【受賞の裏側大公開!】魔法のiらんど大賞受賞者インタビュー(巻村螢さん)

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魔法のiらんど大賞2022」開催記念スペシャルインタビュー企画!

前回の魔法のiらんど小説大賞で、応募総数1,258作品から見事小説大賞を受賞した巻村螢(まきむらけい)さんに、回答5,000字以上に及ぶインタビューを行いました。


執筆活動をはじめたのは2019年夏頃という巻村さん。短期間でコンテスト受賞、書籍化・コミカライズと、結果を残してきた巻村さんのお話には学ぶべき創意工夫がたくさん!

執筆をはじめたきっかけから、大賞受賞作の執筆の裏側、公募作執筆時の戦略までたっぷりとお話を伺いました。ぜひ皆様の執筆活動にお役立てください。

プロフィール

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執筆活動をはじめたきっかけ

――執筆活動をはじめた時期やきっかけを教えてください。

小説を書きはじめたのは2019年の夏頃です。

きっかけはあまり夢のない話になってしまうのですが(笑)、子供が小学生になったタイミングで働こうと思っていて、それまでにまだ4年ほど時間があったんです。その4年の間になるべく家でできる仕事を見つけておこうと考えた結果、思いついたのが小説執筆でした。すでにPCは持っていたので、「初期投資不要でできるな」と。



――もともと小説を読んだり書いたりするのが好きだったんですか?

とくに小説が好きということはなかったですね。年間読書量は0冊が当たり前で、読んでも漫画ばかりでした。

小説を読まないことはないんですが、趣味が偏っていて、特定ジャンルの小説しか読みませんでしたね。もし何か読みたくなったら、手持ちの同じ小説をずっと読んでました。

文章を書くのが好きとか得意とかでもなかったです。何か文を書いたのは、おそらく中学校の読書感想文が最後じゃないでしょうか。

そういうわけで、私の経験値は “作文”からはじまりました。
Twitterの方々に「!の後には空白を入れる」や「…は偶数個連ねて使用する」「一人称と三人称」などいろいろ教えていただき、“小説”までたどり着けました。

本当、私にとってTwitterの皆さんはかけがえのない先生ですね。そのような創作仲間という存在のおかげで、いまでは小説を書くのがとても楽しいです。生きがいです!

▶ 影響を受けた作家・作品

一番影響を受けたのは北方謙三先生です。作品は、「三国志」から「大水滸伝」シリーズ、側話的な「楊家将」、「血涙」。中華ものは大抵は読んでいます。多くないお小遣いを握り締めて、毎月少しずつ文庫を買い揃えに本屋に行ってました。

また、私にはじめて中華世界というものを教えてくれたのは田中芳樹先生の「岳飛伝」です。小学生の頃に読んで、思わずその世界の虜になりましたね。いまでもふっと思い出しては読み返します。人生で読んだ小説の9割がこれらです。

なぜ自分がいま異世界ファンタジーを書いているのか不思議なほどですよね(笑)。まぁ、中華歴史物も、大きくは異世界ファンタジーと言えるのかなと思って勝手に納得しています。


普段の執筆活動について

――普段はどのように執筆時間を確保していますか?

平日は子供が園に行っている、9時~14時が執筆時間です。それからは家事や送迎などを挟んで、寝かしつけが終わった21時半くらいから眠くなるまで執筆しますね。でも結局子供と一緒に寝てしまって、朝になって自己嫌悪というのはよく起こりがちです(笑)。

また、きっちりこの時間すべて執筆というわけでもなく、ときどき普通にゲームして過ごしたりもします(笑)。土日は基本的に家族とおでかけですね。



――執筆をはじめて数年で書籍化・コミカライズと大躍進されたわけですが、もともとプロを目指して活動開始されたんですか?

きっかけがきっかけで、子供が小学生になるまで、つまり働きに出かけるまでの猶予は4年しかなかったので、最初から結果を出すことを目標にしていました。反対に、結果が出なければ、やめてしまおうとも思っていました。



――はじめから公募などでプロを目指していたんですね。いまはどんなジャンルを中心に執筆されているんですか?

異世界ファンタジーです。その中でも成長譚など希望があるものを書いています。現実じゃあり得ないことを空想・妄想するのが大好きなので、必然的に舞台が現実ではないものを選んでしまいますね。
公募作しか書かないので、自ずとレーベルカラーに合うようなジャンル、もしくは市場需要はあるけど、募集レーベルにそのジャンルの作品が少ないといった「隙間」を狙っていくことが多いです。



――公募作のジャンル選びについてもう少し詳しく教えてください!

そもそも公募で気を付けていることは、まずは、応募要項です。文字数、規定枚数、形式(行×文字数)、必要事項と、基本的な部分は絶対間違えないようにしています。

ジャンルという点だとレーベルカラーです。レーベルが刊行しそうにないジャンルは書かないし、送らないですね。極端な例をあげると、妖ものや純愛が売りのところに、RPGステータスものは出さないなど。 レーベルが持っている読者層から遠い場所にあるジャンルは応募しないです。

▶ 公募で気をつけている基本事項
  • 応募要項をよく読む(文字数、規定枚数、形式(行×文字数)などは必ず守る)
  • レーベルカラーに合うジャンルの作品を応募する(レーベルカラーに合わない作品は応募しない)
  • 市場需要がありそのレーベルではまだ取り扱いが少ないジャンルといった「隙間」を狙う



――公募ベースで執筆するとなると、作品のアイデアも量と速さが必要になりそうです。巻村さんは「プロット月10本、小説月1本」のペースで執筆活動をされているとのことですが、そのペースを支えるアイデアや構想はどうやって生んでいるのでしょうか?

アニソンなどの音楽を聴いているときが一番アイデアが浮かびやすいですね。音楽に合わせて、脳内で勝手にオープニングを作って妄想しています。

もちろんキャラも、音楽に合うようなものを空想で勝手に作り上げて、そこから逆算して「こんなシーンを入れたいけど、そうしたらどんな物語がいいか」って考えます。あとはCMなど、なにげない日常で耳に入ってくる言葉からタイトルを作って、そこから物語を……というのも多いです。
私の作品の設定がバラバラで、流行り物から少しズレているのは、これが原因かもしれません。ネタの着想元が変なんですよ(笑)。

そして思いついたらタイトルだけでも、すぐスマホにメモです! なのでストックだけは多いです(笑)。100以上はあります。


受賞作執筆の裏側・公募作執筆時の戦略

――魔法のiらんど大賞は何をきっかけに知りましたか?

Twitterで第1回「魔法のiらんど大賞2020」の宣伝ツイートが流れてきたのを見て知りました。第1回は小説大賞にアラビアンファンタジーを応募して、最終選考まで進みました。



――その後、第2回「魔法のiらんど大賞2021」に応募されて見事小説大賞を受賞されました。応募しようと思った理由はなんでしたか?

KADOKAWAさんのレーベルが一堂に揃うと聞いたからです。しかも女性向けレーベルを中心に。私の好きなレーベルも参加してましたから、これは出さねば! と。



――魔法のiらんど大賞について何か研究はしましたか? 何か役立ったことはありますか?

第2回「魔法のiらんど大賞2021」については、各ジャンルで明確に求める作品というものが記してあり、それはありがたかったですね。スクショしてプロット作成時など何度も読み直してました。

また私が応募した異世界ファンタジー部門と恋愛ファンタジー部門の違いについて、異世界ファンタジー部門は「恋愛に特化しない」と差異が明記されていたので助かりました。ジャンル選びがまず参加者の第一関門ですから。研究したことでは、普通の公募と同じように、各レーベルのカラーや隙間調べですかね。



――小説大賞受賞作品「萬華宮の男装香療師は、」の着想はどうやって生まれたのでしょうか?

中華物が書きたいというのがまずありました。一番好きな世界観ですし、今まで読んできた小説知識から、世界観構築が最も容易でしたから。

あとは掛け合わせる要素ですよね。私は紅茶が好きで、そこの知識はあったのですが、紅茶だとどうも上手く噛み合わず……。そこから、「中華なら漢方茶」→「いや、それほど要素も資料も多くない」→「医薬系は専門知識がないと危ない」→「いっそ中華とは別要素を」……という流れから、洋風のイメージのあるアロマに辿り着きました。

大賞受賞作「萬華宮の男装香療師は、」
#中華風ファンタジー #アロマテラピー #宮廷

<原作あらすじ>
下民の少女「月英」には秘密があった。秘密がバレたら粛正されてしまう。
だから彼女はひっそりと邑の片隅で、生きるために男装をして姿を偽り、目立たぬように暮らしていた。
しかし、彼女の持つ「特別な術」に興味を持った皇太子に、無理矢理宮廷医官に任じられてしまう!

自分以外全て男の中で、月英は姿も秘密も隠しながら任官された「三ヶ月」を生き抜く。
下民だからと侮られ、医術の仕えない医官としてのけ者にされ、それでも彼女の頑張りは少しずつ周囲を巻き込んで変えていく。
しかし、やっと居場所が出来たと思ったのも束の間――皇太子に秘密がバレてしまい!?
あまつさえ、女だと気付かれる始末。

おや? 何だか皇太子の様子が……? 以前にも増して距離が近い気がする。
だけどそんな事、どうだっていい! 自分の野望の為に、彼女は今日も不思議な術で周囲を巻き込む。

<お知らせ>
書籍版は『碧玉の男装香療師は、 ふしぎな癒やし術で宮廷医官になりました。』に改題のうえ、カドカワBOOKSより2022年秋頃刊行予定!

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――「萬華宮~(以下、略)」の執筆期間はどれくらいでしたか?

構想に半月、執筆に2ヶ月半でしょうか。この作品は結構手こずりました。着想からプロットまでは比較的作りやすくはありましたが、プロット以降は難産でした。

一度9万字書いた後で、6万字消すという暴挙を二度ほどやりましたね。ストーリーも初稿は半ばから全く違う展開でしたし。スケジュールが予定より押してヒーヒー言ってました。いまとなっては、勇気を出して消去して良かったなと思いますが。



――募集期間が3ヶ月だったのであまり時間がない中での英断だったんですね。プロットや展開を膨らませるために工夫したことがあれば教えてください。

構想は何度も練り直しました。展開を膨らませるためにやったことといえば、起きるトラブルを減らす、ということでした。当初はもう少し駆け足で進んでいたんですが、キャラを深掘りする余裕がなく、「これじゃあ、人形だ」と感じての消去断行ですね。なので、膨らませるためにいろいろ詰め込むのではなく、反対に引き算でも膨らますことはできると思います。



――ちなみに巻村さんは、プロットができた後、どのシーンから書きはじめるなどの習慣はありますか?

100%最初からです! 出だしが決まらないと全く先が書けません。私の場合、初っぱなの文体、キャラの口調、シーンの切り取り方、そこでその後の物語の雰囲気や方向性を決めるので、最初がないとブレブレになってしまうんですよ。途中で思いついた良い感じのシーンは、別途先のページにメモ書きくらいはしますけど。



――「萬華宮~」で特にこだわったことがあれば教えてください。

この物語の主軸は主人公の成長なので、そのターニングポイントをいつ持ってくるかは気を付けました。第1回目のとき最終選考に残った作品に対して「主人公の葛藤、懊悩が多すぎる」と選評(※最終選考ノミネート作品の希望者向けプレゼント企画)でご指摘いただいていたので、それを踏まえ、今回の主人公はわりと早めに成長のきっかけを与えました。

あと、これは中華物を書くとき常に注意しているんですが、中華世界観を壊さないように、意味がないカタカナは使わないようにしてます。例えば、プライド→矜持、ガラス→硝子、玻璃などですね。

それと加えて、史実に基づきすぎないようにセーブした点です。史実に基づきすぎると、そことズレた表現や慣習を入れたときに、読者様を混乱させてしまう恐れがありました。あくまでファンタジーなので、造語したり、文化構築など、「これがこの世界だ!」と言えるような世界観を一から構築しました。もちろん歴史を参考にした部分もありますが。

▶ 受賞作を書く上で工夫したこと・こだわったこと
  • 展開を膨らませるために起きるトラブルを減らした(キャラを深掘りする余白を作った。エピソードの引き算でも展開は膨らむ)
  • 主人公が成長するターニングポイントを早めに(以前選評で「主人公の葛藤が多すぎる」とのフィードバックを受けて)
  • 中華世界観を壊さないように意味がないカタカナは使わない(プライド→矜持など)
  • あくまでファンタジーなので、史実に基づきすぎないよう世界観を一から構築



――「萬華宮~」で苦労したことシーンなどがあれば教えてください。また、それを乗り越えた方法があれば教えてください。

主人公の最大の秘密をバラすタイミングは最後まで一番悩みました。結局は中盤に持ってきたのですが、序盤、中盤、終盤、終章、全てにおいて妄想しました。

そこでバラした場合、キャラ達はどんな反応をするのか。そこまでのストーリーはどう変化するのか。読後感はどんなものになるのか。いろいろなパターンを考えて、結果中盤が一番しっくりくるなと。迷ったら、フローチャートなどで全パターン考えるのが結局一番早いんですよね!



――ここまでお話しを伺って、巻村さんはとても論理的かつ客観的に執筆されている印象を受けます。「魔法のiらんど大賞」あるいは「小説公募」であることから戦略的に意識したことがあれば教えてください。

戦略的ですか(笑)。プロの編集の方からすれば的外れかもしれず、誠に申し訳なく恥ずかしい限りですが、一個人の勝手な妄想と思っていただければ……。

昨今の市場では、西洋令嬢物が巨大市場になっているかと思います。とくにWeb小説では顕著だと思います。でも本屋に行ってみると確かに中華物の需要もあるんです。Webでウケにくいだけだと考えて、まずはその隙間を狙いました。和洋中で一番応募が多いのは洋だと思ったので、和か中で、私が好きな中華を選択しました。

世界観が決まったら、次は要素の選定です。まず舞台はやはり王宮、後宮。やはり、煌びやかな世界や衣裳が良いですよね!

また、コンテストということで、ありきたりな作品は選ばれないと踏んでいました。なので、いままでにない特殊要素をと考え、専門知識がない私でもどうにか調べて書けるものを、と考えた先が「アロマテラピー」の掛け合わせでした。といっても、書き上げるために、何十冊とアロマテラピーや薬草の本を借りてみっちり勉強しました。アロマテラピストの方々すごい! ということがよく分かりました(笑)。

ジャンル選択については、私の得意作風がヒューマン系の、キャラの成長譚が多いので、恋愛特化ジャンルより、そこに特化していない異世界の方が良いだろうと選択しました。

あとはやはり文字数と終わり方。本にしやすさ、を考えています。
文字数は基本的に文庫換算で一冊分になるように作ります(10万~12万字程度)。超長編でも、基本的に必ず一冊分の文字数あたりでキリがよくなるように調整します。

そして終わり方ですが、今回はきっちりすべての因果を回収して大団円で終わるのではなく、余韻を残しつつ終わるという方法を選びました。もちろん、ちゃんとオチてこれはこれで綺麗なエンドにはなってます。ただし、繋げようと思えば、いくらでも繋げられる要素は残しつつです。

これは、もし書籍化した場合、売れ行きが良くなく続刊が見込めないとき、「1巻で終わっても不自然ではないエンド」かつ「続刊しようと思ったときは、スムーズに続編が作れるような要素を残したエンド」の両方を満たしたものにする必要を考えてのことです。

▶ 公募であることから意識したこと・戦略
  • 市場全体の中で「隙間」になっているジャンルを探した
  • ありきたりな作品は選ばれない→自分で調べて書ける特殊要素を加えた
  • 文庫換算で一冊分になる文字数を意識した(10万~12万字程度)
  • 書籍化を想定したエピローグ(1巻で終わっても、続刊が出ても不自然でない終わり方)



受賞後の感想・書籍化に向けた作業

――受賞時の感想はいかがでしたか?

「え? ん? は?」と、まさしく漫画みたいな感じでした(笑)。意思確認メールの文面を何度も読み直しました。その後でジワジワと「やった!」と喜びがわき上がってきました。でも大賞受賞ってのは、翌日くらいまで気付かなかったです。喜びで、脳の処理能力が著しく低下していましたね。



――現在はカドカワBOOKS編集部と書籍化に向けた改稿のやりとりを進めていらっしゃると思います。楽しいこと、新たな発見、大変なことなどがあれば教えてください。

大変なことは全くないです! 担当さんから連絡が来るたびに、わくわくしています。改稿指示が明確で、またその指示が客観的根拠に基づいたものなので、ものすごく納得感ありますし、より良いものになっているという手応えを感じることもできます。この担当さんについていけば、大丈夫だな、と現在進行形で全幅の信頼を寄せております。

楽しいことは、やはりイラストが上がってくるときでしょうか。あと、改稿原稿に時折入れられる担当さんの褒め言葉(笑)。

新たな発見は、やっぱり私は選評や指摘が好きなんだなと改めて実感しましたね。自分の中では100%でも、違った視点から見るとまだまだ隙があったり。その隙を気付かせてくれ、「なるほど」と成長の機会を与えてくれる選評や改稿時の指摘は嬉しいものです。新たな視点を増やせることで、次回作にも活かせますし、指摘のある選評は宝だと思ってます。選評は全てスクショして、常にどこででも見返せるようにクラウド保存してます!


――想像以上に緻密に計画しながら執筆されていた巻村さん。公募執筆に役立てられるTipsをたくさんお話しいただきました。この度はインタビューにご回答いただきありがとうございました!


巻村さんの受賞作品は、『碧玉の男装香療師は、 ふしぎな癒やし術で宮廷医官になりました。』に改題のうえ、カドカワBOOKSより2022年秋頃に書籍刊行予定です! ぜひ楽しみにお待ちください。


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その他、魔法のiらんどは創作のためのお役立ち記事を用意しています。第1回魔法のiらんど大賞2020受賞者にお伺いしたインタビューも必見! ぜひお読みいただき、作品のブラッシュアップや執筆活動のモチベーションアップにつながればと思います。



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