいねぇ、弓弦さんの復帰が。」
「皆さんそのことは言われます。さぁ、ここに山村様ご自身で
 弓弦に励ましのお言葉をお願いします。」
「喜んで、喜んで書かせていただきますよ。」

そう言って来店された山村も、来店されている弓弦の他の顧客も
みんなみんな書いてくれたので書かれたそれは一日でもかなりの厚さになっていた。

弓弦が誘拐された日の夜の営業からメッセージノートが綴られることとなり
一日目には山村を筆頭に、親交のあった著名人などや
大学の同級生、西村や秋山たちを通じて知り合った人たちが
店へ訪問し、入れ代わり立ち代り来店してはお見舞いと言って
何かしらオーナーたちの預け書き残していく。25時の閉店まで続いた。
閉店するとそのメッセージノートを誠が持ち帰ることとなったが
店の仲間たちも後輩たちもそのメッセージノートにそれぞれ書き記したいと
誠が帰るのを引きとめ書き込んでいる。
健は、早く帰ってこないと客を奪うぞとか
俊哉はやっぱり弓弦が大好きで、早く帰ってきてとそれだけ書く。
みんなみんな、弓弦を待っているのだ。
弓弦が見つかり病院へ運ばれた夜もみんなで喜びたくさんのメッセージを書いた。
退院祝いも決めないとと、気が早いことまで話しをしている彼ら。
帰り際にはオーナーも弓弦信仰はかなり浸透していると笑っていた。
翌朝面会が10時からだということで誠は準備して病院に向かう。
ひかりから誠の携帯にメールが入った。

 `誠さん、おはようございます。お引越しのお気持ちは決まりましたか?
 一応あたしが使っていた部屋の階の弓弦が使っていた2室を片付けました。
 引っ越してこられるのは、いつでも大丈夫と母がつたえてと言っていましたので。
 そして今日は弓弦の所に行くのですか?
 まだ意識は戻ってないのかな。いるうちに戻るといいなって思ってはいますが。
 今日はあたしも定時で上がります。
 あたしに話があったのが、秋山さんたちが意識が戻ったら面会に行くと。
 槙村さんが今日の午後時間が取れるので病院に向かいますと。
 martinの5人は明日午前中にお見舞いに行くと言われてました。
 弓弦が使われているアルバムが今日の夜に出来上がってくるので
 それを明日お持ちしたいと。気が付くかなぁ。意識戻るといいな。
 誠さん、弓弦のことよろしくお願いします。´

ひかりは本当に弓弦が心配で心配でならないんだろうなぁと
誠はその長いメールを読みながら笑っている。なかなかメールを返信しない
誠は、どう返信していいかわからずに笑いながらも何度も何度も読んでいた。

信号で止まるたびに読んでいると返信することもなく病院の駐車場に着く誠。
誠の車の助手席には昨日の夜に書かれた分厚いメッセージノートと
社長に預けられた弓弦を心配する客のお見舞いと
貴志がこれをと渡した手紙とおいてあった。
持っていくのが大変だけどと、一つづつ抱えているがどうしようもない。
とりあえず預かったお見舞いだけを持って病院内に入っていった。

「おはよう、西村さん」
「あぁ。おはよう、誠さん。それは?」
「昨日さ、弓弦が見つかったってニュースで流れただろ?
 弓弦の客たちがさ、入れ代わり立ち代わり。」
「大変だったなぁ。お店も。」
「で?弓弦は?」
「さっき見に行ったけど、まだな。行ってみるか?」
「あぁ。」

西村の車いすを誠が押して、弓弦の病室へ向かう。
意識がないだけで緊急性を要しないということでICUの隣の部屋に
弓弦は寝ていた。まだ、意識は戻ってない様子。
昨日の手術の麻酔はもう切れているはず、なのだが意識がない。
担当の先生も他の患者さんの間にこまめに来られるのだけれど
弓弦は眠ったまま。いろんな機械がつけられ腕には食べていない分の
栄養を補給するための点滴の管がつけられそのつけられた少し上に
輸血をさっきまでしてたのか針が刺さった後が大きく腫れ上がっている。
ICUとは違い、弓弦の寝ているそばに行けるのでその左手を握る西村。
まだ握っても握り返しはしない弓弦。このまま意識が戻らないとと思うと
不安に駆られる西村。誠も弓弦をじっと見つめる。
弓弦のベッドの横で二人座って、この間のことをと誠が口を開いた。

「西村さんは弓弦の事知っていますか?」
「体の事か?それとも家族の事か?」
「えぇ、どっちともだが体の事はなぁ、槙村さんだって知ってるんだろ?」
「家族の事はさ。お母さんは亡くなってしまっただろ?お父さんは
 小さいころだし。あとはひかりちゃんといういとこと
 その伯父さん伯母さん。まだこれから顔合わせだったしな。」
「そうだっけ?」
「口約束だけの婚約だしその朝にはチャリコンだろ?」
「で、事件で誘拐で・・・・・か。」
「だから詳しい事なんて何にも。」
「俺と弓弦、兄と妹だそうだよ。」
「それはどういう事?」
「西村さんが弓弦にプロポーズしただろ?
 その日のリハーサルして、そのまま店を開けたんだ。
 店自体は25時までだが俺らはステージのために21時には帰ったのさ。」
「前の日の夜か。」
「あぁ、遅くに来たらしいな。
 俺も伯父さんと伯母さんが用意してくれた部屋に泊まってたからさ。」
「そっか。その時に弓弦が話したんだ。誠さんと自分の事。」 
「まず、弓弦の事。この話は沖縄でさ、弓弦の恩師の一人が
 口を滑らせた。というかばらした(笑)」
「あの事か?」
「弓弦はさ、吹楽連盟の会長原田一郎のたった一人の孫だそうだ。
 で、父親はその人の一人息子。バイオリニスト原田孝太郎。
 原田孝太郎の叔父はあれだ。指揮者・原田栄二だ。」
「弓弦は音楽一家の孫なんだよね。音感いいはずだ(笑)」
「父親孝太郎とじいさんの一郎とは縁を切った形だったらしいが
 孫の弓弦はかわいかったんだろうなぁ。こっちの大学に決まり
 出てきたときには大喜びだったそうだ。」
「いくら縁を切った親子でも孫はかわいい。爺さんは嫌われたくない一心で
 弓弦と会ってたらしいよ。そして弓弦にだけは心を許していたらしい。
 あるとき、爺さんがずっと悔やんでいることを弓弦に話したんだって。」
「それが誠さんの話か。」
「あぁ。俺は弓弦の父さんと結婚を反対された彼女との間に間に生まれた子なんだと。」
「誠さんと弓弦の年の差って????」
「10だな。」
「弓弦の父の爺さんは俺の母に過酷な運命を背負わせた。
 そして俺も父親が誰かわからないだけですごく不安でみじめな人生を歩んだ。
 だが、弓弦の爺さん。つまり父親の父だなその人が悪い訳ではなさそうでさ。
 だけどさ正直、俺はあまり会いたくないし話もしたくない。
 しかしな、それだけでは何も前に進まない。
 弓弦が気が付けば、爺さんは会いに来るだろうし鉢合わせもするだろう。
 あったことがない爺さんだろうけど、一度はな。」
「そうだなぁ。誠さんがそういう境遇とはな。でもそれをいつ気づいたんだ?弓弦は。」
「`mask´に勤め始めてしばらくしてからだそうだ。
 弓弦を店に送ってきたじいさんが俺を見て話をしたそうだ。」
「どこか誠さんとその関係を持った人との間に面影が強く残ってたんだろうな。」
「でも、そういうことだ。弓弦と西村さんとが結婚するとなると
 俺の立場はそうなるということだけ。」
「俺より年が下の兄さんかぁ。」
「それ言うなさ。複雑な気分さ(笑)」
「早く気が付くとうれしいんだが、今日も全然反応なしだな。」
「まだ午前中だ。お昼はどうするんだ?」
「あぁ、何にも考えてない。西村さんは部屋食だろ?」
「んだなぁ。誠さんの食事も食堂のを運んでもらうか。」
「いや、俺は開店準備があるから帰るわ。」
「そっか、また来れるしな。」
「まだ車に弓弦への荷物が積んである。とりあえずそれを運んだら帰るよ。」
「お見舞いの荷物だけじゃないんだ。」
「あぁ、お見舞いで包まれたお金だけじゃなくってさメッセージノートとかがあるし。」
「お金は車にはおいておけないもんなぁ。」
「このお見舞いのは西村さんに預けとくよ。嫁さんのお見舞いだからな。」
「俺が持っててもなぁ。」
「いや、西村さんが持ってないといけんだろう?弓弦のだから。」
「わかった、んじゃこれは俺があずかる。あとは?」
「メッセージノートとあと貴志の手紙を預かってるんだが
 それは枕元に置いててもいいだろう。そっちに置きに行くよ。」
「わかった。んじゃ、俺は自分の部屋に戻るよ。」
「あぁ、おとなしくしておけ(笑)」
「じゃぁな。」

二人は弓弦の病室を出ると、部屋と駐車場にと別れていった。
お昼をはさみ、午後の回診が始まる。

「西村君、体調はどうですか?」
「まずまずですが」
「午前中も車いすででしょうが奥さまの部屋には行けたのでしょう?」
「えぇ、客が来たので案内していきましたが。」
「ここへ帰ってくるまで車いすに座っててきつくはなかったですか?」
「少し痛みはありましたが気になるほどでは。」
「では、見せてください。」

熱を計られ、シャツをはぐって脇腹の傷の確認をする。
血がにじんでいることはなく、また傷が開いている様子もなかった。

「明日は、傷がどこまでどうなっているかを検査しましょう。
 表の傷に血がにじんでなくても内部で出血してたら大変ですから。」
「大丈夫でしょう。先生の腕です。信じていますよ。」
「信じられていても、あなたは昨日動き回って傷が開いて
 出血させちゃいましたからねぇ。(笑)」
「あぁそうでした、そうでした。それで少しの間気絶しちゃったんですよね(笑)」
「そうですよ。だから明日はそれを検査します。いいですか?」
「わかりました。で、弓弦の様子は?」
「あぁ、今別の先生が診察をしておられます。
 終わったらこちらでその様子をはなししてもらいましょうか。」
「そうしてください。お願いします。」

西村は15分ほどの回診を受け、あとはPCとにらめっこしながら
ゆっくりとしていた。するとドアをノックする音が聞こえる。
 
「どうぞ、だれ?」
「槙村です、おとなしくしてますか?(笑)」
「あぁ、槙村君。どうしたんだ?」
「少し時間が取れたんで様子を見に。」
「そっか、ありがとう。」
「で、西村さん具合は?」
「俺は大丈夫さ。」
「まだ弓弦は気が付かないんですか?」
「麻酔はもうとっくに切れてるらしいがな。
 急いでも仕方がない。かなりな出血で輸血も足りなくてさ
 今朝もまだ点滴と同時に何かしてたみたいだ。」
「そっか、まぁ、事件からの2週間余りの事だからなぁ。」
「急いで気が付いても困るよ、警察がじっと待ってるしさ。」
「なぁ、西村さん。」
「どうしたんだ?槙村君。」
「弓弦は・・・・・。」
「おいおい、意識が戻るまで俺には何も聞くなよ。
 戻って落ち着いたら直接聞けさ。」
「でも弓弦は西村さんの言葉を受け入れた。」
「弓弦は優しい。気を使ってたのかもな。何度もいうなかでさ、
 仕方ないと思った部分もあるんじゃない?」
「それは違うと思う。俺にははっきり言った。
 自分の人生の最後の時はきっと西村さんと一緒に居ると。
 きっと同じことを聞いても、同じことをお互いに言うと思う。
 そんな感じがするって。」
「俺はてっきり槙村君がかっさらっていくと思ってた。
 だめもとで弓弦のうちに行ったときに酔った勢いもあったけど
 真剣に考えてって言ってプロポーズした。
 何度も何度もあたしでいいのかって聞き返す弓弦に
 そのままのお前しか考えていないというと返事をくれた。
 ただそれだけなんだ。」
「沖縄に行ったときにさ、宿舎で夜に二人っきりになったんだ。
 弓弦が貧血がひどくて意識失って倒れた時一人にすると
 気が付いた時にまた練習して無理をするだろうからって
 一晩、見張るために一緒に居たんだ。」
「その時弓弦は何も話はしなかった?」
「弓弦の女じゃなくなったことを聞かされました。
 高校の時の話を。でも、そういうことで決める俺じゃないって。
 それもすべて受け止めると言ったのに、弓弦の横顔は
 何か違う場所を見つめているみたいだった。
 抱きしめてもkissをしても、俺の方は見てくれなかったんです。
 多分ずっと前から気持では西村さんだけを受け入れてたんでしょうね。」
「なんだか複雑だな。でも、君みたいな魅力のあるいい男に
 プロポーズされても弓弦は靡かなかったんだな。」
「ある意味芯がしっかり一本通った人ですよ。手ごわい。手ごわい人です。」
「俺は弓弦という手綱をしっかりと持っていけるか、少し不安だな。」
「弓弦は愛しているとは言葉は使わないんですが
 毎日西村さんの名前が出てこない時間はありませんでしたから
 すっごく焼けましたもん。西村さんが弓弦を一人にしたら
 次は遠慮なく俺がかっさらいます。油断しないでくださいよ?」
「槙村君がかっさらうと、弓弦は返してはもらえなくなるんだろうな。」
「俺だけじゃない、翔太が本気なのを知っています。
 ほら、`mask´の貴志君もまじめに本気ですよ?」
「決まってもまだライバルが暗躍しているのか、
 俺はいつまでたっても落ち着けないなぁ。」
「ははは。みんな狙っていますよ。西村さんが少しでも手を放した瞬間
 かっさらえる時を、しっかりと見計らっていますって。」
「油断大敵だなぁ(笑)」
「んじゃ、西村さん。顔を見に来ただけだからさ。」
「弓弦の所にはいかないのか?」
「西村さんがそばにいるのに、俺がいるとおかしいでしょう。
 意識が戻ったら、会いに行きますよ。」
「そっか。」
「仕事に戻ります。西村さんも無理はしないように。
 ライバルはライバルらしくですよ。」

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