森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 49

話をしている間は、弓弦のそばの椅子に掛けて話をしていた原田。
少し疲れたのか、話すはやさもかなりゆっくりとなってきた。
それでも弓弦と西村と伯父と原田で笑いながらも、これまでの話をしていた。
懐かしい話や、弓弦の小さいときの話。弓弦の父と母の話や原田の話を。
そうしているうちに弓弦の担当医が部屋に来た。

「回診です。西村さん、原田さん看護師から体温計をもらって計ってください。」
「はぁい。」
「おぉ、君か。君が弓弦の担当なのか?大久保先生。」
「お久しぶりです、原田さん。やっぱりお孫さんでしたか。
 そうじゃないかと思ってたんですよ。」
「お爺ちゃん知り合いなの?」
「わしが前にかかった時の担当の先生じゃよ。」
「そうだったんだぁ。」
「先生。弓弦を頼みますよ。」
「えぇ、わかっています。彼女は強い、大丈夫ですよ。」
「西村さんのは36.7です。原田さんは?」
「えっと35.1ですねぇ。」
「低いなぁ・・・・・もう少し平均までぐらいにはならないと。」
「弓弦もともとは?」
「もともとは・・・・・忘れちゃった。」
「弓弦、自分の体を過信してないか?ちゃんと気を使わないと。」
「そうじゃ。弓弦、お前は本当に他人ばかり気にして
 自分はほぉっておいて、感心せんぞ?」
「お爺ちゃん。だって風邪も引いたことないし、
 貧血だってただの貧血だし。それぐらいじゃ病院にはかからないって。
 それに伯父ぃと伯母ぁが作る料理はおいしいしバランスいいし。」
「まぁ弓弦は吞まないからその分だけか。」
「弓弦、お前たばこは?やめたのか?」
「伯父ぃ。ここでは吸えないだろ?吸わせてもらえないし。ちょっと手が震える(笑)」
「いい機会だ、煙草やめよう。お爺ちゃんもそう思われるでしょう?」
「あぁ、お前まだたばこすっとったんかぁ?西村さんも吸うのかね?」
「いえ、仕事に影響しますからやめました。」
「弓弦も辞め時だな。煙草も卒業しなきゃな。」


 `tururururururururu tururururururur'


「はい、山本です。あぁ、誠か。どうしたんだ?あ。ちょっと外にでますね。」

誠が出勤前にそっちに行くと電話をかけてきたのだ。山本が
弓弦の所へ行くとは聞いてたのでと。伯父がいる間にそっちに行けたらと
電話をして来たのだ。もし何か持っていくものでもあればと。

「誠君?」
「お爺ちゃん、誠さん。誠さんです。」
「今は?」
「今は伯父ぃの所にいるはず。あたしがこんなことになって
 伯父ぃも伯母ぁもひかりもすごく不安な状態で家にいたから。
 あの強盗があってあたしが誘拐される前の日に、
 実はねってお爺ちゃんから聞いたって、誠さんがあたしの腹違いの
 兄だってことを話したの。その前の日にプロポーズされて
 あたし、結婚すること決めたから。だからあたしのお兄さんとして
 家族としてこれからもと話をしたんだ。
 だから、お爺ちゃんもここにいたら?ここにいてきちんと話をしてほしい。
 誠さんへ話せること全部。」
「わしはあの子の母親と弓弦の父の結婚を認めずに別れさせた人間だぞ?
 やっぱりちょっとなぁ。快く話を聞いてくれるか?
 まだ早いのではないのか?」
「大丈夫。お爺ちゃん、ちゃんと大丈夫だよ。
 誠さんはただ真実が知りたいと、それだけだと言っていた。
 自分がこの世に生まれてきて本当に良かったのか存在の意義を知りたいと。
 お爺ちゃんを恨んでいるとかそういうことはないと思う。」
「そういう大事な話をするところに俺がいてもいいんですか?」
「あぁ、構わない。弓弦と誠と家族なのだからもちろん西村君も一緒じゃ。
 家族なのだからきちんと知っておくべきだろう。」
「伯父ぃ!伯父ぃってば!」
「ちょっと待て、誠。なんだ?弓弦どうかしたか?」
「誠さんでしょ?電話。来るんならお爺ちゃん待ってるから早くって。そう伝えて。」
「誠、聞こえたか?原田が一緒に来ている。弓弦がいるうちに来いってさ。」
「原田・・・・・話ができるんですか?弓弦と西村さんの病室で?」
「いつかは面と向かって話さなければならないぞ。
 今、それができるのであれば気持ちがあるのであればすぐに来い。
 誠、爺さんが待っている。早く来るといい。」
「わかりました。すぐに行きます。」
「叔父貴。誠が来ます。会ってくれるのでしょう?
 誠にきちんと話をお願いします。でないと誠も不憫で。」
「わかっておる。わかっておるが、誠はわしを恨んでいるんだろうなぁ。」
「お爺ちゃん。誠さんはそんな人じゃない。あたしも知らないことがあるでしょう?
 全部話して。お願いだから全部話をして。
 そうでないと中途半端に家族には・・・・。西村さんもいるしこのさい全部教えて。」
「誠さんがお兄さんかぁ。俺よりいい男だから気が引けるな。」
「これからまとまっていく家族じゃ、しこりのないようにしないとな、弓弦。」

そうしているとお昼だと看護師がつたえてきた。

「お昼ですけどどうしますか?」
「ちょっとこれから家族会議なので、お昼はあとで。」
「後にするの?誠さん車でまだ時間あるんでしょう?」
「どうだろう。伯父ぃ、30分ぐらい?」
「それぐらいか?もうちょっとかもな。」
「んじゃ、2階にあるレストランから持ってきてもらおうよ。
 看護師さんいいよね?」
「えぇ、大丈夫でしょう。病院食であまりおいしくはないかもしれませんが
 健康を良く考えたものですからおすすめですよ。」
「んじゃ、お爺ちゃんと伯父ぃの分。頼んでもらっていいですか?」
「では西村さんと原田さんの分もこちらにいいですね。」
「お願いします。」
「弓弦、弓弦は大丈夫なのか?腕が上がらんのだろう?」
「大丈夫。自分で食べれるようにしないといけないし。」
「俺が早く食べ終わるんで、食べ終わった後は手伝っていますが
 なかなか言うこと聞かなくて(笑)」
「そういう風に言わない。頑張ってリハビリって思ってるんだし。」
「弓弦は本当に気が強いな。西村さんにはこれからも迷惑をかけていきそうだ。」
「迷惑とは、何とも。でも、今の段階ではまだそんなにうまく動けてないから
 汚れると取り替えるのが大変で。もう少し、動けるようになってから
 考えないかなぁって思うんですが。」
「弓弦の好きなようにさせとくといいさ。弓弦は自分の体だから
 きちんとリハビリしたいんだろ?」
「伯父ぃ。いいこと言うなぁ。」
「ったく。とりあえず、まだ一人じゃ無理だから急がないでいいから。」
「弓弦形無しじゃな。」

そう話をして笑い声が響く病室に配膳の人が4人分のお昼を持ってきた。
弓弦はまだおかゆだが、朝よりも多い量が来た。
西村と原田と山本にはレストランの食事が。
話しながら食べていると西村が先に終わり、弓弦の横に行く。
弓弦の右手に持たされているスプーンを取り上げると、
ふくれっつらの弓弦の口元に運ぶ。原田も山本もその弓弦の表情に
笑いが止まらなくなってしまった。
そうこうしているうちに、食事も済み配膳の係りの人が
食器の回収に来る時間だということで西村が一人片づけをして表に出した。
その時誠が病室の前についた。

「やぁ、誠さん。」
「今つきました。伯父さんと原田さんは?」
「今食事が終わりゆっくりとしていますよ。さぁ。」
「誠さんこられました。」

そう言って部屋のドアを開け、西村が誠を招き入れる。
弓弦のベッドのそばに、伯父さんと・・・・・。

「初めまして、相原誠と言います。」
「初めまして。わしが・・・・。」
「お爺ちゃん、硬い言葉は使わない。誠さんはきちんと話を聞きたくて
 お爺ちゃんがいる今日ここに来たんだから。」
「弓弦、ありがとう。大丈夫だ。」
「西村さん、こうやって叔父貴と弓弦と誠と並ぶと
 私は弓弦の父を思い出すよ。どこかしら似ている気がする。」
「お爺ちゃん。お爺ちゃんが気づいたのもお父さんと誠さんが似てたからでしょ?」
「あぁ、似ている。似ているが君は母に似たのだな。面影は美恵子さんそっくりだ。」
「そうなんですか?物心ついた時には産みの母の存在すら知らない場所で育ち
 親戚の間をうろうろとまわされてましたし。」
「悲しい人生を歩ませてしまったな。すまなかった。
 わしの両親が結婚に反対してしまったためにお前をてて無し児にしてしもうた。」
「いえ、悲しまないでください。そしてもう終わったことです。
 俺はこの数年弓弦という存在で生きるという一生懸命な心を
 教えてもらいました。人としての優しさや、信じる意味を。
 弓弦は純真無垢で、周りの人を成長させてきた。
 俺も弓弦に人間としての成長を教えられましたし。
 ただ、母違いの兄弟とはびっくりしましたけどね。」
「誠さん言いすぎだって、そんな人として上等なあたしじゃないよ」
「いや、弓弦はそのまま弓弦だから周りはびっくりするんだろうな。
 弓弦の母は真っ直ぐで何も疑うことを知らない素晴らしい人だった。」
「西村君だって、そんな弓弦だから頑張ったんだもんな。」
「そうですね。でも、頑固なのはもうちょっと(笑)」
「誠君。いや、誠。お前の父と母は学生の時に知り合い
 結婚を考えておったのじゃが、うちのような旧家では夢のような話でな。
 わしの両親らのかたくなな反対で別れさせられてしまったのじゃ。
 わしの両親、つまりお前と弓弦の父の祖父たちは戦後の厳しい時代を
 音楽を守り続けてきた厳しい厳格な一族だったゆえ、
 大学に行き、そこで知り合った美恵子さんがすごく新鮮で
 自分にはない世界を持っててそれに触れた息子は
 離れられなくなってしまったんじゃろう。
 美恵子さんは体が弱くての、美恵子さんのご両親からも
 うちの家には無理だと、言われてな。可哀想じゃが
 美恵子さん家族は、大学卒業で遠くに引っ越してしまわれた。
 卒業して体があまり丈夫でなかった美恵子さんに妊娠がわかり
 親御さんも美恵子さんを守るために堕胎することを進めたのじゃが
 家出をするまで意志は固く、家を出て一人誠を生んだんじゃそうだ。
 産んだ後、誠を守るために一生懸命働いていたそうじゃが
 無理がたたったのじゃろう。ご両親にも会えず孝太郎にも連絡はせず
 一人で頑張ったがゆえに、自分の命を削らせてしまった。
 孝太郎は美恵子さんが消えた後、音楽にのめり込むしかなかった。
 のめり込んで忘れようとしていた。それがかわいそうに思えて
 一度美恵子さんの居場所を調べ教えたことがある。
 孝太郎は会いにはいかなかったらしい。行けなかったんだろうな。
 音楽仲間と吞みに出歩くようになって、銀座のバーで知り合った
 由起子さんと気が合ったんだろう、よく通いいろんなことを話すうちに
 由起子さんとの間に弓弦ができた。由起子さんは美恵子さんのことも聞いていた。
 確か孝太郎も由起子さんも誠の存在は知っていたはずだぞ?
 弓弦は何も聞いていなかったのか?わしが話するまで。」
「あぁ、何も、お爺ちゃんがあたしを`mask´まで送ってくれた時に
 誠さんを見かけたでしょ?そのあとお爺ちゃんとの夕飯の時に
 誠さんのことを聞かれ始めてお爺ちゃんが話をするまで何にも知らなかった。」
「そうですか。俺の母は弓弦のお父さんから姿を消したんですね。
 自分から。でも俺が母と思っていた人はその産みの母の遠い親戚の人でした。
 だから母親はいないとそう思い生きてきました。
 でも、産みの母は愛する人のことを思い選んだ道を進んだんですね。
 選んだ道を進み、自らの運命をきちんとまっとうしたんですね。」
「自分の命の期限がわかると、お前を孤児院に預け遺書を書いた。
 自分の両親と、わしら夫婦と孝太郎に。その手紙でわしと孝太郎は
 誠の存在を知った。でもその時には遅かったんじゃよ。
 美恵子のご両親とも連絡は取れないしどこにいるかもわからなかった。
 孝太郎は由起子さんに話をし引き取ると決め探したが行方知れずとなってしまったのじゃ。
 孝太郎は気にしておった。自分の子を我が子を産んでくれた美恵子さんに申し訳ないと
 そういつも悔やんでおった。弓弦の写真に一緒に写る孝太郎は
 いつもさみしそうに笑っててな。
 本当なら自分と由起子さんと引き取った誠と生まれた弓弦と   
 一緒に写りたかったんだろうにと。」
「決して原田さんが悪いわけじゃない。そこまで悔やまなくとも
 母は愛した人の子を産んで幸せだったんだろうし
 遺書にもいろいろと書いてあったんだろうがそれは自分が選んだ運命だ。
 俺が生まれたことを後悔したり
 父をその家族をなじる母であればそこまでの人間だったんです。
 だけど、弓弦を見たらわかるじゃないですか。
 生まれたことは幸せなことだったって。」
「お爺ちゃん。お爺ちゃんはあたしの父と母の結婚には反対はしなかったの?
 だってお爺ちゃんやお爺ちゃんの両親だっけ?反対したでしょ?
 お母さんはbarに勤める水商売の人間だったのに。」
「そりゃ、すごく反対された。特に祖父たちには孝太郎はかわいい孫じゃからな。
 しかしな、わしは美恵子さんのような純粋な人であれば
 孝太郎の選んだ人ならもう反対はしないと決めておったから
 孝太郎のすきにしたらいいと言って反対はしなかった。
 孝太郎は美恵子さんのような不幸には由起子さんを合わせたくなかったんじゃろう。
 初めて由起子さんに会ったときはびっくりした。
 美恵子さんによく似た美人でな、物腰のたおやかな女性でな
 水商売の人とは思えなかった。
 そして由起子さんは美恵子さんの話を知っておった。孝太郎が話したんじゃろうて。
 それを承知の上孝太郎と一緒になりたいと、どこにいるかわかれば
 引き取って自分の子供として育てたいとそう願い出た。
 孝太郎も美恵子さんもわしらも誠を探したがなかなか見つからなくての。
 こんなにそばにいるとは思いもしなかった。
 そして美恵子さんと孝太郎の忘れ形見に生きている間に会えるとは思わなかった。
 弓弦がバイトしてた先にいたとは運命だと思ったよ。
 ただ、男と女に関係になっては困ると思い弓弦には先に話をしたんじゃ。
 いくら仲が良くても遺伝子上兄弟ではまずいだろう。
 バイトの話になると誠の話が出ておったからな。」
「西村さんがいる手前、話すのは恥ずかしいんですが
 今までの環境では人を愛するということを知らないまま育ちました。
 中学高校と荒れてあれまくってて揉め事をよく起こし
 問題児扱いされていました。友人を大切にするとか女を大切に扱うとか
 何も知らずに生きてきて問題はかなり起こしていました。
 高校一年の時に俺のことを理解しようとしてくれた先生がいたんですが
 俺はその先生を刺しました。その先生を確かに殺そうとして刺したんです。
 愛情も知らないまま育つって怖い事ですよね。
 俺は負の世界の事しか知らないで育った。
 だから眉ひとつ動かさずに先生を殺そうと刺せたんだと思います。
 精神鑑定にも掛けられましたが、その殺傷事件から4年少年院に入り
 19の時に出所。保護司の小林の所にお世話になることとなり
 その時から`mask´にいました。あのバーはもともとそういう人間の
 立ち直らせる環境として場所として提供された仕事をする場所だったんです。
 その筋の人との関係がある人もいましたが、小林さんには本当に
 人間とは何かからしっかりと育ち直させられて。
 俺もその中でいろんなことを知り育て直されて今の俺がいます。
 そんなところに弓弦は面接を受け、入ってきたんですよ。」
「お爺ちゃん。ほら大学に入学してお爺ちゃんが学費を出してくれるって言ったのに
 あたし断ったでしょ?あの時よ。あのときに今の店でのバイトが決まったのは。」
「そうだったなぁ。学費を出すというのに、お爺ちゃんに甘えたら
 お父さんとお母さんに申し訳ないと言ってこっぴどく断られた。」
「そうだったっけ?」
「その時はさぁ、お母さんの元彼がさ
 あたしをバーテンダーのコンクールに引き出して、出させられたんだっけな。
 大学入学したての頃で、たまたま遊びに行ったらおじさんの所から出るはずだった人が
 事故で出れなくなって、その人の代わりにあたしが出たら
 オリジナルフレッシュっていう部門で優勝しちゃって。
 でも、ポッと出た人間が優勝できるってどんな大会だって
 人を馬鹿にしてるんじゃないかってなんだかむしゃくしゃして
 銀座をぶらぶらしてたら`mask´の看板見つけてみてたんだ。
 飲み屋のねーちゃんしか出入りはしてないはずなのに
 まぁ、出入りが閉店までひっきりなしに続くんだ。
 どうしてなのかがいまいち理解できず、次の日も行ったんだ。
 そしたら、店の看板の横に従業員募集の紙が貼られてて
 それに飛びついた。入口で誰かの指名をと言われたが
 初めてで誰を指名していいかわからないと言ったら
 背の高い人の所に連れて行かれ、そこに座らされた。
 こんばんわで話しはじめ、いろいろと話をしていたら
 あたしのイメージで作りましたって出されて。感動したなぁ。
 その一つで気持ちは決まってその人に相談したんだ。
 
 《ここの入り口に従業員募集が貼られていたけど誰でもいいの?》
 
 って聞くと、その人がオーナーを連れてきてさ。」
「弓弦のその話、オーナーからも聞いたなぁ。」

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