森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 46

診察室の隣の部屋で担当医と西村が付き添いの上ということで
弓弦への警察からの尋問が始まる。

「えっと、わたくしは中央署捜査1課の三上と申します。
 初めまして。今日は大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です。痛みがまだ残っているのでこのままで。」
「動かないでいいすよ。お話だけ。ちょうど西村正弘さんもおられるので
 事件当日の事から覚えているところを話ししていただけたら助かります。」
「というと、西村さんが撃たれて橋本君もけがをして
 あたしが殴られ連れていかれたところから?」
「そうですね。あの日、殴られたのは?」
「鳩尾の所で、苦しくて声が出ずに。そのまま車に連れ込まれ
 頭を何か服みたいなものでかぶせられました。」
「どこに連れて行かれていたかはわかりませんか?」
「かなり右に左に曲がって走っているなとは思いましたが
 走行しながら誰かが電話をしていました。
 すぐにどこか駐車場みたいなゲートが付いた場所に逃げ込んだのか
 ゲートの何かが下りる音がしました。鉄の塊みたいなのが降り、
 カシャーンってなにかが落ちるというか降りるというかすごい速さで閉まった。
 そういう感じです。」
「その音がしたときまで車に乗せらててどれぐらいの時間でしたか?」
「わからない。わからないけど、すぐのような気がします。
 つかまえられてて口をふさがれてて、何にも見えなくて。
 でもすぐについた場所で車を下され、足首と腕と縛られて
 目隠しをされガムテープを口に貼られ、大きななんだっけ…
 釣った魚とかを入れるクールボックスの大きいのに入れられて。
 でもちゃんと息ができるようにふたを少し開けてくれていたので
 息ができたことはうれしく思いました。」
「犯人たちの話声で何か気づいたことはありませんでしたか?」
「男性ばかりでした、隠れ家みたいな場所では6人の男がいました。」
「そこは車を乗り変えて、移動した先ですか?」
「一度目の車の乗り換えでは、どこか遠くに行ったんではないですか?
 一般道を走っているような振動が、何度か信号とかで停まった後
 高速道路を走るような振動に変わりました。
 しばらく走って、パーキングに一度停まったような感じがしましたが
 すぐにまた走り出し、また一般道のような振動に戻りました。
 どれぐらいたったでしょうか、山道のようなごとごととした振動で
 起きました。するとまたどこかの建物みたいなところに入り
 車を停めて彼らは私をクールボックスからは出してくれましたが
 車の中に毛布であたしを隠しその場を離れていったようでした。
 多分その時は午後から夜の時間帯かもしれません。」
「とすると、都内からはその日のうちに出たということだな。
 というかその速さだと昼には抜けてる感じがするな。」
「朝になったと思う頃、シャッターの音がし車の外がわからごとごとと音がし始めました。
 目隠しをとってくれなかったのでそれが何かわからなかったのですが
 フィルムをはがすようなバリバリとした音がしていました。
 音がしなくなったころ、全員がそろったのかそこを出て移動。
 あまりの気持ちの悪さに気を失ってしまったのか気が付いたら家の中でした。
 車に乗せられる時もクールボックスに入れられましたし
 ゆられて気持ち悪くて。」
「ずっと移動する間そのクールボックスの中に?」
「えぇ。多分。部屋で気が付いた時はすでにお昼過ぎだったみたいです。
 遠くでサイレンが鳴ってたのを覚えています。」
「サイレンというと…事件事故とかの?」
「いえ、ほら田舎の方では11時と15時にサイレンで
 時間を教えるでしょう。多分あれかもと思っていましたけど。」
「都内で時刻を知らせるサイレンが鳴るところだと、どこだ?」
「あきる野市の山側か檜原村か?」
「わからない。でも、時報と思われるサイレンだとしか思えなかった。
 次の日も同じ時刻ぐらいにサイレンが鳴ったもの。」
「そうか、それも一つだな。」
「で、一週間ぐらいはいたんじゃないかと思われます。
 その家にいた時に彼らは6人いたということ。
 それぞれに仕事はしてたんではないかと。」
「なぜそう思われる?」
「日中はいないんです。一人もしくは二人しか。
 出入りは、普通の家みたいにありました。」
「どこなんだろうなぁ・・・・・・。」
「わからない。だけど、町の喧騒がそれほど家になかまで聞こえないところ。」
「どうした弓弦?」
「ちょっと頭が痛いかな。」
「んじゃ、ここまでにしますか。まだ無理はできない。」
「大丈夫ですか?無理はせずに。」
「いえ、大丈夫です。あたしが喋ってしまいたい分はきちんと話がしたい。」
「無理な時は少し休んでからでもいいですよ。」
「えぇ。」
「弓弦、無理すんな。」
「あの、一つ思い出したことあるんです。」
「なんだね?」
「犯人に連れられ、その部屋を出ていく早朝。
 あたしが河川敷で西村さんに見つけてもらったあの日の前日。
 午前中気が付いた時には誰もいなくて。
 でも、お昼前だったのかな、一人帰ってきた人がいたんだ。
 で、その人が部屋の荷物を整理していると、警察の者ですがって人が来たわよ。」
「本当ですか?それは見えましたか?」
「見えなかった、だけど音を立てたら無事には帰れないかもと思ってから
 じっとしてたけど。」
「助けを呼べば、そこで助かったものを。」
「ドアはチェーンがかけられたままだったと思う。
 チェーンをかけてからドアを開ける音がしたから。
 部屋にいた犯人たちの一人が応対に出て話をしてた。
 引っ越しの準備をしているとか、近辺ではいろんな犯罪が増えているので
 注意してくださいとか何かあったら・・・・何かあったら・・・・
 すみません、ちょっと・・・・・。」
「おい、弓弦大丈夫か?先生!弓弦が。」
「大丈夫、大丈夫だから。」
「無理はしないでください、あなたはいろいろと覚えてらっしゃることが多い。
 ゆっくり話されて大丈夫です。」
「あたし、知っていることをすべて吐き出して精神的にも楽になりたい。
 だから、OKしたの。」
「ゆっくりと話をしたらいい。そばにいるから。」
「多分、そのドア越しに話していた人はおじさん。年配と思われる年の人。
 もう一人おられたかもしれない。
 最後に聞こえたのはそこの角を曲がった際の交番に私たちはいますからって言葉。
 それであたしが最後にいた監禁された場所がわかりますか?」
「それだけはっきりと覚えていればわかりますとも。
 おい、その言葉にあてはまる場所をピックアップして探せ。本庁に連絡だ。」
「多分、隠してもあとではっきりと事件が解決し始めると
 きっとわかってしまうことがある。」
「なんだね?」
「誘拐された理由。そのことが自分でも引っかかってる。」
「あるのか?逃げるための誘拐じゃないのか?」
「西村さん、ごめんね。
 あなたが撃たれて橋本君もけがをしたのは、多分あたしが一緒に居たから。」
「それはなぜそう言えるのか?理由がわかるのか?」
「犯人はあたしが確認というか分かった範囲は6人です。
 結構年齢に幅があったように思えます。
 下っ端と思われる人間はそのように扱われていた気がしたんです。
 何人もの男が入れ代わり立ち代わり出入りしていて
 本当に何人と聞かれても、あたしには6人ぐらいしかわからなかった。
 そして、そして…その中の一人に・・・・・・。」
「どうしたんだ、弓弦。どこか痛むのか?」
「違うの・・・・違うの・・・・・。」
「泣いててはわからない、どうしたんだ、弓弦。」
「あの。もう彼らは亡くなってしまったんですよね?」
「えぇ。朝の激突しての炎上事故で皆さん。被疑者死亡のまま書類送検。
 その被疑者さえもいまだに身元確認が済んでいません。」
「身元、判明します。一人がわかれば、一人と場所がわかれば。」
「弓弦、それとも、場所か?」
「いや。ごめん、ごめん・・・・。」
「もしかしてお前彼らの中でわかるやつがいたとか?」
「一人は、あたしと大学が同じで同じサークルで。
 大学時代にすこしだけ仲が良かった。
 高・・・・・高は・・・・・・。高橋和哉です。」
「高橋和哉。それは原田さんの?」
「少しの間だけ付き合ってた彼です。すぐに別れたんですが。」
「すると犯人グループは、逃走するための人質を探していたところ
 原田さんたち3人で話ししているところを目撃。
 犯人の一人が原田さんに気づき、原田さんを誘拐した。」
「わからない。6人のうちの一人が和哉だって知ったのは
 部屋で殴られ気絶した後、少しして気が付き起きようとして音を立てたために
 見に来させられたのは和哉だった。
 和哉は下っ端だったんだろうと思う。あの閉じ込められていた部屋で
 あたしの世話をしてくれてたのは和哉だった。
 食べ物を食べさせようとしてくれたり、トイレに連れて行ってくれたり
 仲間の彼らと違い、見えないところで気を使ってくれていた。
 蹴り上げたやつがいたが、それを止めたのも多分和哉だったんだと思う。
 最後の日、早い時間に部屋を出た。
 そしてかなりスピードを出して走っていた車から川に落ちないように気を付けて
 あたしを車から突き飛ばし落とした。
 彼は最後にあたしに《生きて帰れ》と言ったの。
 《今でも愛している、生きて帰れ》って耳元でささやいた後
 それまで隣に座っていて、動けないようにしているふりをして
 あたしを抱きかかえていた。大切に大切に。
 そして、ドアを開けた一瞬で判断し車からあたしを突き飛ばした。」
「ただ一人の味方だったんだな。」
「えぇ。前の日に和哉はあたしに決まったことを教えてくれた。
 河川敷の土手を走る、その時にお前を突き落す。
 うまく転がっていかないと死んでしまうからって。
 タイミングを計りながら、思いっきり転がしだすようにあたしを突き飛ばし落とした。
 だけど、死んでしまったら会えないじゃないか。
 捕まった時に、唯一あたしがかばえる人間だったのに
 死んでしまったらどうしようもないじゃないか。
 残されたご両親はどうなる。死んでしまったら・・・・・・」
「弓弦。泣くな弓弦。落ち着け、落ち着けよ弓弦。」
「興奮させてしまいまして、すみません。」
「いや、弓弦が話すと言った以上仕方ないです。
 続きは明日に。すみません。本人が話せるときはちゃんと。」
「えぇ。今日はすみません、でもこれで一歩が踏み出せる。
 あなたのために原田さんのためにきちんと解決しますよ。
 全力を注いで解決します、お約束します。」
「えぇ。よろしくお願いします。」
「では、原田さんの今日の言葉は大きな進展につながります。
 いえ、きっとつなげます。ありがとうございました。」

担当医は弓弦が興奮して泣き叫び始めると同時に鎮静剤をうった。
軽いものだからすぐ眠るからと。少し落ち着かないとこの体力であの興奮は危ない。
なにか発作でも起きたら助からない。少し眠らせて落ち着かせないとと。
西村も眠らされた弓弦のそばで涙と痕を見ながら、弓弦の悲しい気持ちを
察するように手を握っていた。
しばらくたち西村も体の方の診察が入り、弓弦のそばを離れていた。
看護師が一人、弓弦のそばで西村の代わりに手を握ってあげている。
西村が診察から帰った時はまだ眠っていた。
かわいそうに、まだ涙の痕がくっきりと残っている。
自分が過去に愛していた人に今でも愛しているとささやかれてたら
また弓弦の心は固く扉を閉ざしてしまう。それが一番心配なのだけれど、
まだ弓弦は起きない。帰ってくると看護師にありがとうとお礼を言い
代わってまた弓弦の手を握り、付き添う西村。
すぐに看護師が、ウェットティッシュと肌があれないようにと
自分の化粧水と乳液と持ってきてくれた。

「これ、使ってください。このままだと涙の痕が腫れて赤く残ります。」
「ありがとう。でもこの化粧水と乳液は看護師さんの私物ではないんですか?」
「えぇ、あたしこの中では唯一のアレルギー持ちで肌に柔らかく
 刺激を与えないで手入れができるのはこれしかないんです。
 ここも使えるようにって、予備においてあるんですよ。
 原田さんの体力だとお肌の力も弱いですから。これ使って拭いてあげてください。」
「ありがとう。使わせていただくよ。」

西村は借りたそれできれいにやさしく肌をふく。愛しい人の顔をふく。
まだ眠りから覚めないが、涙の痕が赤くなっていて
目が覚めるとまた泣き出さないかと心配で。そっと起こさないように頬をふく。
弓弦にとっては二人目の愛しき人の死。耐えてほしい。
自分がいるのだから、悲しんでも泣かないでほしいと願う。

担当医が顔を出す。

「西村さん、無理をしなければ部屋をうつりましょう。
 原田さんは今日から普通に部屋に移動しても構いません。
 個室で別々よりも、二人部屋で一緒がいいでしょう。」
「えぇ、本当ですか?でも、こんな具合じゃ・・・。」
「だから、原田さんの様子を見ていただかないとと思いまして。」
「そうですか、でも一緒の方が俺も安心かも。」
「では、そういうことでお互いの安心のために病室を引っ越しますか。」
「えぇ。何をしたらいいですか?」
「こっちでしますから、しばらくこのままでいてください。」
「わかりました。」

そう言って担当医が部屋を出ると西村は再び弓弦の手を握りしめ
黙って寝顔を見つめていた。
しばらくすると看護師が呼びに来た。これから移動しますと。
弓弦のベッドを押す男の看護師数人。
一人部屋の所に弓弦のベッドを入れる形での二人部屋。
西村も弓弦もPCを使うので、その部屋を二人部屋にしてくれたのだ。
西村の横になるベッドに弓弦のベッドを隣合せておき、車いすが通る程度の間を空けられている。
PCが窓側に置くようにするために窓側は西村が、反対側に弓弦のベッドが来たが
後で言われそうな雰囲気な漂うなぁと、苦虫をつぶしたように笑う西村。

「西村さん、荷物はこれだけですか?」
「えぇ、前の部屋には何も残してないはずですが。」
「何か残ってたらお持ちしますね。」
「お願いします。」

また二人だけの部屋になった。
夕暮れの陽射しが部屋に入り込んで弓弦の顔を照らし始めた。
すると陽射しが当たったのがわかったのか目を覚ました弓弦。

「気が付いたか?」
「えぇ。ここは?」
「今日からここが俺たちの病室さ、先生が気を使ってくださった。」
「そうなんだ。なんだかなぁ。」
「嫌なのか?」
「そんなんじゃなくって。」
「お前本当は気を失っていない時の分は全部思い出しただろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「気を失って記憶がないところ以外は、きっと覚えているんだろうな。
 それだけ怖い思うをしたんだもんな。」
「ねぇ、西村さん。」
「なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・。ごめん、やっぱり結婚できない。こんな気持ちのまま一緒には・・・・・。」
「愛している人一人なくし、また出会えたのになくし。
 だけど俺はここにいるだろう、俺はここにいる。」
「だけど、大切な人はみんないなくなってしまう。
 怖い。すごく怖い。みんなみんな・・・・・・。」
「俺はずっと弓弦のそばにいるじゃないか。弓弦、迷うな。
 そういう迷う弓弦を一人にできない。もう一人にしない。」
「でも・・・・・。お願い時間がほしい。」
「考える時間はたくさんある。
 俺は弓弦と一緒になるために、いくらでも時間を作る。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なぁ、弓弦。こんな目にあってしまったお前を一人にしたくないんだ。」
「あたしと一緒に居て、何かあってからじゃ遅いじゃない。
 現に撃たれた。怪我をした。あたしが一緒だったために。」
「たまたまじゃないか。たまたまそうなっただけ。
 なのになんで自分のせいにするんだ?」
「和哉がいて、それを承知でだったら・・・・やっぱりあたしが原因。」
「それはないだろう。それはない。そう思わなければ。
 俺の怪我も橋本の怪我も命に別状ないけがだし。
 お前は怪我はしたんだろうが、その元彼に命を助けてもらった。
 その助けてもらった命を大切にしなければいけないし
 弓弦が生きていたそれだけで周りは安心したんだ。」
「和哉が・・・・・・和哉が・・・・・。死んでしまっては何にもならない。」
「泣くな泣いてはその和哉君が悲しむ。せっかくお前を助けたのに
 泣き暮していたらそれこそ助けた意義がない。
 お前を愛していたからこそ、生きて帰れと言われたんだろう?
 だったら、生きているんだから幸せになろうよ。
 その幸せになるチャンスをくれたんだ。」
「もういい。あたしがいて周りが怪我したり大変な目にあったりするのはもういい。
 だから一人が一番なんだ。ごめん、ごめんなさい。西村さんに怪我までさせて。」
「違う、弓弦。それは違う。
 俺はお前のためならこんなけがぐらい何ともない。
 それよりも弓弦がいないことが一番嫌なことだ。」  
「西村さん、あたしは怖いの。すごく怖い。」
「俺は弓弦と離れることが一番怖い。」
「でも……。」
「ここではずるいのかもしれないが、きちんと言う。
 俺と共に生きることを約束してくれ。俺は弓弦と一緒に人生を歩みたい。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「うんと言ってくれ、弓弦。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「弓弦。」
「歩生も自分であたしのそばから離れていったわ。
 和哉も、あたしのそばからいなくなった。
 西村さんはあたしの前から消えないでいてくれるの?」
「あぁ、俺の一生をかけて弓弦と一緒に居たいんだ。」
「あたしでいいの?こんなあたしで。」
「こんなあたしじゃない。弓弦は俺にとっては人生最大の宝物なのだから
 そんな言葉では表せないって。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「泣くなよ、弓弦と居る俺が幸せと感じれる。それって幸せってことだよな?弓弦。
 弓弦といて幸せに感じれるということは、弓弦も幸せなんだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。西村さん。」
「あたしはあなたよりも人生経験が少ない、人として未完成なあたし。
 それを受け入れてくれるの?」
「もちろん。でないと俺がプロポーズしている意味がない。
 今のままの弓弦すべてを俺がほしいと言っているんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「泣くなって。弓弦、なぁ。泣くなよ。」
「だって。」
「弓弦、結婚しよう。もう少しして動けるようになったら席を入れよう。」
「いや、それはまって。お願い、待ってほしいの。」
「なんでだ?どうしてだ?」
「こんなあたしじゃ、あなたに釣り合わない。
 もっときちんとしっかりしたあたしに。
 心に迷いないあたしで、西村さんの所に行きたい。」
「俺は待てない。弓弦に何かあったら、俺が落ち着かない。」
「気持ちが落ち着かないままでは・・・・・・。」
「もしかして槙村君か?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「それとも翔太か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「亡くなった人のとこは言うな。ここにはいないんだ。」
「嘘はつけない。嘘は。」
「なんだ?」
「あたし、槙村さんと一線を越えた。西村さんがいるのに、一線を越えた。
 それが・・・・・。」
「そんなこと。黙っていればわからないのに。」
「隠せない、きっといつか分かってしまう。」
「この間から槙村の態度と弓弦の態度がなんかおかしかったのはそれか。
 でも、俺はそういうことは気にしない。気にするものか。
 弓弦がそばにいるんだ。それは忘れろ。」
「・・・・・・・・・・。」
「弓弦は女性だから経験があってもしょうがないんだ。
 25だろう?当たり前の事じゃないか。たまたまそれが槙村君だっただけだ。」
「あの人も西村さんと一緒ね。一緒のことを言ってた。」
「弓弦と一緒になりたいと?」
「共に人生を歩みたいと。」
「西村さんと同じように同じことを。」
「彼は、俺には何も言わないが俺は弓弦と口約束だが婚約したと喋っちまったぞ?」
「槙村さんは何も言わなかったの?」
「彼は、kissしても抱きしめても弓弦は全然俺の方を見ていない。
 弓弦の気持ちは西村さんで埋め尽くされていると。」
「槙村さん・・・・・・。」
「弓弦は優しいんだな、彼にも気を使って。」
「違うの・・・・違う・・・・・。」
「でも俺は槙村君だとしても弓弦を奪われたくない。
 弓弦が誘拐されていない間、不安で不安で。」
「ごめんね。ごめん、西村さん。」
「でもお前は自分で俺に見つけてと電話をくれた。」
「あの時は・・・・」
「いや、弓弦の気持ちの中で俺が一番だったんだと信じている。
 その電話で弓弦を見つけた時、俺は一生離さないと誓った。
 俺は弓弦を幸せにしたい、だから結婚してほしいんだ。」
「・・・・・・・・・・ありがとう。本当に、ありがとう。」
「弓弦、結婚しよう。すぐにでも。今すぐ、弓弦がほしい。」
「本当に今のあたしでいいの?」
「あぁ。そのままでいい、弓弦がいいんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」
「泣くなよ。嬉し涙だろうけど、弓弦は今体調が思わしくないから
 無理して具合が悪くなる。興奮するなよ(笑)」

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