森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 47

「ねぇ。」
「なんだ?」
「傷は?」
「ふさがったらしい。出血ももう見当たらないということだ。」
「良かった。だと退院は早くなるのね。」
「弓弦?どうかしたのか?」
「良かったなって、退院できると自分の世界の戻れる。」
「弓弦。お前だって。傷が治れば元の場所に戻れる。
 まだ動けないだろうけど、治ればすぐだ。」
「元に・・・・・元の場所に。」
「弓弦だって傷がふさがって出血さえしないようになれば退院じゃないか。
 足首のは別にするだろうし。」
「当分は病室なんだね。」
「ここは嫌なのか?」
「えぇ、かごの鳥みたい。」
「ここから出してあげたいが、自宅療養ができるまでに回復しないとな。」
「なるかな・・・・。」
「そんなことを言うな。なるにきまっているだろう。」
「あたしまたshaker振れるかしら。」
「振れるまでお前は頑張るんだろう?弓弦は`mask´の顔だ。
 振れないと困るんじゃないのか?」
「困る、あたしの唯一の自慢の仕事だもの。」
「だったら、頑張るんだ。そばにいるから。俺がそばにいる。」
「西村さんがいてくれるの?」
「俺がそばにいないと槙村君や翔太たちが割り込んでくるからな。」
「あり得る(笑)」
「やっと笑った。弓弦、笑っている弓弦が一番だ。」
「西村さん。」
「あぁ、この間から言おう言おうと思ってたんだが弓弦。」
「なに?」
「いい加減西村さんはやめないか?おかしいだろ。」
「なんて呼んだら・・・・・。」
「正弘だから・・・・・。」
「あなたとか呼べない、あたしの性格上。(笑)」
「それはおいおいついてくるだろうから。名前で呼んでくれるとうれしいが。」
「考えておく。」
「なぁ、弓弦。退院したら、俺の部屋に帰るか?
 それとも使い慣れたあの部屋に帰るのか?」
「あ、そうかぁ。伯母ぁにはあの部屋を出ると言ったんだ。」
「なぜ?」
「西村さんは今の部屋が気に入ってるらしいと、こっちには越しては来ないだろうから、
 結婚したら多分引っ越すと。そう言っちゃったんだ。」
「弓弦、もうお前の中では俺と一緒になると決めてたんじゃん。」
「その時は・・・・。」
「誠さんは兄さんだろ?腹違いの兄さんだろ。誠さんが自分で
 俺に話をした。その誠さんとひかりちゃんの家族の前で
 弓弦は俺と一緒になると報告した。」
「・・・・・・・・・・あぁ。でもこの事件の前の話。」
「でも一緒になると報告し、あの部屋を出ると言った。違うか?」
「言った。言った、でも。」
「でもなんだ。」
「あたしが原因でけがをした。
 原因となったあたしがそばにいたら迷惑じゃないかって。」
「またなんで・・・弓弦は本当にそう思っているのか?」
「・・・・・・・・・・・・えぇ。」
「んじゃ、弓弦はますます俺のそばにいなきゃいけないんだ。(笑)」
「そばにはいれない。そばにいちゃいけない。」
「違う。俺のそばで俺がいつでも幸せを感じ取れるように
 その責任があるんだ。そう思えばいいさ。」
「・・・・・・・・・・・・そんなに優しい言葉をかけないで。」
「なぁ、弓弦?」
「なに?」
「俺らは高校の同窓会で知り合ったよな。
 同じ吹奏楽部だということで同じ顧問の先生と知って
 意気投合し盛り上がり、仲良くなったんだっけ。
 弓弦はさ、俺がこんな仕事をしているって知らなかったし。」
「えぇ、全く知らなかった。
 だけどあの場所でみんなそれぞれに話しているのに
 帰ろうとするあたしに向かって話しかけてくれる人がいるなんて思いもしなかった。」
「俺さ、その時から弓弦のことが気になって弓弦のこときいてまわったんだ。
 誰かが教えてくれたんだよね、`mask´にいてバーテンダーやってて
 大学にも通い大変な勤勉学生だって。」
「そんなでもないよ。」
「ご両親も亡くなっているのに、親せきの家から通いきちんと卒業した。
 バイトもまじめに行ったし上達も早くて顧客が付いた。
 卒業するときいろんな仕事があっただろうし我儘も言えたんじゃないか?
 いろいろと選べたはずなのにお母さんのやってたバーと同じ
 バーにそのまま残り本職のバーテンダーになった。」
「母の元彼が今は湘南にいるんだけどその元彼に教えてもらったんだ。
 `mask´でバイトを探していること聞いて店の前まで行ったら募集の張り紙でしょ?
 それで面接を受け入り込んだ。
 働いているときにオーナーからもそのままレギュラーで
 働ける人を探しているんだと聞いた。
 それに母の顔が一番輝いて嬉しそうだったのは
 あたしがカウンターでシェイカーを振っている姿を見てるとき。
 その顔が見たくてがんばったし、亡くなった後も、
 どこかで母が見ているような気がしてシェイカーを振った。」
「`mask´にいると聞き、俺は客でもいいから弓弦のそばに居たくて通った。
 弓弦が楽器をできることも知ってたから、仕事の合間に
 手伝ってもらうという理由で俺のそばにいてもらった。
 どれだけ、弓弦のことを長く思っていたかわかるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「弓弦。弓弦が俺の目の前に現れてから俺はすごく不安だった。
 いつ弓弦が誰かにさらわれやしないかと。
 誰かほかのやつとと思うと、すごく不安になった。」
「うそうそ。そんなに思ってもらえるあたしはその時はいなかったはず。
 かなり生意気で衝突も多かったし。」
「いや、弓弦には本音で言い合えるから言えただけで
 本当に弓弦が大切で手を離したくなかった。」
「・・・・・・・・・・・。」
「なぁ、だから。だから弓弦、これ以上俺を不安にさせないでくれよ。
 俺はお前と一緒に居たい。ずっと」
「ねぇ。もう寝よう。夜も遅いわ。」
「明日は朝から診察だな。」
「えぇ。休まないと。」
「あぁ。結果が悪くなると退院できない。」
「大丈夫よ、西村さんは、すぐだ。」
「弓弦。明日先生に掛け合うが俺の退院と弓弦の自宅療養へに切り替えを同時にと。
 一緒に退院して、俺の部屋で自宅療養しよう。
 でないと弓弦が一人になると俺が不安でさ(笑)」
「西村さんはかなりの心配性だ。でも、外に出れるのはうれしいかな。」
「んじゃ明日は、それ交渉するから。」
「西村さんの自宅に行くの?」 
「もちろん。弓弦のあの部屋は引っ越すんだろ?」
「どこに?どこに引っ越しできるの?(笑)」
「もちろん俺の部屋。で、籍も。すべて俺の所に。」
「全部?」
「全部。弓弦、来週記者会見があるらしい。」
「なぜ?なんで?」
「事件のことについてだ。無事に戻ってきたとのことで。」
「戻ってきたんだからそれでいいじゃないの?駄目なの?」
「一応マネージメント契約している以上タレント扱いなんだろうし
 お前チャリコンのあの公園で連れ去られる所ばっちり映ってたし。」
「なんだかこれ以上顔が出るのは嫌だな、お爺ちゃんが自由にさせてくれなくなる。」
「でも、はっきりさせないとな。きっと今日のお前の言葉である程度
 警察も突き止めると思うぞ。」
「解決は早く解決させてほしいけど。」
「でも、俺と弓弦の関係も聞かれるぞ?」
「高校の先輩後輩?」
「弓弦が誘拐されるところTVにばっちり映っててそれだけでは済まないだろう。
 あんなに俺に向かって俺の名前呼んで泣き叫んで。
 あれじゃ、先輩後輩ってだけの関係かなんて疑われるにきまってる。
 だからとは言わないけど俺は発表してもいいと覚悟はできているが。」
「あたしは?あたしは何にも覚悟できていない。」
「んじゃ、これから覚悟して。俺は、退院と結婚とを口に出す。
 もう決めたんだ。でないと誰彼弓弦をさらっていこうとするからな。」
「でも。」
「そうでないと怪しまれたときの突込みはかなりこたえるからな。」
「記者会見で言わなきゃダメ?」
「先に言わないとばれてからのはつらいものがあるぞ?」
「それは嫌だなぁ・・・・・・。」
「だから覚悟決めて。俺の嫁になるということ。そして記者会見での発表と。」
「それまでにあたし動けるのかしら。」
「今は?」
「起き上がると座ることは大丈夫だけど。まだ痛いし。」
「記者会見の時は車いすになるが大丈夫か?」
「大丈夫かなぁ、たぶん。」
「そう思えるのであれば大丈夫さ。あとはいいか?俺は隠さず聞かれたことは話すぞ。」
「記者会見までに返事していい?」
「いや、今返事して(笑)」
「無茶な・・・・悪い夢見そう(笑)」
「おいおい。幸せな俺との夢見て眠れさ。」
「お休み」
「お休み、弓弦。」









「おはようございます。起きていますか?」
「あぁ、おはようございます。弓弦起きているか?」
「えぇ、おはようございます。」
「今日は朝から検査がお二人とも入っています。
 原田さんの方は、検査後の朝食になりますが西村さんはどうされますか?」
「んじゃ俺も弓弦と一緒で。」
「わかりました、そう準備をします。」
「その時にでも、先生に聞いてみるか。」
「気が早いなぁ・・・・・。」





そういって二人TVを見ながら診察を待っていた。
しばらくすると看護師たちが来て診察ですと二人を連れて先生の所に行った。
別々に検査や診察を受け、しばらくして診察室に呼ばれる二人。

「西村さん。あなたの方は退院のお話をしてもいいのですが原田さんの方はもう少し。
 怪我が多い分、体も無理がある。まだ当分はここにいてもらわないと治療が。」
「一緒には無理ですか?弓弦と一緒に退院。」
「原田さんの方は怪我は治るのを待つだけですが
 なんせ、食べてない期間が長かったでしょう。出血も多かったし、
 体内の血液が少なかったことと食べてなかったことで、体力がまだ戻っていない。
 免疫力も何もかもが低くて、このまま退院すると
 感染症が怖い。傷が完全にふさがったわけでもないし。」
「でしょう。だから西村さん言ったじゃない。当分無理だって。
 こうやって動くだけでもちとつらい。」
「先生。俺の家での自宅療養にしたいんです。当分は仕事も減らしてもらってるし、
 家に俺もいることになるし。十分に目の届くところで療養させれる。」
「原田さんは個室で一人でもいいんじゃないですか?
 原田さんの体的には入院している方がいい。安全だ。」
「俺だけ退院ですか?俺は弓弦の看病をするつもりなんです。
 俺も泊まっていいんですか?」
「西村さんがそれでよければいいんですが。
 仕事も少しづつ入ってくるだろうし、いない間はみんなで見ることできますし。
 そのほうがいいんではないですか?」
「付き添いで看病で泊まるっていいんですか?この病院では見たことないんですが。」
「不安なんでしょ?西村さん。それに原田さんは個室になる。
 そうしておかないと、原田さんも困るだろうし。」
「西村さんは心配性なんだって。25にもなる大人だよ?
 あたし大丈夫だって。いない間に、どこか行くってことしないから。」
「弓弦はそういいながらも、黙って消えそうだし。」
「先生こういうこと言うんですよ?」
「仲がいい証拠です。とりあえず、来週記者会見があるでしょう。
 その日が西村さんの退院にしましょう。
 で、原田さん。まだあと最低でも3ヶ月はいなければいけません。
 足首の手術もある。その手術とリハビリ次第で退院を決めます。
 今の段階では、もう少し抵抗力と免疫力が付かないと手術ができない。
 血液検査の数値もまだまだ低いし。これではちょっとねぇ。
 記者会見のある週に次の週に検査をし結果を見て決めましょう。
 足首の手術をしてから先は、原田さん次第で。」
「長い期間の入院になるんだろうなぁ。」
「そうですねぇ。無理ないリハビリが早い退院につながりますから
 無理せずのんびり気構えて。」
「でも、手術の後の傷の治り具合では自宅療養も考えておきましょう。」
「本当ですか?」
「えぇ。この病院からどちらの自宅が近いんですか?」
「あたしの自宅が近いかな。」
「どちらになりますか?」
「狛江第3病院の近くです。」
「近いですね。西村さんは?」
「俺は横浜ですから遠いかな。」
「では自宅療養の検討は原田さんの自宅ということで。」
「んじゃ、俺退院したら弓弦んちに引っ越しておこう。」
「あの離れは・・・・・。」
「俺からひかりのお父さんたちに相談しておくさ。」
「誠さんが、多分引っ越してくると思うんだけど。」
「誠さん使っている部屋はひかりちゃんの部屋の隣って聞いたぞ?」
「さぁ、部屋に戻って朝食を食べてください。
 原田さんは夕べのおかゆは大丈夫でした?」
「えぇ。少しだけしか食べれなかったんですが吐きはしませんでした。」
「じゃぁ、朝食も大丈夫そうですね。」
「多分。」
「しっかりと食べれるようになったら、点滴でのお薬も
 飲み薬に変えますね。そして、おかゆからまた一つ進めたら
 点滴も卒業です。」
「本当ですか?本当に?それだけでもうれしいかも。」
「体力の戻りも免疫力も食べる消化力が出てくれば
 戻るのも早いでしょう。だから、それだけは外れます。」
「良かったな。かなり動けるようになるぞ。」
「あぁ。さ、部屋に戻って朝ごはんだ。」
「なんだ、弓弦。現金だなぁ・・・・(笑)」

診察室を出る二人。車いすの弓弦とそれを押す西村。その後ろ姿はやっぱり仲が良く見える。
横を通り過ぎる他の患者らは幸せそうに笑う彼らをほほえましく思いながら見る。
部屋の戻ると、準備がしてあり共に朝食をいただく。
まだ弓弦は両腕をうまく上げきれないため、西村が食べている間は
看護師が食べるのを手伝ってくれているのだが、西村はそそくさと食べ終わると
看護師に変わって弓弦にかいがいしく食べさせていた。

「訓練でもあるんだし、自分で食べるって。」
「食べると言ってもほら。こぼれるだろう、まだ早いって。」
「んもぅ。」
「弓弦、まだ無理だって。それに汚すと取り合えるの大変なんだぞ?
 もう少しだから、おとなしく食べて。」
「看護師さん。」
「なんでしょう?」
「リハビリは何時からなの?」
「午後ですよ。それまでゆっくりとしててください。
 面会時間が10時からだから、どなたか来られるかもしれませんし。」
「そうだ、弓弦。急いでも良くない、ゆっくりゆっくり。」
「西村さんのPC貸してっ。指先だけだから大丈夫だろ?」
「んじゃ、きつくないように袖机を準備してクッションの上に腕をおいて楽な姿勢で。」
「なんだかなぁ。なんかすごく複雑。」
「だって俺よりもお前が重傷なんだぞ?」
「そうなんだろうけどさ。」
「俺は動ける、弓弦は動ける範囲がまだ狭い。どっちが看病する方だ?」
「意地悪だなぁ。」



病室では二人ののんびりした時間が流れている。
10時を過ぎると面会と言われ、部屋に通される人がいた。

「西村さん。原田さん。面会の方がこられていますが。」
「どうぞ、いいですよ。」

そういうと、ひかりの父が入口に現われた。

「弓弦、元気そうだなぁ。顔色もいいし。」
「伯父ぃ。ごめんね、心配かけて。でも大丈夫になりそうだ。」
「すみません、守ってあげれなくって。」
「いやいや、西村さんのせいじゃない。おっと、私は弓弦の伯父で山本と申します。
 ひかりと弓弦といつもお世話になっています。」
「いえ、きちんと挨拶しなければいけないのは俺の方で。西村と言います。」
「弓弦から聞いています。ありがとう、心配かけて申し訳ないのに。
 そしてこんな弓弦を・・・・・よろしくお願いします。」
「伯父ぃ。ちゃんときちんと言うから決まるまで待っててよ。」
「決まったことじゃん。おいおい、まだ弓弦はぁ。」
「退院してきちんと挨拶するまではということ。それでいいんでしょう?西村さん。」
「それでいいんでしょうではなくって。弓弦は本当に・・・・あぁ、もう(笑)」
「伯父ぃ。ちゃんと紹介する前にこんなことになってごめんね。
 でもこのさいだもんね。この間言った通り、この西村さんとあたし
 結婚するから。結婚しないと伯父ぃにも伯母ぁにも心配ばかり掛けちゃうし。」
「ベッドの上なのに、すみません。でも、弓弦が退院したらきちんとお伺いします。
 一緒に。一緒にお伺いしますから。ただ、来週事件に関連しての
 記者会見があるので俺・・・・退院の報告と弓弦の紹介と結婚を発表します。
 ご迷惑かかるとは思いますが、よろしくお願いします。」
「こちらこそです。こんな悪がきで言うこと聞かない頑固者で
 誰に似たのか、女らしくなくってそういう風に育ててしまって
 申し訳ないのに、この子ででも嫁にもらってくれるのは
 喜ばしい事です。こちらこそこれからもよろしくお願いします。」
「伯父ぃ。そんなに言わないでよ。」
「弓弦がそういう風だから周りが謝ってばかりだろ?」
「西村さんまで・・・・もぉ。」
「ふくれっつらしてもだめだぞ、弓弦。お前に、話があってきた。」
「なに?伯父ぃ。」
「爺さんだ。爺さんがえらく心配している。うちに電話してきたよ。」
「あちゃ。だから騒がれると嫌なんだよなぁ。」
「騒がれるとって弓弦・・・・。これは不可抗力だ。仕方ないじゃないか。」
「西村さんの言うとおりだ。こんな大きな事件、報道がさわがしくなくって
 どうするんだ。しかも、強盗に誘拐だぞ?」
「伯父ぃ。お爺ちゃんは?」
「あぁ。お見舞いというか、ここに来たいと言ってたぞ。」
「嫌だなぁ・・・・。まだ西村さんのことも話してないのに。」
「この部屋に二人いるということも知らないだろうしな。」
「伯父ぃ。何か話した?」
「まだ何にも話はしていないが、でも、西村さんとの結婚なら別に反対せんだろう。」
「お爺ちゃんは、かなりやきもちや気だからなぁ・・・・・。」
「伯父さん。」
「なんだい?西村さん。」
「いつみえられるのですか?」
「それがな・・・・・・。さっきの電話では今こっちに向かっているらしいんだが。」
「まじでか?伯父ぃ。まじで????」
「どうする?弓弦。」
「伯父ぃ。午後からにしてって言って!お願い!午後から西村さんリハビリに行くから。」
「おいおいそれはないだろ?
 俺はちゃんと面と向かって弓弦さんをくださいって言えるぞ?」
「あたしの覚悟が・・・・・。」
「弓弦観念しなよ。西村さんがいるんだ。大丈夫だ。」
「あたし本当に・・・・・いいの?本当にあたしでいいの?」
「弓弦何度も言わせない。伯父さん、大丈夫です。」
「んじゃ、もうすぐだろうから入り口で待つよ。で、一緒に上がってくるから。」
「では、またあとで。」



弓弦は無言のまま横を向いている。顔を赤くして横を向いている。
部屋のドアが閉まると、西村は弓弦のそばによると手を握った。
握られた瞬間、西村の方に向いた。大きな目にあふれんばかりの涙をためて。
今にも落ちてきそうな涙。


「弓弦?」
「・・・・・・・・・・・。」
「どうしたんだ?」


西村の方へ振り向いた涙目の弓弦にびっくりした西村。
黙って涙目の弓弦は西村を見つめる。


「弓弦?」
「こんなあたしでもいいの?」
「だから何度も言ってるじゃないか。そのままの弓弦がいいんだって。」
「ねぇ。」
「なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「なんだ?弓弦。」
「泣いていい?」
「なんで泣くんだ、泣く必要があるのか?」
「悲しくて泣くんじゃないの。」
「弓弦?kissしていいか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「こっち向いて。弓弦、俺さ、本当に。」
「・・・・・・・・・・・西村さん。」
「弓弦。結婚しよう。弓弦としか結婚は考えれない。」
「ありがとう。本当にあたしで?」
「当たり前じゃないか。」
 


弓弦は涙を流しながらも、西村の方を向いている。
怪我をして力もなく上がらない両腕を西村に差し出している。
西村はそんな弓弦が愛しくて黙って抱きしめる。
西村を見上げる弓弦に優しく触れた。


「弓弦、愛している。」
「あたしは……あたし・・・・・・。」
「弓弦?」
「あたし・・・・・も・・・・・。」
「泣くなよ、弓弦。わかっているから、俺はわかっているから。」
「爺さんが来ても、もう動じない。記者会見で何があっても
 西村さんが恥ずかしいと思わないようにしゃんとする。
 大丈夫、愛されているんだもの。大丈夫。」
「弓弦。」

西村は泣いている顔のままの弓弦を抱きしめた。
俺が弓弦を守っていくと約束すると耳元でささやいた。
初めて会った時の弓弦の笑顔がよみがえる。
弓弦が久しぶりに笑顔を見せてくれている。
あの、出会った時の弓弦の眩しい笑顔がそこにあった。

「もう大丈夫だよな。弓弦のおじいさんが来ても
 記者会見で俺が喋っても。堂々と隣に座ってくれるよな?」
「えぇ。大丈夫。きっと大丈夫。」

少し経つと落ち着きを見せる弓弦。まだ、爺さんとは会えていないのか
伯父さんが上がってこないねと話をしながら弓弦はbedの上で、
その横に寄り添うように西村がいた。

「西村さん、原田さん。面会の方がお見えになられましたよ。」
「どうぞ。」

そういうと西村は椅子から立ち上がりドアを開け出迎えた。
ドアの外には弓弦の伯父と背が高く弓弦の面立ちによく似ていて
寡黙な誠のような雰囲気を持つ白髪の人が立っていた。

「あの。」
「弓弦、来られたよ。」
「お爺ちゃん。お久しぶり、このままでごめんね。」
「いや、弓弦。大丈夫か?ニュースで見てから生きた心地がしなかったよ。」
「お爺ちゃん、心配かけてごめんね。でも大丈夫。大丈夫だよ。」
「お前のその姿を見て、わしはわしは・・・・・」
「そんな泣かないでお爺ちゃん。」
「あの。」
「えっと、君は確か。」
「西村と申します、初めまして。」
「いつか見かけたような・・・・・弓弦と同じ高校の吹奏楽部の。」
「西村正弘と申します。同じ長崎出身で。」
「1986年のコンクールで個人賞をとられた人じゃな。
 そういうのは覚えとる。その時佐世保の女の子も一緒に賞をとったからな。
 なかなか同じ地区内で個人賞をとるのは珍しいからのぉ。」
「今は、歌い手として活動しております。
 そして弓弦さんにもそれを手伝ってもらっています。」
「そうじゃそうじゃ。弓弦いつか話してくれたなぁ。」
「えぇお爺ちゃん。彼がその西村さんです。」
「西村さん、このたびは弓弦のことで大変ご迷惑をかけた。
 怪我までおわせてすまなかった。」
「いえ、俺よりも弓弦さんの方が怪我がひどいんです。
 守れなかった俺の責任もあります。」
「なぁ、おい。」
「なんですか叔父貴。」
「とりあえず聞くが、なぜ一緒の病室なんだ?」
「西村さん、伝えたいことはきちんとな。叔父貴は何も反対はしない。」
「あの。原田さん、お願いがあります。俺の一生のお願いです。」

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