森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 65

「夜中なのに・・・・冬なのに・・・・暑いな、非常に暑い(笑)」
「来れないとこうやって電話が入るんだ。でもやっとこれで寝れる。
 さぁ、病院の朝は早く起こされる。客人でもだから翔太君も寝よう。」
「そうですね。でも、前より弓弦さんまでの距離が遠い。」
「当たり前。あたしはけが人。そしてここはあたし用の怪我人のベッド。」
「俺は客人だからソファベッド。」
「でもくっついている訳じゃない。手はとどく範囲だよ?」
「んじゃ、手を握って寝てもいい?」
「あたし寝相悪いからきっとつないだ手は振りほどかれちゃうよ?」
「それでもいいんだ。」
「そうなんだ、振りほどかれて打ち叩かれても知らないぞ?(笑)」
「いたいけな青年に弓弦さんはそういうことするんだ(笑)」
「あー言えばこういう。さ、お休み翔太殿。」
「お休み、弓弦さん。」






月明かりに照らされるベッドの上の二人の寝顔。
手だけをつないだまま眠る二人の姿の似ていること。
夜中の見回りの時、看護婦がのぞいた部屋は月明かりに真白く二人が浮かび上がっていた。
まるで映画のワンシーンのように。そんな夜の時間は静かに過ぎて行った。


「ん・・・。」


弓弦は何気に起きた。まだ翔太は寝ている。しっかりと弓弦の手を握りしめて寝ていた。
起こすのが可哀想なぐらいに、翔太の顔がかわいすぎて弓弦はそのまま見つめる。
長い睫にすっと通った鼻、自分によく似た唇。
男の子らしい顔の形。なのに、女の子のような髪。触ると滑らかで滑るような感触。
弓弦は握られていた左の手をそっとはずしベッドから抜け出した。
裸足のままの左足で病室の床に降ろすとすごく冷たくて声が出そうになったのを
弓弦は我慢して足をつけ、壁伝いに移動。
そういえばこの間3人で来た時にCDをおいていったなぁと思いだし
CDを探す。デッキに入ったままになっていたCD。ヘッドフォンを付けて
椅子に座りCDをかけアルバムを聞く。
聞きながら自分が映っているフォトブックを一枚一枚めくり写真を確認。
それがどうしたらそんなに映るのかが不思議に思えるぐらいに
写っている弓弦の姿は自分だとは信じられないぐらいに
他人に映っていた。確かに顔は出ていない。自分とわかる写真は少ない。
少ないというよりも、無いに等しい。
これが自分なのかと目を疑うほどの出来上がりだった。
そしてCDを聞いているうちに、翔太がソロで歌っている曲が聞こえてきた。


     acaciaの花の下で
     待ち合わせしよう
     きっとぼく達だけのはずだから

     acaciaの花の下で
     待ち合わせしよう
     きっと誰も来ないから

     acaciaの花の下は
     安らぎの甘い香りに包まれて
     あなたと二人、夢の中

     acaciaの花の下は
     幸せな時間だけがそこにあって
     あなたと二人、夢の中

     この花の下で
     時間を共にするなら
     あなたしか
     ぼくには、考えられない・・・・
     今のぼくには



聞こえているその翔太君の声が、耳に響く。
フォトブックの中ほどの頁に詳細が書いてあるのだけれど。

 `acacia´ 作詞・作曲 橋本翔太 編曲・arrange 元宮達哉

あんなに繊細なものを作り上げるんだと、弓弦は内心びっくりしていた。
アルバムの中のテクノ的な歌の中に一人一人その特徴を捉えたようなソロの歌。
弓弦はmartinの5人ってだけで何かを勘違いしていたようにも思った。
翔太のこの「acacia」を繰り返して聞いているうちに朝日が差してきた。
6時を回ったらしい。まだ翔太は寝ている、その寝ている顔を覗き込んでも
気づきもしないで寝ている。弓弦はおこすのが本当にかわいそうになってきて
そっと音を立てずに、部屋を出た。右足が痛まないときは、松葉づえで移動しているのだ。
車いすだと音がするから、翔太君に気を使ったのか松葉づえで。
トイレの横の洗面に行くと、口をゆすぎ顔を洗いすがすがしい顔をしてその場所を離れた。
すると看護師さんが弓弦を見つけ、声をかけた。

「おはようございます、原田さん。」
「おはようございます。」
「今日は松葉づえですね。大丈夫?」
「えぇ、床に右足をつかなければ全然大丈夫です。」
「でも肩に負担がかかりませんか?」
「右の鎖骨の骨折。どうなんだろう。
 松葉づえを始め使うときは結構痛かったんですけどこの2,3日痛くないんですよね。」
「今日肩のレントゲン取ってみますか?先生にそれとなく伝えて
 先生にレントゲンって言わせましょ。」
「そうですね。診察の時にでもレントゲンでの確認もしてもらえたら
 何か嬉しいことでも起きそうだし。」
「では、そういうことで。
 そうそう、あの男性はやはり泊まっていったのですね。
 先ほど原田さんに声をかけようと覗いたら、まだぐっすりと寝てられました。」
「そうなんです。あれじゃ起こせないでしょう?
 だからあたしも、そっと音を立てずに出てきたんですが
 まだ寝ているんですかぁ・・・・・。戻りづらいなぁ。」
「原田さん、歩いて出てこれたのでしたらこのまま朝ごはん
 食堂でいただきますか?お箸使えるようになったんですもの。」
「今何時です?」
「もうすぐ7時。7時前ですよ。」
「だったら、少ししゃべっていたら7時の朝ごはんですね。」
「えぇ。このままぐっすりと寝かしておきましょう。」
「彼の朝ごはんは、どうしよう。」
「それは起きられてからでもいいのではないですか?」
「ですね。それよりも彼は仕事で疲れているんだろうから
 寝れるときに寝かせてあげないとですね。」
「でも、彼はかわいい顔で寝てましたねぇ。」
「えぇ、あれで3つも年上ですよ?信じられますか?」
「あんな可愛い顔で甘えられたら、落ちますね。」
「看護師さんもそう思う?そう思いますよねぇ」
「でも原田さんには西村さんがおられるのですから駄目ですよ(笑)」
「はいはい。多分朝一でここに来ると思いますけどね(笑)」
「とりあえず、あたしはおなかがすいているのでお先に。」
「行ってらっしゃい。たくさん食べてね。」
「はい!がっつりと!(笑)」


朝早い時間から病院は忙しくなってくる。
通勤の前にと早々と混み始める前にと患者さんたちのラッシュが始まる。
病院の外では通院の人と出勤に人たちでいっぱいで駐車場も仕出しに混雑してきている。
それを食堂から眺める弓弦。
まだ来ている人が少ない食堂の端の眺めのいい場所で弓弦のために作られた朝食を
いただきます。という言葉と同時に弓弦は食べ始めた。
炊き立ての白いご飯。塩分が控えめに作られた麦みそのお味噌汁。
弓弦の腕にはかなわないんだろうが厚焼き卵が大根おろしと共に。
それとハンバーグ。なぜかハンバーグ。
朝から肉なんてきついなぁと言う顔をして食べている弓弦。
隣りにいた人がそれに気づいたのか、弓弦におはようと声をかけてきた。
そしてなぜ朝から肉系のおかずが出てくるのかを説明してくれた。
弓弦はその説明を聞いて、自分がほかの人よりも回復の度合いが早いんだと
そう感じたのだった。
全部きちんと食べ終わると席を立ち、自分のお膳をカウンターに返す。
いつもおいしいご飯をありがとうと言い、にっこり笑ってご馳走様でしたと最後に言う。
その弓弦の笑顔が一日一日きれいになっていくのをみんなは喜ばしく見ていた。
待合の方に行き自販機でブラックの缶コーヒーを買い部屋に戻ろうとしていた。
その時弓弦の後ろから声がする。遠くから弓弦の名前を呼ぶ声がする。
振り返ると西村がいた。にっこりと笑って弓弦に声をかけてきたのだ。

「弓弦、おはよう。」
「おはよう、なんで?なんでこんな時間に?」
「一番早いので帰ってきたんだ。」
「一番早いって・・・・・?」
「夜行バスみたいなもん(笑)」
「きつかったんじゃない?車でしょ?で一晩だなんて。」
「一晩て言うかさ、別の番組のスタッフがさ東京に今晩中に戻るって話を
 局内の廊下で聞いちゃって、それに便乗してきたってわけ。」
「でも疲れたでしょう。あっちは何時に出てきたの?」
「夜中の3時。だけど、運転する人がいたから
 俺は後ろでがっつり寝かさせていただいた。」
「お仕事お疲れ様でした、西村さん。」
「なぁ。前にも言おう言おうと思ったんだけどさ、いい加減西村さんはやめないか?」
「んじゃ何て呼んだらいいのさ。」
「だなぁ。あなたとか(笑)」
「だからそれはあたしの性格上そうは呼べない。あたし壊れちゃう。」
「んじゃ何て呼んでくれるんだ?」
「それは・・・・いつか。」
「なぁ、記者会見が終わって婚約してそれまでは西村さんでもおかしくはないけどさ
 結婚したらちゃんと俺を呼んでくれよ?」
「ちゃんと、旦那さんを呼ぶ呼び方に変わるだろうから
 それまでは見逃してくださいよ。」
「で?朝食は済んだんだろ?」
「えぇ。たくさん食べさせられましたよ。」
「で、部屋に戻るのにブラックか?それは胃にきついんじゃないか?」
「これあたしのじゃないのよ。びっくりするわよ?
 だって、あたし一晩男と一緒だったのよ(笑)」
「・・・・・・誰?誰なんだ?」
「まだ部屋で寝てるわよ。いい加減起こさないと。」
「弓弦・・・・・・・お前。」
「別にやましいことはしてないわよ?彼も西村さんがいなくて自分ができるときは
 自分が看病しますって言い張ってたし。」
「誰だ?」

部屋の引き戸をそっと開ける。
奥の弓弦のベッドにくっつけてソファベッドがある。まだ寝ているらしい。
寝息が聞こえる。窓からの朝の陽射しが入り込んでかなり部屋の中は明るくなっているのに
ブランケットを頭からすっぽりかぶり、まだ寝ている。
西村はブランケットから見えている足元を見て、
ふとこれはと思いブランケットの頭と思われる部分を、押さえつけた。
びっくりして彼は起きてもがく。弓弦が大笑いしている声が部屋中に響いた。


「おはよう、翔太。」
「げぇっ!西村さんじゃん。」
「だーかーらーおはようって(笑)翔太!」
「おはようございます、西村さん。」
「おはよう、翔太君。あまりにも気持ちよく寝息立ててたから
 起こさないでいたのに、西村さんが(笑)」
「もう帰ってきたんですか?西村さん。」
「あぁ、早々と帰ってきましたよ。でないと弓弦がね。弓弦が心配でさ(笑)」
「俺も用心されてるんだ。」
「翔太はなぁ。とりあえず、弓弦とは切っても切れないだろうし
 俺から連れ去りさえしなければいいんだけど?」
「え?俺?西村さんがいるのに槙村さんよりは安心でしょ?
 大川先輩は確実に連れ去りますしね。」
「そうだなぁ。危ないなぁ・・・・・あの近辺は危ない。」
「それはそうとさ、はいコーヒー。」
「ありがとうございます。」
「二人とも、朝ごはんは?西村さんはまだなんでしょう?」
「あぁ。一緒にって思ったけど、先に食べちゃったんだな。
 おい、翔太。男の話をしに朝飯食べに行こう。」
「俺もおなかすきました。もちろん西村さんのおごりでしょ?
 おいしいものがっつり食べなきゃ!」
「お前真面目に食べそうだなぁ。んじゃ弓弦。行ってくる。」
「行ってらっしゃい。お二人さん。」

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