森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 56

弓弦の部屋から二人は出ていくと、その先の窓側に元原がいた。
元原の電話が長かったのか悠太と翔太の長居が長かったのか、
窓から見える風景にはオレンジ色のひかりが広がっていた。
西村のリハビリも、念入りだったらしく気持ち少し遅い終わりだったが
西村が楽しみに帰ってくると弓弦は疲れているのか眠っている様子。
部屋に入ると弓弦が寝ていることに気づき西村は静かにそばに行く。
眠った顔をそばに見つめるだけの西村は、その弓弦の顔色がまだまだ
体調の良くない様子を伝えていることに気づく。
まだ気が付いて行く日にもならないのに、いろんな話を持ち込まれ
気をもまされ、その上に思い出した現実。
犯人の一人に、自分が一度は愛した人がいたとなるとショックは大きいだろうし、
幾日も辛い目にあわされた助も求められず、きつかっただろうと。
弓弦がラッキーだったのは愛した人がその中にいたからなのではないだろうか。
だから、《生きて帰れ》の言葉と共に弓弦が帰ってこれた。
彼がいたから弓弦は俺のそばに帰ってこれたんだと。
弓弦の顔を見つめていると、あの朝かかってきた電話を
少しでも早く出てあげれなかったことを悔やまれる。
しかし、電話をくれたことが自分にとってはうれしくてそれが槙村や
翔太じゃなくて自分だったことがなにより。
たくさんの顧客の番号があった中にもかかわらず、そんな中でも
弓弦と仲が良く弓弦を狙っている奴らの電話番号にも目をくれずに
真っ直ぐ俺にかけてきてくれたそれだけが西村にとっては大事なことだった。
もし弓弦があの場所で死んでいたのならば、俺はどうしただろうと。
弓弦のその顔を見つめながら、もしそのまま息を引き取っていたら。
抱きしめた時に弓弦が動きもせず一言もしゃべらず息をしていなかったら。
呼吸が止まってて人工呼吸しても自発しなくてそのまま息を引き取っていたら。
それを考えると、それでもここにこうやっていることを考えると
西村の心の中では弓弦を幸せにしなければいけないとそう思っていた。
弓弦のまだ青白い頬のままの寝顔を見ていると、ふと髪も伸びてきたなぁと
触ってしまった。触れた指の感触で弓弦が起きる。
起きた弓弦の目に飛び込んできた西村の頬には涙が流れていた。

「ねぇ、何泣いているのさ。」
「いや、なんでもない。」
「気になる。すごく気になる(笑)」
「神様っているんだなって、そう思ったらさ。」
「いまさら何を。」
「弓弦が生きていたそれだけでこれから先弓弦を幸せにしないと
 そう思っていたらさ、なんでかないちゃったんだ。」
「西村さんらしくない(笑)」
「俺らしいだろうが。」
「そっかなぁ。なんとなく二人だと違う気がする。」
「なぁ、悠太とデートしても翔太とデートしても
 俺の所に戻ってきてくれよ。今では弓弦がいないと俺は生きれない。」
「そんなことないよ、あたし以外でもたくさんいい女はどこにでもいる。
 ただ、出会えるチャンスを自分で見逃しているだけよ。」
「いや、つくづく思う。あの朝、弓弦が電話をくれなかったら。
 あの朝、弓弦が生きて帰ってこなければ俺壊れてたのかなって。」
「そんなことないない。西村さんは逞しいから。あたしがこの世からいなくなっても、
 きっとあたしのために歌い続けてくれるって信じているもの。」
「弓弦が思っているほど俺は強くないぞ?」
「そんなことないって。幽霊になっても追いかけるでしょ、きっと。」
「そうかもなぁ。弓弦?」
「なに。」
「お前の怪我、見せてみろ。」
「ここで?誰か入ってきたら嫌だ。」
「大丈夫。」
「鎖骨の所の手術跡は?」
「大丈夫。」
「背中は?肩甲骨の所の手術跡。」
「ちょっとかゆいけど、でもふさがり始めているからかゆいんでしょ?」
「あと体の周りの擦過傷は?」
「痛くないから大丈夫だって。心配性だなぁ。」
「ならいいけどさ。右足は大変だなぁ。」
「そうだね。」
「外出許可が取れるぐらいに治るまでどれぐらいかかるんだろうなぁ。」
「明日の朝の回診ででも聞いてみる?」
「あぁ、そうしようか。記者会見まであと4日か。」
「西村さんの退院まで4日だね。今度はあたしの看病のために泊まり込むの?」
「あぁ、そうしようかなぁって思うけど。」
「仕事しないと、ねぇ。入院してたぶん仕事たまってるんじゃない?」
「そうだなぁ。でも、多分出演とかばかりだったから
 その埋め合わせしないといけないしなぁ。
 記者会見の後は忙しいだろうけど、俺は弓弦のそばに帰ってくるからさ。」
「あのさ、今の住んでいる離れ。あそこに引っ越さない?」
「あの家に?」
「横浜よりあの弓弦の家がここに近いし・・・・・てか?」
「あそこならギターやピアノの音は気にならないし。」
「そうだなぁ。弓弦何気にあの家好きみたいだしなぁ。」
「そうしよう。そうしようよ。」
 

「西村さん、原田さん。夕飯ですよ。」


「はい、お願いします。」
「たんと食べてくださいな。で、ないと治るものも治らない。」
「おばさん初めての人だ。」
「おとといからここにお世話になってるんです。」
「でも懐かしいアクセント。」
「なんがですか?」
「おばさん九州の人だ。」
「あはははははは。わかる?」
「おばさん、福岡博多の人でしょう?」
「正解だ。わかっとるねぇ。なんだかあんたたちの前では
 言葉を気にせんで話せそうだ。」
「おばちゃんって呼んでも怒られないんだ。」
「おばちゃんはおばちゃんやろ(笑)」
「これなら西村さんがいなくても、あたし一人でも大丈夫。
 おばちゃんがいるから、安心しておしゃべりできる。」
「ここの病室は楽しそうだねぇ。」
「仕事でないときも来てよね、おばちゃん。いろいろと喋ってよ。」
「あたしでいいんかねぇ。」
「西村さん。」
「なんだ?」
「泊まり込みしなくても大丈夫。あたしおばちゃんがいれば大丈夫。」
「おまえさぁ。なんとなく調子よくないか?」
「さぁさぁ、お二人さん。たんと食べてな。
 で、食べ終わったら片づけに来るけん残さずなぁ。」
「はい(笑)」

その日の夕飯。当たり前の病院食で弓弦のも来た。
西村と久しぶりに笑いながら話して、一人で食べあげた。
楽しいその食事の時間、笑い声が絶えず部屋の外まで聞こえていた。
その外を看護師たちが元気になってよかったと話しながら通り過ぎる。
担当医の耳にも入り、食事が終わった後に、部屋に来た。

「こんばんわ、お二人さん」
「どうしたんですか?先生。」
「あぁ、あまりにも楽しそうな笑い声がしていたと聞いたんでね。」
「すみません、うるさくて。でも、久しぶりにら笑いながらの食事で楽しめました。」
「それに先生。あたし一人で今日は食べれました。
 少し角度的に痛いこともあったけど、一人お箸で完食で来たんですよ。」
「それはそれは。きちんと手を抜かないで一つ一つを
 リハビリの一環として意識している証拠ですね、いいことです。
 明日の回診と診察で、弓弦さんのことを決めていきましょうかね。」
「退院はまだですよ?退院は。でも、まだまだ20代半ばは治りも早い。
 それに、西村さんも退院するとさみしいでしょう?」 
「そんなことはないですよ(笑)」
「おいおい、うそでもさみしいとかごねれよ。」
「あははは。原田さんはあのおばさんのことで楽しみが増えてうれしいんでしょう。」
「そうそう、あのおばさんなっていう名前なんですか?」
「峰さんと言われます。うちの病院の老人病棟のヘルパーをされているんですが
 こちらの方でも人手が足りなくて、半分半分で手伝ってもらってるんですよ。
 楽しい人でしょう。我々も気持ちが安らぐ楽しい人ですから。」
「あの人がたまに顔を見せてくれたらそれでいいかも。」
「原田さんも長崎の人だったですね。それならあの峰さんの話す言葉は
 楽しいし懐かしいし共通の話題もあるし話し相手にはすごくいいでしょうなぁ。」
「えぇ、博多の人でしょう?よく遊んで周った博多だもの
 共通のことがあるってすごく楽しいです。」
「西村さん、泊りがけの看病はきっと・・・・。」
「追い返されちゃいますね。(笑)」
「だからあたしは大丈夫だって言ってるのに、西村さん全然聞かないんだもの。」
「では、明日しっかりと診察しましょう、原田さん。」
「はい。ではまた明日。」

「あたし、あの事件で誘拐されて今日で何日目だっけ?」
「えっと。俺が怪我して弓弦が誘拐されて12日目の朝に河川敷だろ?
 で、その12日目発見して病院に運ばれ手術して
 その手術した日から5日目の夜に気が付いたろ?
 ここでだ、17日目の夜に気が付いたことになるな。」
「そんなに過ぎてたんだ。」
「で、気が付いた次の日の朝。18日目からは誠さんや小林さんが来て面会したし
 嫁にくださいはその次の日。弓弦のおじいさんと面会した日だな。
 で、その次の日に山村氏だろ?今日で何日目だ?(笑)」
「ということは今日は20日目?ほんとわかんないや(笑)」
「午前中に山村氏で午後から悠太たちだろ・・・・・。」
「もうすぐ3週間もたつんだ。」
「弓弦が怪我をしたのは誘拐されてどれぐらいだ?」
「車から突き落とされたのが誘拐されて一週間目で突き落されたでしょ?
 見つかったのは5日目の朝だから、突き落された怪我は
 この時点で8日ほどたってたんだ。」
「すると怪我して手術するまでに5日。
 見つかって手術して治療が始まって、今日は20日目でさ。
 手術して8日目?」
「手術して8日目だと、きっとまだまだ。外出許可の話なんてでいないさ。」
「当分無理かなぁ。」
「でもさ、弓弦。手術してそのあとの顔色なんか今とは比べ物にならないぞ?」
「そんなに?」
「あぁ、青白くて本当に生きるための血が流れているのかわからないぐらいに
 真っ白でさ、唇なんて真っ白。ろう人形みたいだった。」
「そのまま死んでいてもおかしくなかったんだろうなぁ。きっと。」
「輸血な。弓弦への輸血、病院のだけじゃ足りなくて近くの病院とか
 そうそう、狛江の病院とかから持ち込んでもらったって。」
「そうだったんだ。あたしたくさんの人たちの力とたくさんの人たちの
 血で生き延びれたんだ。」
「あぁ、弓弦はたくさんの人のおかげで今があるんだから
 その助けられた命を大切にしないとな。」
「大切にね。最後の最後まで生きろと助けられた。
 和哉があたしを助けたいと願って突き落さなければ
 あたしは生きていなかったかもしれない。和哉の分まで
 そして歩生の分までこれから先を生きていかなければいけないのか。」
「今日の、今の弓弦の顔色はかなり血色よくなってきたから
 明日の検査とかが楽しみだな。」
「少しでも、でてくる数値が正常値に近くなれば外出できる。」
「そうだな。でも、その前に記者会見っ!」
「なんだか具合悪くなってきた(笑)」

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