森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 58

「原田さん、回診です。」
「はぁい、どうぞ。」

「おはようございます、原田さん。ご機嫌はいかがですか?(笑)」
「またまた、先生。すこぶるご機嫌ですけど?(笑)」
「それはまたいいことで。」
「さぁ熱を計ったぶんは?」
「今朝の原田さんの・・・・・は・・・・・。36.3です。」
「良好だね。やっぱり20代は治るのが早いな。」
「先生?外出はいつからできます?」
「外出したいんですか?(笑)」
「えぇ、きちんとご迷惑かけましたと頭を下げに行かないと。
 少しづつ、行かないと退院してからだと無理なもので。」
「なら血液検査をこの後してみますか?
 数値が平均値に近ければ、許可を出せるでしょう。
 なんせ感染症が怖い。風邪など怖いしね。
 それに伸びていた記者会見。来週、この病院の向こう側にある
 どこだっけ?新聞社の会議室を使うそうだよ?」
「その連絡はいつ?」
「今朝だが、まだ原田さんの方には?」
「連絡はまだ。PCのメールの方にも携帯の方にも。」
「では、詰めて詳しいことが決まり次第れんらぅということだろう。
 だから、まだなのかもなぁ。とりあえず、その記者会見の日までに
 体調を整えて外出できるようにならないとまずいですからね。」
「そうですね、毎日ここだと結構きついものもあるし
 気分転換したい。そのほうが精神的にも楽だし。」
「原田さんは自由なのが基本好きみたいですね。
 そうそう、外科の石田先生とほらあなたの手術をした先生ですね。
 と、婦人科の是枝先生があなたに一つお伺いしたいと言ってましたが。」
「何を聞きたいんでしょうか・・・・・。」
「あなたが見つかった時にけがに対しての手術をしたでしょう?
 その時にあなたの衣類をすべて剥ぎ取り、怪我の度合いを見て
 おなかの傷に気づかれたそうです。
 骨折とか内出血とかの検査でCTスキャンとレントゲンをとり
 手術に入ったわけですが、おなかのその一文字の傷と
 子宮の手術跡を見てどなたが手術したのかと気になさってました。
 素晴らしい手段での女性のために行われた手術だとわかると。
 あなたの体のために考えられた手術だとわかると感心されてました。
 いつかあなたは母となるときのために最善の手立てを尽くされている。」
「あたしが母になる時のために?あたしは子供は無理だと聞かされた。」
「少し違うかもしれないが、あなたのその話を午後から僕も一緒に  
 お聞きしたいと思ってるけど時間は取れるかい?」
「えぇ、今日はまだお見舞いに来る予定のはいませんし
 そういう連絡も来てませんから。」
「では、お昼を食べてゆっくりしてから3人で来ますね。」
「えぇ、私のこの傷の事でしたら覚えていること全部お話しできますよ。
 理解していただけるのであれば、
 こちらをかかりつけとして通わせていただけと嬉しいけど。」
「嬉しい言葉ですね。では、あとできますね。」
「待っています。」

午前中には携帯にもPCにも沢山のメールが来ていたが、
今日お見舞いに来るというメールは確認できなかった。先生たちとの話で
待ったりゆっくりと過ごすことができると、内心ほっとしていた。
毎日毎日泣いたり笑ったり、起伏の激しい日が続いていたから
少し何もない時間があってもいいとそう思っている弓弦だった。
先生が部屋から出た後、もうすぐお昼だねと峰さんが部屋に来た。
今日は仕事がお休みなんだけど、原田さんのおしゃべりがしたいと
病院に来たらしいのだ。

「原田さん。元気にしとるぅ?ちわっ。さっそくお邪魔しに来たけど?」
「峰さぁん。ちわっす。今日は休みなんですか?」
「そうさぁ、休みさぁ。近くまで来たけんちょっち寄ってみたんやけど
 なぁんや、元気が顔しちょるやん。よかったねぇ。」
「あはははは、気兼ねなく喋れるっていいねぇ。
 なんだか長崎に帰った気分やん。これって幸せぇ。(笑)」
「一緒に居た人は?」
「先に退院しちゃった。でも先に退院していなくなった方が
 楽かもぉ。自由やけんさ、かなーり自由やっけん気持ちも楽々。」
「でも、あん人原田さんの旦那はんになる人やなかとぉ?」
「まだ結婚し取らんけどね。でもあの人はあたしを嫁にするって
 うちの爺ちゃんに頼み込んでしもうたけん、きっと嫁がされる。」
「うそうそ。原田さんがこの人と一緒になるって言い張ったんやろ?
 聞いたもん、その話聞いたもん。」
「おーばーちゃーんっ!また余計なことを。」
「でもおめでとうやん。幸せにならんとなぁ。」
「ありがとう、おばちゃん。」
「そうやったそうやった。これ。長崎の友達から送ってもらったんよ。」
「なぁに?」
「懐かしいやろぉ。カステラやで?」
「おばちゃん大好き!あたしカステラ大好きなん。」
「やっぱり福砂屋のカステラが一番やけんねぇ、食べさせとうして
 持ってきたんよ。これが一番の今日の仕事や。」
「涙出るー!おばちゃん本当にありがとう。」
「でもお昼食うたばっかりやろ?15時のお茶の時間にでもたべたらえぇ。」
「そうする!もうおばちゃんと知り合いになれてよかったぁ。マジ幸せ。」
「その幸せそうな顔は、旦那はんに見せてあげなぁな。」
「あははは、はずい。」
「んじゃ、あっちの先生の所にもいかんといけんからいくなぁ。」
「うん、おばちゃんありがとぉ。また来てなぁ」
「おぅ。またねぇ。」

峰さんというおばさんは弓弦に部屋に福砂屋のカステラをおいて行った。
1斤もカステラを弓弦はどうしようとも悩んだが、血液検査もあるしと
食べるのを我慢しそれが終わってから開けようと楽しみになおした。
長崎にいるときはよくカステラ屋さんに行って、
カステラの切れ端をたくさん詰めた袋をみんなで買っておやつによく食べたなぁと
思いだし、今でも連絡が取れる同級生からメールが来ていないかPCをチェックし始めた。
お昼を過ぎて14時前、看護婦さんが呼びに来た。

「原田さーん。行きましょうか。」
「えぇ、ちょっと待ってPCの電源オフにする。」
「ほんの15分ぐらいですよ?結果は、一時間ぐらいで出ますけど
 その間こっちに帰ってきますし、結果は先生がこちらで。」
「そうなの?んじゃこのままでいいのね?」
「車いすは大丈夫ですか?」
「ぜんぜん、大丈夫ですよ。ほらっ」
「ではいきましょうか?お嬢様(笑)」
「お嬢様はやめてくださいよ、もうすぐ26なんですし。」
「でも、原田さんはいいところのお嬢様なのに。
 ちゃんと気品もうかがえますよ?」
「そうですか?でも、あたし言葉遣い悪いし結構育ち悪い方ですよ?
 問題児だったしさ。」
「そうですか?わたくしたちにはそうは見えませんが。」
「退院して仕事復帰した時にはご招待しないといけませんね」
「何のお仕事してるんですか?」
「銀座の`mask’というバーでバーテンダーしています。ぜひ来てください。
 一見さんお断りのお店なので招待状をお持ちしますから。」
「そうなの?みんなで行かせていただくわ。
 でも退院まで遠いわねぇ。でも両肩の骨折はつながってリハビリで
 早く動けるようになるといいのにね。」
「今お店ではあたし専用のブースを改造しているらしいです。
 しばらくは車いすだろうし、きちんと長い時間建てるようになるまでは
 椅子に座っての接客なるだろうからってオーナーが工事を入れているらしいです。」
「あなたあってのお店なのね。がんばらないと復帰もきっと待ってられるわ。」
「えぇ、だから外出する体力も退院する体力も早くつけないと。」





「原田さん連れてきました。」
「原田さん、こちらへどうぞ。少し多めに採血しますが大丈夫ですか?」
「えぇ大丈夫です。顔色もここの所いい顔色でしょ?」
「血色よさそうですね。とりあえず、検査で必要な分を採血しますね。」
「はい。」




「では、1,2時間ほどで結果が出ます。簡易検査ですから
 とりあえず外出できるかどうかわかればいいんですよね?」
「病室ばっかりだと、気が滅入ってしまって。
 お見舞いに来る人もいるけど、やっぱり自分自身が外の空気に触れたい。」
「でも採血だけではなくって、きちんと大久保先生の診察も受けてくださいね。
 本当にいいかどうかはきちんと聞かないとね(笑)」
「はぁい。」



看護師と一緒に病室に戻る弓弦。部屋に戻るといつもは西村が待っていたのだけれど
退院した後仕事がつまってて忙しいらしく、夜遅くにここに来る。
疲れているのに、毎日ここに帰ってくる西村。
退院した後会社のスタッフに手伝ってもらい、
弓弦がいるあの離れに引っ越ししたはずなのだけれどここに来る。
あの部屋の一人でいるのが寒しいのかなぁとも思いつつも
ただいまと言いながら笑顔でここに帰ってくる西村を弓弦は微笑んで迎える。
今日は大阪の方に行っているらしく。携帯にメールが入っていた。

 `弓弦。
   今日は大阪の堺市に来ています。急な仕事で夜遅くなるので
   終わる時間に新幹線がいない。なのでこっちに泊まります。
   夜そっちに行けない。さみしいなぁ。
   俺はかなりさみしい弓弦の顔を見れないのが。
   23時までは仕事なので電話もかけれない、声が聞けない。
   なぁ、早く退院してほしいな。仕事もあるだろうけど、
   しばらくきちんと動けるまで俺と一緒に居てほしい。
   弓弦が心配で気が変になりそうだ。
   仕事が終わったら携帯に電話入れるから。寝てたらごめんな。
   弓弦の声を聴かないと不安で眠れないから。´

心配性なんだなぁ、西村さんは。そう思いながら弓弦はにやにやとしている。
すると、次々と弓弦が携帯を触っているのがあたかもわかっているかのように
メールが次々と入り始めた。PCの分もその前の携帯のメールの分も
返信をしていないのに、まぁ次々と。
きっと先生の診察が終わったら夕食まではメールの返信で時間がつぶれそうな感じだ。

 `こんにちわ、貴志だよ。
 
   今大丈夫?病院のロビーにいます。

んぁ?貴志じゃん。携帯はまずいなぁ・・・・。メールを。


 `Re:

   久しぶり、上がっておいでよ。今病室にいる。
   6Fの677号室さ。´

そう送信して5分もしないうちに、貴志が来た。

「おひさぶり!弓弦さん、会いたかった!まじで会いたかったっ!」
「貴志っ!ごめんなぁ、あたしのせいでごめん本当にごめん。
 せっかくみんなで練習したのに、披露できなくなって本当にごめん。」
「弓弦さん泣かない。泣くのは似合わないって。
 ねぇ、泣かないでよ。俺は弓弦さんが生きて帰ってきただけでうれしいんだから。
 泣きたいのは俺の方なんだからっ!」
「ごめんなぁ。心配させて、本当に。」
「んだよ。なのに復帰する前に人の物になっちまって。それが一番悲しいよ。」
「黙っててごめん、貴志は一番あたしのそばにいるのに
 何にも相談もせずにいろいろと迷惑かけてごめん。
 でも、西村さんからのプロポーズは前からだし
 たまたま沖縄から帰ってきたときに返事をしただけで。
 でもそういう気持ちなんだってこと、話しておかなければいけなかったなぁ。」
「んだよ。俺も弓弦さんが大切なのは知ってただろ?
 て言うか、俺。振られたショックでその夜はじめて泣いちまったよ。」
「貴志、泣いちゃったのか?(笑)」
「振られたんだ、泣くにきまってるだろう。
 でもさ、仕事上これからずっと一緒なんだ。
 一緒に居ることができるとそう思えば楽になったさ。」
「貴志はあたしの中では、誠さんやみんなと同じ。
 そばにいて一緒に仕事してないとダメな仲間なんだからな。
 貴志こそあたしから離れていかないでよ?」
「わかってるって。」
「それときちんと言っておかなきゃね。」
「誠さんの事?あれは冗談じゃないの?
 俺さ。弓弦さんが見つかって西村さんと結婚するって婚約するって
 知らされる寸前まで誠さんと弓弦さんが男と女の関係だってそう信じてて
 その誠さんから弓弦さんを奪ってやるってそう思ってたんだ。」
「誠さん。ちゃうちゃう、誠兄さんだよ。本当に。
 先日誠さんがここに来た時にあたしの爺さんが来てて
 あたしの口からじゃなく、爺さんの口から直接聞かせた。
 本当に、誠さんはあたしの腹違いの兄さんだって
 爺さんの口からきかせた。だからそれは本当の事だよ。」
「兄弟と知ったのはいつだったの?」
「3年前ぐらいかな。爺さんがあたしを店まで送った時にさ
 入り口であたしを待ってた誠さんを見て、もしやって思って調べたんだって。
 で、判明。母違いの兄弟だって。」
「誠さんが知ったのは?」
「チャリコンの前の日。一緒に帰っただろ?あたしと誠さんと。」
「あの日に?んじゃ、それまで全く知らなかったんだ。
 ていうか、弓弦さん知ってて教えなかったんだ。」
「だって、男と女になりそうだったらきちんと言わないといけないんだろうけど
 本当に妹みたいにかわいがってくれてただろ?だからさ。」
「誠さんさ、本当に弓弦さんが気になって仕方なかったんだぜ?
 それが突然妹だって知った時気分はどん底だったんだろうなぁ。」
「なんで?振ったりふられたりして縁が切れるよりそのほうがいいじゃん。」
「良くないさ。愛していた女が実は兄弟でしただなんて最悪。
 穏やかで寡黙な誠さんの心の中はわからないけどさ。
 俺だったら確実にぐれてるな。(笑)」
「貴志。」
「なんだ?」
「ありがとうな。こんなあたしと友達でいてくれて。」
「いまさら何を。」
「そして貴志。ごめん。」
「何が?」
「誠さんが言ってた。」
「何を?」
「前にさ、誠さん殴ったんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・あぁ。殴った。」
「ごめんな、あたしははっきりとした態度とらないから。」
「いや、あれはさ俺が一方的な気持ちで殴っちゃっただけで。」
「配達のねぇちゃんと誠さんと3人で騒いでたところを貴志見てたんだろ?
 で、3人でkissしたりしてふざけてて。
 それを誠さんが一人になった時に貴志が問い詰めて
 誠さんが答えたのに対し貴志が殴ったって聞いた。」
「それね。あぁ、殴った。なんだかさ、そうだったらどうするって言われたらさ
 俺は弓弦さんを誠さん一人の物になってほしくなかったし
 いつまでも俺の方を見てとびっきりの笑顔でいてほしかったからさ
 なんだか返事にムカついて。」
「でもそういう気持ちだったんだよね。」
「あぁ、俺は弓弦さんがこの世で一番大好きだよ。
 もし二人っきりになれるんだったらここからかっさらいたいぐらいにさ。」
「貴志、あたしも貴志のことが大好きだよ。だけど、一番は西村さんだ。
 この世の終わりに一緒に居るはずの人は西村さんだとそう思っている。
 あの人はそう思わせられるぐらいに、あたしを愛しているとあたしに感じさせた。
 だから、ごめん。でも、西村さんと接触しない仕事の世界では
 誠さんと一緒で一番信用信頼しているパートナーだから。
 これからもあたしをよろしくお願いします。
 貴志がいないと、あの場所で仕事はできないから。」
「そう言われるとちょっと複雑?」
「んじゃどういえばいい?」
「貴志、愛してるからそばから離れないで?とか?」
「それは無理。相手が違う(笑)でも仕事のパートナーとしては誰よりも愛しているよ。
 貴志しかそう言えないから安心して。」
「それ聞いて俺今日は仕事がんばれる、頑張ってくるよ。」
「もうそんな時間?」
「今日は俊哉が弓弦さんのブースの掃除当番だなぁ。俺が一昨日だったから。」
「本当に、早く復帰したいなぁ。」

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