繁華街の屋台村に、原付バイクに引っ張られた屋台がいつもの場所に到着する。
手慣れた作業で屋台を組み立てる。
簡易テントを広げなかに屋台から高価な機器が運び込まれる。最後に赤い提灯に火が灯ると・・・
診療所の文字が夜の町に灯った。
加藤哲臣がこの街で簡易診療所を開いて一年になる。
酔っぱらいの診察から初めて、今では町の信頼を得てわざわざ遠くからやって来る患者もいる。
夜中に診療しているというのもあるし、呑み会の帰りにふらっとやって来て気軽に診察を受けられるのも人気の理由だ。
当然、簡易診療所の収入では維持すら出来ないので、アルバイトとして親友でもある大病院の城ノ内義直の紹介でオペドクターとしてあちこちの病院で雇われ手術をして経費を捻出している。
似つかわしく無い高価な医療機材は、首になった城ノ内病院から退職金がわりに盗んで来たものだ。
向かいで営業する屋台の蕎麦屋の看板娘、希の盲腸が腹腔内で爆発した。診療所で緊急手術をし、命を助けるが、入院が必要であり、城ノ内病院に移す事になり付き添いとして哲臣も同伴した。
追い出された昔の職場で、親友の義直の様子が変だと義直の妻から告白される。哲臣の手術ミスから遷延性意識障害(植物状態)となった父親の前委員長重義の病室に入り浸っているのだと言う。
手術には絶対の自信があった哲臣は重義のカルテを見付けだし読んでみる。
そこには・・・
一年も意識不明を続けているのが、義直が投薬している薬によるものだと判明する。
精神を病んだ義直が父を恨み復讐を果たしたのだ。
「親父には俺達の会話が聞こえているんだぞ・・・」
義直は、自らの生い立ち、大病院を継ぐプレッシャー、親友である哲臣への嫉妬心などから精神を病んでしまっていた。
次期アメリカ大統領候補ともくされるジェームスが隠密に哲臣の診療を受けに現れる。
弱い大統領は嫌われる、病気持ちだと知れると大統領選には出られない、アメリカ留学中に親友となった哲臣に頼って来たのだ。
「僕が大統領になったら、主治医として雇いたい。アメリカに来てくれないか?」
「僕には・・・そんな大それた力は無いよ、ここの皆と生きて行きたいだけなんだ。だから、君の事も平等にひとりの患者としてならいつでも往診には行くよ」と笑う哲臣。
今日も赤ちょうちんに灯を入れる哲臣。