カチ カチ カチ カチ カチ カチ
カッターの音が静かな部屋に響く。
ーこれで気分が少しでも良くなれば・・・-
彩乃。高校2年生。ギャル。ギャル男の彼氏あり。
「彩乃、今日、またカラオケでいい?」
「高史がいいならいいよ」
彩乃と高史は高校1年の頃から付き合っている。
2人ともおそろいでCKoneの香水をつけている。
左手の薬指には光る指輪。
二人はいつも帰りにカラオケに行く。ほぼ毎日だ。
たまに友達も連れて5~6人くらいでカラオケに行く時もある。
「やっぱり今日カラオケ行かない!」
「何だよ!いきなり!」
「髪染めたい。プリンになってきてるから!」
「わかったよ。俺も行く」
二人で美容院の予約を入れた。今から30分後だ。
30分間喫茶店に入り、珈琲を飲み、美容院に向かった。
{ヘアー&フェイス LAN}行きつけの美容院だ。
このあたりでは結構評判の良い店だ。
「前川さんは今日はどうしますか?」
前川とは彩乃のことだ。
「今日は金髪の根元染めしてください。」
「仕上げは巻いて良いですか?」
「お願いします」
1時間後、立派な金髪にふわふわの巻き髪のギャルができた。
「浅野さんはどうしますか?」
ー浅野。高史の事だ。-
「坊主!!」
高史は坊主が似合う。もともと坊主だった。
こちらは1時間後坊主のできあがり。
二人とも、満足して店を出た。
「染めちゃったからカラオケいけないねー」
「しばらく公園だな!」
「あれ?」彩乃が覗き込む。
「どうした?」
「首、引っかいた?」
「あぁ、これか。飼ってる猫にやられたんだ」
「ならいいんだけど・・・首は結構血が出るから気をつけなね?」
「あぁ、ありがと。妙にくわしいな」
高史はもしやと思った。
「あぁ。うちのしんせきのお姉ちゃん、女医やってるから。
精神科の先生でリスカとか色々やってる子いるんみたいで。
{彩乃はやったらだめだよ}って言われてるの。
でもあたし、病んでないし、今死んだら高史と別れる事になるからしないの」
ケロっと言った。安心した。
「じゃあ、俺もまだ死ねないな!」
そっと唇を合わせた。
次の日、学校に高史が来なかった。
「高史知らない?」
高史と仲の良い信吾に聞いた。
「お前、知らないの?」
ー何の事だろうー
「あいつ、昨日の夜、リストカットして救急車で運ばれたんだぜ」
信吾から聞いて驚いた。
高史の親と信吾の親は、昔から仲が良く、二人の関係も知っていた。
ーまさか、あの首の傷も・・・-
「高史の家って猫、飼ってないよね?」
「あぁ。猫なんて飼ってないよ」
ーやっぱり・・・あの傷は自分で切ったんだ・・・-
「で、高史の容態は?」
「リストカットの上に睡眠剤の大量服薬らしいから、今、やばいかも・・・俺、お前そのこと知ってるのかと思ってたよ」
ー知らなかった・・・というより。辛い事を教えてもらえなかった事が辛かった。支えてあげたかったー
放課後、信吾の携帯に高史の親から電話が鳴った。
「前川!病院行くぞ!」
ー何!?高史・・・死なないでね・・・-
急いで二人は病院に向かった。
二人がついた頃にはもう息を引き取った高史の姿があった。
「高史ー!!」
彩乃は人目をはばからず号泣した。
「彩乃ちゃんね」
高史の母が彩乃に声をかけた。
「彩乃ちゃん、絶対に後追いだけはしないで。
いくら好きでもそんなことしたら高史は許さないわ。」
「でもっでもっ!高史がいないならあたしは生きている意味ない・・・」
「彩乃ちゃん、聞いて。何で高史が自殺したのか。
彩乃ちゃんのせいじゃない。私達、親が悪いのよ」
「何でですか?」
「高史を自由にさせすぎたから。
{俺には居場所がない}
そうおもっていたんだと思うの。だから彩乃ちゃんは生きて」
彩乃は小さく頷いた。
次の日、高史の通夜が行われた。
彩乃は泣きながら通夜と告別式に参列した。
ー彩乃ー
「何?」
「どうしたの?」
信吾が聞いてきた。
「今、高史があたしの事呼んだ」
「何言ってるの?」
ー幸せになれよー
「また聴こえた!高史!あたし、幸せになるよ!!」
その後、彩乃は髪を黒くし、新しく彼氏を作り、その人と結ばれた。
その後、彩乃は信吾の友人のユウヤを紹介してもらった。
ユウヤは高史や信吾と違って、真面目で成績もいつも上のほう。
そんなユウヤがなぜ信吾と仲が良いのか。
それは二人が幼なじみだった。