愚図

攪拌する


好かれてはいたいくせに愛されたくないだとか、番いたくはないくせに触りたいだとか、私たちはぐるぐるしながら距離感バグらせてる。
好きと好きじゃないの境界線を馬鹿みたいに真剣に、二時間も三時間も探り探り。
顔が見たいとか声が聞きたいとか会いたいとか今何してるのかとか、それでもまだ好きじゃないって強情。
どうしようもなく過ごす日中の息苦しさとうっかり真正面から受け取ってしまって傷付く夜。
少なからず心境の変化などというものを感じ取ってはいるようで、それでも不要かと聞けば寄ってくる。
ずっと知らないままでいて、ずっと知りたいと思わせていて欲しいと思うこと。
ずっと好きでいたいと思うこと。
時間をかけて近付いたってふたりはひとつじゃないということ。
必要とされたいと思うこと。

それでももう二十年もあのひとのことが分からないままでいる私は、だから懲りずにあのひとを愛しているのだ。
君のこともそんな風に愛せたら、と思うのだ。

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キハラからの連絡にはいつも惑う。
ましてやついこの夏に連絡が来たばかりだったから尚更。
なんの気なしに連絡をしてこられる程の親しさはない筈の他人なんて、大抵良い情報を寄越してはこないものだ。
現にあの時キハラはあのひとが就職をせずに院に進むのだ、と言った。
あのひとはいつも私に何も言ってはくれない。
いつから私たちは情報の共有をやめて、ひとつになりたがることをやめて、噛み付くことをやめてしまったのだろうか。
あのひとの噛んだ痕だけが唯一、あのひとが抱いた印だったのに。
キハラからの連絡にはいつも惑う。
私はよもやあのひとが死んだか結婚するかなどという連絡だったらどうしよう、と思いながらメールを受信する。
もしそうだったらどうしよう。
一体どうするっていうの?
的は大いに外れてなんの気なしに連絡をしてきたのだと言う。
キハラからの連絡にはいつも惑う。


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良かった、と思いながら止めてしまいがちな呼吸をなんとか再開する。
あのひとがいなければ生きてなどいけないと、あのひとがいなければ息をすることも出来ないと、本当にそう思えたらいいのに。
死んでしまえばもう君は永遠になって、私はまんまと縛られて生きて行ける。
今まで現実的に考えずにいたあのひとの結婚を、どうやら嫌がっているのだ、と思った。
一体どうしてこんなに愛しているあのひとと結婚したいと思えるのか私にはさっぱり分からなくて、どうしたらそう思えるのか教えて欲しかった。
そんな風に思いたかった。
夏の夕方、7:3のカフェ・オ・レとゆるゆると揺れる白いレースのカーテン。
寝そべって本を読むあのひとの白いふくらはぎ。
何時に出るの?と聞く声は健やかで、私の中にストンと落ちる。
私は今もずっとあの夏の中にいるのだろうか。
それとももうずっと昔の、まだ子どもだった私たちのあの屋上で、触れることも知らずにいたあの花火の夜にいるのだろうか。
思い浮かべればキリがない私たちの美しい思い出。


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いつだって大切にしたいと思っている君たちが、それぞれいなくなっていく日常のずっと先。
今度はいつまで隣で笑っていてくれるだろうか、ともう何度目かも分からない今の君を思う。
もう少しだけ傍にいて、という願い事を、あと何度君に伝えられるだろう。






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