森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 51

誠は病院を後にした。
気持ちよく歩いていく姿はなんとなく嬉しそうでで機嫌が良さげで。
山本に電話をしたタイミングに弓弦と弓弦の爺さんと西村とがたまたま一緒に病室にいて、
弓弦がそのタイミングを逃すなと言わんばかりに自分を呼びつけ対面する事となったのだが
誠にとっても弓弦にとってもその人物はそれが待ち遠しくかつ何をなじられるのかが怖いが
誠に本心から会いたがっていたのは血のつながった原田自身だったのだ。
誠の複雑な気持ちには、弓弦が口に出してからは心になかにふつふつと
沸き立ついろんな感情があって顔を合わせるまでは整理しなければと
自分でも考えて眠れなかった。
それなのに弓弦は単純なタイミングで自分を呼びつける。
それも整理する時間もないまま原田に会えというのだ。
誠としたら無茶な話だっただろう。でもそんなチャンスを逃すようなことになれば
せっかく声をかけた弓弦に申し訳ないかと思い言っただけなのだけれどと。
初めて顔を合わせる爺さんは複雑だろう。
でも、自分の知らない部分を聞けるのだからと行っただけなのに
まさか自分を家族として受け入れたいと願われるとは思いもしなかった。
開店前の店に着くまでの間、
誠はこの数時間の出来事を夢だったのだろうかと考えていたのだ。
優しく迎えてくれようとしている原田に
自分は本当に孫となることがいい事なのだろうかと
出会えた弓弦と堂々と兄弟と言えるようにしてもらうということは
自分にとっては人への甘えになるのではないかと少し悩んでいるところもあった。
しかし、弓弦のことを思えば。
弓弦の両親や自分の産みの母のことを思えば
やはりなるべくしてこうなったのかとも思っていた。

店につく。すると早々と店内を掃除している奴がいた。
貴志だ。弓弦のお見舞いにいちばん早くに行きたいだろうに、
店を開ける準備をしている。

「おはよう、貴志。」
「おはようございます、誠さん。」
「早いな。」
「機嫌よく早起きできたからですよ。」
「弓弦か。」
「あぁ。だって気が付いたんでしょう?調子よさげだし
 気が付けばあとは退院までまっしぐらだ。」
「そうだな、あの根性だ早いだろうなぁ。なぁ、貴志。」
「なんだ?誠さん。」
「最近俺に殴りかかろうとしないなぁ、お前。」
「そうだっけ?て言うか誠さんがライバルじゃねぇってわかったし。」
「そのことは?」
「だって弓弦さん西村さんと結婚するんだろ?
 西村さん、弓弦さんが出勤の時は用事がない限り店に来てたし
 ツーリングだって二人っきりで行くこと多くなってたろ?
 それに誠さんと居ないときの弓弦を対外一人占めしてたの
 西村さんだぜ?それに西村さん自身公言してたじゃん。
 弓弦は俺の物だって(笑)それ弓弦さん完全否定しなかったし。
 誠さんだって健だってみんな振られたんじゃん。」
「そっか、そうわかったんだ。でも本当だよなぁ。
 大川君とか槙村君とかが口説き始めても全然靡かなかったし完全に否定されてたしな。
 そう考えると西村さんは否定されてなかったなぁ。いつも笑ってごまかして。」
「他に理由があんのかよ。」
「今はお前一人か?」
「奥に一人二人いたけど。」
「一応、言っておく。貴志、近々記者会見がある。
 事件の事で弓弦が無事に見つかり怪我の具合も良好だということ。
 西村と翔太もけがは大丈夫で早々に復帰するということを
 それぞれの社長が付き添いのもと会見が行われる。
 それに弓弦の証言で分かった分の経過報告を警察が一緒にこたえる。
 それと、西村と弓弦の婚約発表が一緒に行われる。
 したがって、弓弦の爺さんが一緒に同席することとなる。
 つまり。大々的に弓弦は人の物になるということだ。
 復帰はいつになるかは不明だが人の物になっても
 ここに戻って来たいという意思は変わらないようだぞ。」
「誠さん。誠さんも負けちゃったくちか。俺と一緒で。」
「俺ははじめから弓弦争奪戦には入ってないぜ?」
「なんでさ。誠さんが一番近かったじゃないか。西村さんとかmartinの若造とかと一緒で。」
「貴志。弓弦と俺が男と女に見えてたの少しおかしいとは思わなかったのか?」
「なんでさ。普通に疑われるぐらいに怪しかったじゃないか。」
「貴志さ。少しよく考えてみないか?お前には先に言っておく。
 弓弦が復帰した時にきちんと言うと思うが俺と弓弦は母親違いの兄弟だ。」
「誠さんと弓弦さんが?兄弟?うそうそそんなこと信じないぜ。」
「なら、明日にでもお見舞いに一緒に行くか?」
「あぁ。行こう、弓弦さんの口から聞かないと俺、誠さん何度も殴ってるからさ(笑)」
「さぁ。開店の時間だ。今日も弓弦のために頑張ろうな。」
「あぁ、もちろん。」

そうやって店を開店させる。誠の顔が何かしら機嫌よく見える他のやつらは
弓弦さんの意識が戻って、話ができたことで喜んでいるんだとしか
思ってはいなかったのだがそれにもまして自分が他の誰かたちと違い
なによりも一番近い存在だということがうれしいのだろう。
そのご機嫌な横顔を見ている貴志は、本当の事を話してくれたのかもしれないと
自分でも考え始めた。明日、誠さんと一緒に行けばわかることだろうけどなと
そう思いながら。

「開店しますっ!ようこそ我が城`mask´へ」

開店と同時に、いつもの時間の常連客が流れ込んでくる。
いつものように自分のお気に入りを指名し中に案内され席に着く前に
弓弦のでブースで一言二言書き記し、そして楽しい時間を過ごして帰る。
誠のブースには弓弦の客が座っている。
いつものように弓弦を指名しての来店だが、弓弦のブースに花を置き
一言メッセージを書き残し、誠の席に移動する。小説家の山村とも仲がいい久原護だ。
ここで待ち合わせをしているらしいのだが待ち合わせの相手である山村は
まだ来る様子もない。久原は誠と弓弦の話をしている。

「良かったなぁ。TVを見てて君らが事件に巻き込まれ西村君と
 あの若いアイドルが撃たれたときはびっくりしたが弓弦君が拉致されていった
 あの場面ではTVを壊しそうになったもんな。
 でもあれは使えると思う自分もいたのが一番おかしい(笑)」
「そうだったんですか?でも、久原さんの小説に使うとなると
 それは推理物になるんですかね?(笑)」
「そうだなぁ。そういえば、遅いなぁ山村氏は。」
「そうですねぇ。誰かにつかまっているのかもしれませんね。」
「そういえば誠君は弓弦君のお見舞いにはいったのかね?」
「えぇ。意識を取り戻した翌日の朝にオーナーと一緒に。そして今日のお昼と。」
「弓弦君に復帰が待ち遠しいがどうだったのかね?」
「あの根性の持ち主です。復帰は早いでしょう。」

そう話をしている久原と誠の所に黒服が来て山村氏が来たことを告げる。

「待たせたねぇ、久原君。」
「あぁ、待ってたよ。でも待ってるあいだ誠君が楽しい話をしてくれてたよ。」
「出版社のことでなちょっと話をしたくて呼んだんだが
 あっちのブースを使ってもいいか?誠君。」
「いいですよ。ちょっと待っててください準備させます。」
「あぁ、頼む」
「誠君、そういえば弓弦君はどうしているんだね?」
「ベッドの上で喧嘩ばっかりしていますよ。横で見ているだけで漫才みたいで(笑)」
「それは誰と?」
「あの時けがをした西村さんと一緒の病室にいますよ。」
「お見舞いにはもう行っても大丈夫なのかね?」
「えぇ。二人で漫才を見れますよ。午後からでも行かれるといいかもですね。」
「午後からかぁ。来週覗いてみるかなぁ。」
「行きますか?弓弦は面会可能な部屋にいますし行けば会えます。」
「んじゃ、時間を作ろう。久しぶりにあの笑顔が見たい。」
「でも来週までには記者会見があるらしいですよ?」
「記者会見???」
「西村正弘さんとunion martinの橋本翔太の怪我が治っての復帰。
 そのそれぞれの川上社長と山本社長が出席。
 強盗があって誘拐された本人の原田弓弦の出席。
 これはタレントとしての原田弓弦になるのかな。
 あとこの事件の担当の警察の人間二人が、事件でわかったことに関しての
 発表があるらしい。かなり弓弦が覚えていることを伝えたために
 逮捕者が出たらしい。
 で、原田弓弦としての保護者である原田一郎氏の出席。」
「なんか聞いことあるなぁ。その原田一郎。」
「山村君、ほら。指揮者の原田栄二の兄だよ。吹楽連盟の会長の。」
「は?もしかして誠君。弓弦君は????」
「孫だそうですよ。孫。原田弓弦は原田一郎の孫。」
「なんてこったい。誠君はそんな弓弦君を射止めなかったのかね?」
「射止めるも何も(笑)」
「なんだね?」
「あちらでお話ししましょうか。まだ弓弦の口からは発表されていないので
 おおっぴらには言えませんが、口にチャックですよ?口チャック。」
「なんだい?誠君、意味ありげな。」
「誠さん、あちらの準備が済みました。」
「あぁありがとう。ではあちらで。」

そうして、山村と久原と誠は個室のブースへ移動していった。

「誠君のことを聞いてから、俺たちは俺たちの話をしよう。」
「なんだか、先に聞いてもいいんだろうかねぇ。」
「弓弦が信頼している山村さんですから、
 俺はしゃべっても弓弦はいいというと思ってお話しします。
 記者会見が終わらないと、口外はできませんよ?」
「で、なんだね。誠君」
「まだ社長と貴志しか言っていません。弓弦は吹楽連盟の会長の孫。
 まだだれも知りません。 それが一つ。
 そして弓弦と俺は腹違いの兄弟だということ。それが二つ目。」
「おい。お前たち兄弟なのか?誠君それはいつ知ったんだ?」
「俺もついこの間。弓弦は早くから知ってたらしいですけど。」
「で、日本吹奏楽連盟だよな。原田会長。その原田会長の孫だったのか?お前たちは。」
「えぇ、それも弓弦は誰にも話してはいなかったらしいですね。
 中学校とか高校・大学の吹奏楽コンクールの審査員をやってるらしいですよ。
 本人はやめたがってたみたいですが。」
「弓弦君はそんな人物だったのか?でも、それだけいろんなしがらみがあったら
 本人は口にしたくはなかったのだろうな。
 でも、それは別にこうだったんだって漏れても構わないことではないのか?
 それだけの地位を公言してしまうが。」
「で、もう一つがそういうことまではっきりしないといけない理由。」
「なんだね。」
「弓弦は人の物になるということです(笑)」
「それは?もしかして?」
「記者会見で最後に発表されますが、弓弦は婚約します。
 で、来年の誕生日ぐらいかな。結婚の運びとなります。」
「誠君。それを私たちに話してもいいのか?重要なことだぞ!」
「えぇ、山村様は弓弦もひかりもお世話になっているんです。
 俺は山村様や久原様なら弓弦は何も言わないだろうと思い
 お話ししました。」
「びっくりなおめでとうではないのか。誠君、明日にでも弓弦君に会いに行くよ。」
「おしゃべりめと俺が怒られると困るので
 きちんと、こと訳を並べてからにしてくださいね(笑)」
「誠君と兄弟ということはいつ知ったんだね?」
「俺は弓弦がプロポーズされ結婚を決めた日、
 中止になったチャリコンの前日、弓弦が話があると言って
 仕事帰りに家に呼ばれたんです。その時に弓弦の過去と
 ひかりのお父さんは知ってたんだと、弓弦に話をされました。
 そして、今日お爺さんにあたる原田一郎氏に会いました。
 弓弦が来るなら早く来てというのでどうしたんだと聞いたらお爺さんにあわせると
 で、弓弦の所へ行き会いました。」
「誠君は自分のおじいさんがこういう形で表れて気持ちは・・・。」
「複雑でした。俺は産みの母の顔も知りません。
 だが、俺を大切に育てようとして一生懸命だったのはわかりました。
 そして、そのことに対して原田一郎はかなりな後悔の念に押されて、気になっていたと。
 俺のことを弓弦の父と母はお爺さんと一緒に探されたそうです。
 俺的には誰も何も思ってませんでしたし、いまさら何を言われようと
 憎んだり恨み言など言うつもりはありませんでした。
 でも原田一郎は言われるのを覚悟していたみたいです。」
「そりゃそうだろう。普通はなぁ。」
「でも俺は天涯孤独だと思っていたのが弓弦が妹と知り、うれしいんです。
 弓弦が妹ってことだけがうれしくって。
 何より、弓弦と原田一郎というお爺さんと孫だけしかいなかった家族に
 俺は弓弦と血がつながった兄弟で、だけど二人っきりの兄弟ではなく
 原田という祖父がまだいてくれたということ。
 それがうれしくて幸せなんだってさっきまでそれを考えていました。」
「君は天涯孤独ではないと知って、それも弓弦君が妹か。
 幸せに第一歩を踏み出したって形だな。」
「それにしても誠君は人を恨むことをしないんだな。
 それが一番人間として素晴らしいことだよ。」
「昔のおれだったらわかりません。
 だけど、ここに勤めるようになって弓弦という人間に出会えて、
 人を信じることを知り仲間を大切にすることも知りました。
 全部弓弦と知り合えたからなんですよね。
 弓弦の過去を聞いた時には
 正直、俺の過去ともそんな不幸度は変わらないはずなのに
 こいつは人を恨むことや憎むことをしないやつと知った時
 不思議でたまらなかったんです。
 でも弓弦という人間を知ると、俺のちっぽけさが情けなくなりましたよ。
 いつの間にか弓弦に自分を立て直されたって感じですかね。
 弓弦と居ると、笑うことを覚えた。人となじむことを覚えたし
 周りを信用することを覚えましたもん。弓弦は大したやつですよ。」
「あの子は本当に気が強くて頑固で意地っ張りで負けん気が強い
 だけど、あの子と居ると不思議と安らぐんだよね。
 私がここに弓弦君指名で通うのはそれなんだよ。」
「で、誰と結婚するんだ?」
「同じ病室のやつですよ。(笑)」
「西村君か?西村君だったんだ。」
「彼は知り合ってからずっと弓弦にプロポーズしてましたよ?
 山村様もお聞きしたことあるでしょう?」
「あぁ、なかなか弓弦は靡かないって。」
「そういいながらも、何かあると西村さんを立ててた弓弦がいましたしね。」
「そうなると西村君は誠君に対して年上の弟になるってことか。」
「それ言わないでくださいよ、考えるとちょっと複雑な気分なんで。」
「だからお前が腹違いの兄さんだと、プロポーズを受けた時に
 話したんだな。」
「原田一郎と弓弦。爺さんと孫しかいない。だけど、孫が嫁に行く。
 孝太郎という父と美恵子という母の間に生まれた俺と
 孝太郎という父と由起子という母の間に生まれた弓弦と
 両親のために両親ができなかった弓弦の嫁入りを俺に託したいんだそうです。」
「じゃぁ、お前も記者会見の時は一緒に居なければならないじゃないか。」
「えぇたぶん、呼ばれますね。」
「でも、いいじゃないか。嫁に行っても弓弦はここに復帰するんだろう?」
「そのつもりみたいですね。」
「弓弦君はこの仕事を自慢に思っているからね。
 取り上げては可哀想だろう。西村君もそれはしないだろうしな。」
「もしここに弓弦君が帰ってこない場合は、西村君の家へ
 押しかけることになるぞとおどかしておかないとな(笑)」
「では、今俺が口にしたことは記者会見が済むまでご内密に。
 では、お二人でのお話を。用があるときはそちらのベルでお呼びください。」
「お心遣いありがとう。誠君。」

誠はその個室に二人の作家を残して自分のブースに戻っていった。

コメント

ログインするとコメントが投稿できます

まだコメントがありません