森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 66

エレベーターで1階まで下りると、二人揃って病院の通用口へ向かう。
正面玄関から出るには少し勇気がいるような状態で人もかなり多くなっていた。
病院の通用口のそばにバイクを止めていたのだが、その横を通り過ぎ
通りに出ていく。
もちろん、帽子を目深にかぶり翔太にも帽子をかぶせた。

「おい、翔太。これかぶっとけよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「ありがとうとかは抜きだ。とりあえず、つかまらないように
 喫茶店まで走るぞ(笑)」
「はいっ!」

そう言って少し離れたところで、ビルの地下に入っている`garnet´に向かった。
狭い階段を下り、黒いドアを開けるとそこのマスターと思われる人物が
閉店の時間なのですがとカウンターの中から声を出した。

「マスターごめん。おれおれ。帰りが遅くなって今来たんだ。
 腹ペコでさ。マスターの所しか浮かばなかったんだ。」
「まさじゃないか。どうしたんだ?」
「いやさ、大阪から帰って来たばっかりでさ、食べてないんだ。」
「でそっちは?」
「あぁ、かわいい後輩さ。」
「そっちも?」
「腹ペコです(笑)」
「んじゃ、ぼうず。ドアの外に、準備中の札かけて来い。特製カレーでも準備してやる。」
「マスターのカレーは弓弦のカレーの次にうまいんだ。」
「俺弓弦さんのカレー食べたことないっすけど?」
「いつかな。弓弦がカレーつくった時にでも呼んでやるから。」
「お前たちは黒と赤とどっちがいいんだ?」
「俺は黒で!マスターの黒は絶品だもんな。」
「まさ・・・・(笑)お前さっきまで彼女のカレーが一番うまいって言ってたじゃないか。
 都合がいいなぁ、まさは。」
「俺も黒でお願いします。」
「坊主は辛いの大丈夫か?」
「どれぐらいですか?」
「どれぐらいと言ってもなぁ・・・・・・。なぁ、まさ。」
「黒はな、コクがあるんだ。コクがあってスパイスの香りがよくってさ
 野菜の甘みがすごい。かなり煮込んで手をかけている感じ。
 赤は、本格的に辛い。南国で食べる感じの辛さでさ、初めての人には黒を進めるけど。」
「んじゃ次来た時は赤にするとして、今日は黒でお願いします。」
「了解、二人とも黒だな。待ってな。」
「`garnet´っていうんだ。病院とは関係なく前から知っててさ
 吞みに出るときとかにここで食べてからくりだしてたんだ。
 食べてから吞まないと胃に悪いしな。」
「ここはもう閉店ってさっきマスターがおっしゃってましたが・・・。」
「`garnet´は17時開店で翌朝8時が閉店なんだ。」
「へぇ。なんだかバーみたいなんですね。」
「ここは夜の仕事の人間が通う所さ。あっちにステージがあるだろ?」
「ありますねぇ。ドラムとかおいてある。」
「売れない頃はあそこで歌ったりしたものさ。」
「西村さんにそんな時代があったんですか?びっくり。」
「こっちに出てきて2,3年はバイトしながら仲間とここで歌ってた。
 つらかったなぁ。だけどマスターだけが俺らの歌をいつかは売れるから
 売れるまで頑張れって励まされながらあそこで歌ってた。
 客からひっこめのへたくそのいろんな罵声を浴びせられながらも
 俺はそれでもそれは逆の声援なんだって頑張った。
 ギターだってベースだってへたっぴでさ、ここに来る客の人たちから
 鍛えられたもんさ。」
「俺らは出来上がった先輩たちの後ろで踊ることから始まり
 コーラスに加わったりして歌を教えてもらった。
 仲間と一緒に人を笑顔になってもらうためにどうしたらいいかって
 それから始まったんだ。」
「まぁ、お前たちは事務所にいるそれが歌手として合格lineだったってことであって
 そこが始まりの一歩だもんな。」
「いつかは大宮先輩たちを追い越したいし、
 その上の秋山さんたちをぶっちぎりで追い越したい。
 そのためには自分たちがその間に実って自分たちを確立させて
 どんどん登り詰めないといけないんだ。」
「大した意気込みだなぁ。俺はエスカレーター式で登っていく君らだと
 始めは思っていたけど、のし上がっていきたいという欲望はすごいんだな。」
「あの事務所の中では仲良く上下関係があるように見えてますが
 実際足の引っ張り合いはすごいもんですよ。」
「でも、そういうことう言う翔太のいるmartinは5人仲がいいじゃん。」
「同じメンバー同士だと仲がいいんですよ。親兄弟よりも仲間同士が家族みたいに。」
「音楽の世界にいてここまで来るのにはお互いにいろいろあった感じかな?」
「そうですね。でも俺は西村さんたちみたいにたたき上げじゃないから
 きっと社外の人につぶされそうになったらそれを返せる根性はないかもしれない。
 そういうのを感じたり対処したことないから。」
「免疫力はなさそうだなぁ(笑)」
「でも、足の引っ張り合いをするよりも一緒に自分たちの音楽を
 議論したり成長させていくための刺激を受けあったりするのは
 すごくしてみたい。いろんなものに触れたいしやってみたい。」
「翔太は何にでも興味がある方じゃない?
 できるものはこなせるものはすべて自分でもやってみたいとか。」
「えぇ、出来るものはすべて自分でやってみたいし人に負けるのは嫌な方です。」
「弓弦にそっくりだなぁ。本当に外見だけじゃなくって
 中身も似ている。そっくりだな。」
「そうですか?あ。来た来た!」
「はい、お待たせしたな。特製黒だ。」
「おぉぉぉぉぉぉ。すごい引き込まれるぐらいに香りが抜群!」
「一口食べると虜になるぞ(笑)」
「まさ、まさもそうだったなぁ。」
「俺も虜になってもう20年だもん。」
「そんなに立つか。早いなぁ。」
「西村さんってどんな人だったんですか?」
「まさか?まさはなぁ、ひょろんと痩せててその割には貪欲でさ
 はじめのころは下手でさ、客にも聞かせられなくって
 しばらく聞かせれるようになるまで他の人につかせて楽器の練習させて
 3年目ぐらいから自分のバンドだけでやったんだよな。」
「そうそう。マスターに駄目だしされてさ、何度も何度も
 あーだこーだ注意されてしかられて。
 でもマスターのダメ出しがあったからこそ今の俺があるんだもんな。」
「・・・・・・・・。」
「おい、翔太。おいっ!」
「なんっすか?」
「黙ってるけどどうしたんだ?」
「うまいっす。俺明日も来ますよ、ここ。」
「そういうことか。明日も明後日も、いつでも来い。営業時間はさっき言った時間だし、
 よほどのことがないと店休日以外やすまねぇから。」
「やった。俺行きつけとかなくっていつもそういうのがないかなって
 探してたんだ。やったっ。マスターおかわりお願いしますっ!」
「おいおい朝だぞ?よく食べるなぁ。」
「まさは?どうする。」
「俺もおかわり(笑)」
「待ってな。」

そういうとマスターはまた奥に入っていった。
西村が若かりし頃からここに通ってた事を知った翔太は
自分しか知らない兄貴分というのがうれしくって、にやにやしていた。

「これが最後のカレーだ。2,3日作るのに時間がかかるから
 カレー食いに来るんだったら、3,4日後がいいぞ、ぼうず。」
「わかりましたっ。て言うか坊主じゃなくって橋本翔太って言います。」
「マスター。ほら、今の時代を背負っているunionMartinの一人だよ。」
「あぁ。この間、まさとまさの彼女と3人でいて一緒にけがしたぼうずか。」
「あはははは。若いやつはみんなぼうずだもんなマスター。」
「まいるな(笑)」
「冷たいのはいるか?」
「お水ください。」
「あ。俺も。」
「良く食べるなぁ、二人とも。」
「マスターのは特別。美味しすぎて。」
「そうそう。ご馳走様でしたっ!」
「よく食ったなぁ。食いっぷりがいい。」
「そうっすか?でもまた来ます、美味しすぎですって。」
「さぁ戻ろうか、翔太。」
「だね、西村さん。」
「マスターお会計。」
「おかわり込みで一人1,000円。」
「それでいいの?」
「あぁ、もう閉店だし最後をしっかりと食べてくれたからな。」
「マスターいいの?」
「あぁ。」
「んじゃ。」
「またな。また来いよ、ぼうず。」
「はぁい。」

時計を見るともう9時をまわっている。
弓弦の診察の時間はそれぐらいだったんじゃないかとそう思い
急いで病院に戻る。翔太も西村の背中を追いかけながら付いて行った。
病院の通用口からまた6階に上がり、弓弦の病室に向かう。

「弓弦。いる?」
「いないんじゃない、西村さん。」
「ほんとだ。もう診察に行ったんだ。」
「んじゃ、待つとするか。翔太。」
「そうですね、西村さん。西村さんは眠たくないんですか?」
「おい、西村さんと呼ぶのはやめないか?歌い手としては対等だと思うんだが。」
「駄目ですよ、やっぱりおれにとっては西村さんは西村さん。
 対等でもなんでもないです。大大大先輩なんですから。」
「駄目か(笑)渉もさ、渉って呼んでっていう割には俺の事、西村さんだもんな。」
「そりゃそうですよ。
 うちの会社ではきっと西村さんは山本社長と待遇は同じだよ、絶対。」
「それこそ違うと思うぞ。俺は俺だもんな。弓弦と同じ。」
「どこまで似ているんですかお二人は(笑)」
「お前だって弓弦によく似ている。きっと俺から弓弦が離れた時
 渉か翔太のどちらかが弓弦をかっさらっていくんだろうな。」
「槙村先輩には負けませんって。」
「弓弦はどっちかっていうと翔太をかわいがっているもんな。」
「どうですかねぇ(笑)俺の前では西村さん西村さんうるさくて。」
「なぁ、翔太。」
「なんですか?西村さん。」
「お前いい歌つくるなぁ。」
「なんでですか?」
「この間のアルバム。何曲目はか忘れたが歌ってるだろう?ソロで。」
「俺のソロのですか?」
「あぁ、あのワルツ。`acacia´いいなぁあれ。」
「あの曲俺にも歌わせてくれないか?」
「俺の曲をですか?本当に、西村さんがカヴァーしてくれるんですか?」
「あの曲のように繊細で素直な曲は俺には作ろうとしても無理だもんな。
 聞いてさ、この曲って欲しいって思った。」
「そうなの?本当に?そんなに?」
「あぁ、お前のはすごくいいと思う。うちの社長に話してもいいか?」
「もちろん。俺の曲を西村さんがカヴァーして歌ってくれるなんて
 すげぇ嬉しい。」
「んじゃ、カヴァーの連絡は会社を通して連絡を入れるよ。」
「んじゃ俺も頼んでいいですか?」
「なんだ?」
「西村さんのプロデュースで、martinから離れてソロで歌いたい。
 で、弓弦さんと歌いたい。西村さんの手でソロデビューしたい。」
「それは無理っぽくないか?会社が違うし、弓弦が歌うというかどうか。」
「期間限定でいいんです。ずっとではなくって、期間限定で。」
「その話はうちの社長と山本社長と弓弦がいいと言えば先に進められる話だな。
 俺は喜んで二人をプロデュースするよ。
 だからその話は先に山本社長にしな。大丈夫だ、真剣に考えているんだって言って
 社長を口説き落とすんだ、翔太。」
「わかりました。なんだかそういうことをちょっとだけでも口に出して
 すすめられたらって思うとなんだかうれしくなってきますね。」
「弓弦のいないところで話が進むと弓弦へそ曲げるぞ(笑)」
「それはおいおい弓弦さんに話して、口説きますよ。
 俺絶対弓弦さんと歌を出したい。頑張ります、頑張らせて西村さん。」
「おぅ。頑張れ、それをプロデュースしたい俺がいるんだな(笑)」
「まだ帰ってこないかなぁ。」
「どうかなぁ。でもまだこの話はしないでくださいね。まだ退院も決まってないのに。
 秋山さんの仕事もまだどういうのかわかってないし。
 西村さんもまだ黙っておいてくださいね?わかってます?」
「あぁ、わかってるって。(笑)」
「TVつけます?西村さん。」
「待ってる間、男2人暇だな(笑)」
「ですね。西村さんは今日は?」
「社長が打ち合わせに来るはずなんだけど。新しい弓弦専属のマネージャー連れてさ。」
「すると俺、思いっきり邪魔ですか?」
「いや、記者会見の事だろうからいてもいいんじゃね?」
「いいんですか?」
「だって翔太も一緒だろ?記者会見。」
「そうですけど、うちの社長まだ何も言わないんですが(笑)」
「とりあえず、ゆっくりしてなよ。休みなんだろ?」
「えぇ、明日までお休みですけど。」
「なら今日の夜はうちに泊まるか(笑)」
「いいんっすか?西村さんちに泊まっても。」
「呑もうよ。翔太と吞んだら楽しそう。」
「んじゃ悠太も呼びます?悠太は昔っから西村さんのファンだし。
 西村さん一人占めすると悠太に口きいてもらえない(笑)」
「いいんじゃない?」
「んじゃ、あとで電話しようかな。」
「いつでもいいんじゃない?」

そうソファで二人喋りながら座ってTVを見ていると
弓弦が看護婦さんに連れられて帰ってきた。それも松葉づえで。

「おかえり、二人とも(笑)」
「おぅ、おかえり弓弦。」
「なんで二人たのしそうなの?」
「嫌なんでもないけど、弓弦大丈夫なのか?お前右鎖骨骨折しているんだろ?
 なのに右足のために松葉づえか?」
「左足でけんけんするよりは全然大丈夫よ(笑)」
「右肩痛くないのか?」
「ここんところ2,3日かな。松葉づえ使ってても
 痛くなくなったんだよね。大事をとって車いすで移動してることが大半だけど。」
「痛くないのか?本当に。」
「でさ、松葉づえでうろうろするもんだから先生が検査しようって言って
 今日は早めに診察に呼ばれたんだ。で、レントゲン撮って。」
「どうだった?」
「どうだったの?弓弦さん」
「両肩のリハビリは、リハビリ室で専門の人から受けるように言われた。」
「それって、動かしても大丈夫なぐらいになってるってことじゃん。
 お前すげぇぞ。早くね?」
「でも痛くない動きならば、早めに筋肉を動かさないと
 筋力落ちていくでしょ?落ちる前に元に戻していかないと。」
「だなぁ。そうそう、今日午後から社長が来るぞ。渡辺連れて。」
「今日なの?今日は午後から俊哉が来るって言ってたんだけど。」
「時間が被らないといいんだけどな。」
「俊哉、そこにある福砂屋のカステラ楽しみに来るからさ。(笑)」
「あんの?福砂屋!弓弦誰からもらったんだ?」
「ほら、峰さん。おばちゃんからもらったのよ、懐かしいでしょうって。」
「俺も懐かしい。食べていい?」
「西村さんの腹はブラックホールなの?さっきあんなにカレー食べたのに。」
「翔太君は?」
「食べたいけど、まだいいや。俊哉君が来るときに食べるんでしょう?
 俺もその時でいいや。」
「翔太も食うって言えよ。俺食べれないじゃん。」
「どんだけなんですか?社長とか来るんでしょう。
 その時弓弦さんが出せばいいじゃないですか。」
「ちぇっ。翔太はっ。」
「大人げないですよ?西村さん。(笑)
 俊哉には昨日もらったぶんのもう一つをお店でってあげたから
 一緒に食べたんじゃない?だから食べちゃってもいいけど、
 でも俊哉の分も残せたら残してあげてよ。」
「OKOK。弓弦は食べないの?」
「あたしは食べれなかったら、取り寄せるし。」
「何気にずるくない、弓弦。それ俺の口にも入る?」
「どうだろうなぁ、取り寄せてここに来た時に運よくいればの話じゃない?」
「俺がいる時を見計らって取り寄せてよ。」
「わかった、わかった(笑)ねぇ、それよりもあたしベッドに上がりたいんだけど?」
「おぅ、どら。」
「一人で大丈夫だから、ねぇおろしてよ恥ずかしいって。」
「けが人が何言ってるんだ(笑)」
「んもぅ。でもありがとう。でさ、PCとって。」
「はい。メールの確認か?」
「そうそう、何の連絡が来るかわからないからね。」
「俺は今日の午後から、ここに社長が渡辺連れてくるって聞いたけどさ
 記者会見前だしいろいろと話すことがあるんだろう。」
「それ聞いた。でも今日の午後なんだ。
 まぁ、予定はないしあっても変更できるから大丈夫だけどね。」

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